第28話 最終テスト
入口を通ってエントランスに出ると、そこには既に大勢の新入生達が揃っていた。わざわざ数えようとも思えないほどに大勢だ。
綺麗に整列などはしておらず、広いエントランスのあちこちにバラけている。
入学式のホールの時と同じく、特訓場のエントランスは喧騒で満ちていた。
天井を見上げると、それは一面ガラスのようなもので出来ていた。そして天井が高い。
壁と床は、共に水色っぽい白一色。外から見た時も妙に真新しく感じたが、最近建て替えでもしたのだろうか。
「やっぱり多いなあ……」
入口の横に移動してから、勇助がエントランスの中を見渡す。
屋内で改めて見ると、新入生の数はやはり多い。異常なまでに多い。
しっかりと全員を管理できているのか不安になるほどに、多い。同級生の名前を全て覚えるのは、諦めたほうが良さそうだ。
「もしかして、またグループ分けとかするのかな?」
つばきの顔に影が差す。
それに次いで、男子陣の顔にも嫌そうな表情が浮かんだ。
「またかよ……」
「この学園って、天井を高くするのとグループ分けをするのが趣味か何かなのか?」
「随分と良い趣味でござるね」
健太の一言に、正義が仏頂面(頭巾のせいで分かりにくいが)になりながら皮肉っぽく返す。
そんな時、エントランスに放送が入った。
《エントランスに設置されたカウンターにより、新入生全員が揃ったことが判明しました。よって、今より最終テストである能力試験の説明を行います》
新入生達の表情が自然と強張る。
いよいよ最終テストである。これを乗り越えれば、遂に本格的な学園生活が幕を開けるのだ。
《第一の試験として、皆さんの持つ能力を見せていただきます。是非とも皆さんの全力を見せてください。五つの観点から採点をし、点数化します。エントランスにある六つの赤い扉の奥に均等な人数ずつ入っていただき、一度におよそ二十人ずつの採点を行います》
要は六つに分かれるのである。効率的な問題からだろう。
《第二の試験は実戦となります。赤い扉の奥でクジを引いていただき、四人一組のグループになっていただきます。人数の足りないグループにはハンデを与えさせていただきます》
吹輝が軽い舌打ちをしたような気がする。
いや、確実にしていた。
《赤い扉の更に奥に、実戦を想定したバトルフィールドへと通じる通路がございます。このバトルフィールドは、勇者育成学園設立当初に能力によって造られたものであり、所謂異空間となっております》
異空間は、場所を取らずに無限に広がる空間だ。
巨大な建物がひしめき合う勇学では、場所の節約として便利なことこの上無いだろう。
《異空間に於ける注意事項は、第二の試験の際に改めてお伝えします。そして第二の試験の実戦は、どのグループとどのグループが対戦を行うのか、既にこちらの方で事前に決めております。あと決めるべきなのは、そのグループのメンバーのみ……ということです》
「どうせなら、グループのメンバーも事前に決めればいいのに」
「完全ランダムだからこそ、味方の能力にどう合わせるかの対応力とか協調性とか、そういうのが求められるんじゃない?」
「そんなところまで見られるのでござるか……」
「ただ単に能力を使うだけじゃ駄目って辺り、流石勇学だね」
健太の素朴な疑問に、勇助が完全なる推測で答える。
正義とつばきもそれに続いた。
勇助の発言は、彼による単なる推測でしかないのだが、もうそれが紛れもない事実のような話しぶりである。
勇助はそのことをさり気なく言おうとしたが、やめた。
学園側がただ能力を見るだけではなく、その奥にある勇者精神も見極める……というのは、充分有り得そうな話だと思ったからだ。
《それではまず、六つの赤い扉へとお入りください。ただし均等に、一つの扉につき二百七十八人程で――》
――分かるか!! 分かってたまるか!!
アナウンスによる爆弾発言に、勇助は心の中で絶叫した。
他の新入生達も、恐らく同じようなことを思っただろう。
アナウンスが終了すると、エントランスの中は一気にざわつき始めた。
「何が『一つの扉につき二百七十八人程で――』だよ!」
「ちょっと似てるのやめて」
アナウンスの物真似が地味に似ている健太に、勇助は危うく吹き出すところだった。
しかしすぐに、どこからか聞こえてきた、名も知らぬ新入生達の呟きに耳を澄ました。
「あれって……」
「モニター?」
「あれ」とはどれなのか。その答えはすぐに出た。
エントランスの壁沿いに取り付けられている、右の壁に三つ、左の壁に三つの赤い扉。
その六つの扉の上には、それぞれ細長い小さなモニターのようなものが取り付けられていた。
液晶に映っている数字は、「ゼロ」。
それをじっと見ていた勇助の頭に、ふと考えが閃く。
「あれ、もしかしたらカウンターか何かなのかも」
「……と言うと?」
正義が不思議そうに尋ねる。
「部屋に一人入るごとに、あそこに映ってる数字が一つずつ増えていくとか……そんな感じかも?」
自信の無さが、語尾の疑問符にそのまま表れる。
しかし、仲間達は勇助の考えに納得してくれた。
「でも、そうでもしないと均等に分かれるなんて無理よね」
「いちいち自分達で数えてたら、日が暮れるもんな」
つばきと吹輝が、顔を見合わせて頷く。
そして、勇助のその考えを裏付けるように、すぐ近くの扉に三人の新入生が入ると、取り付けられたモニターの数字が一気に「三」へと増えた。
「勇助スッゲー! 合ってたじゃん!」
「良かった〜……」
合っていなかったら罰を受ける、などでは無いのだが、とにかく勇助は安堵した。
この事実を受けて、モニターの仕組みを理解した新入生達は、続々と最寄りの扉の向こうに消えていった。
各モニターに表示されている数字がどんどんと増えていき、エントランスの新入生の数もどんどんと減っていく。
「拙者達も急ぐでござる!」
「僕……も行ったほうが良いのかな?」
「取り敢えず、入ってから先生とかに聞けばいいんじゃない?」
「そうだね」
つばきの無難な提案に、勇助が頷く。
早くしないと、五人一緒に同じ部屋に行くことが困難となってしまう。
もう各モニターの数字は、それぞれ二百五十を越えていた。自分もその括りに含まれているとはいえ、新入生達の行動の早さには、目を見張るしかない。
部屋を選り好みしている隙は無いので、とにかく五人は一番近くにあった右側の扉に入った。
その向こうにあったのは、床が木目調になっている広大な部屋だった。
壁は頑丈そうなコンクリートで造られている。
能力によって壁に穴でもぶち抜かれたら困るからだろう。
勇助達は、新入生達による人混みの前の方に出た。
皆揃って座っているので、それにつられるようにして五人も床に地面を下ろした。
二十個の机が間隔を空けて置かれており、それぞれ教員と見られる人がその席に着いていた。
机の上には大きめのコンピューターが置いてある。
緊張の色を見せている新入生達もばっちり揃っている。その中にちらほら見受けられる、余裕そうな表情を浮かべている者達は、相当の実力者なのか、それとも開き直っているのか……。
「バカみてえに広いな」
「バカ言うな」
吹輝を勇助が嗜める。
教員の中の一人、長身な男性教師が席を立つと、部屋の中のざわめきが一瞬で収まった。
その様子に満足したのか、その黒髪オールバックの教師は口角を吊り上げてから口を開いた。
「第四修練室へようこそ。俺は第四グループの能力テストを監督する野々内治、2-E2の担任だ。よろしく!」
一発で、彼の中にある底抜けの明るさが分かる自己紹介だった。
豪快な声色で話す野々内を、勇助は何だか好きになれる気がした。




