第27話 新たな出会い
「見ているだけ」なのは、大抵の場合において実際にやるよりも果てしなく楽なものである。
今回もまさしくそれだった。
二人揃って三分突入直後に脱落した勇助と吹輝は、例の五グループの担当教師にタイムを伝えてから、悠々と試験鑑賞をしていた。
「試験鑑賞」という言葉があるのかどうかは分からないが、とにかくこの状況を一番正確に表しているのはその言葉である。
「うわ、ボール早! あれ避けられる奴ヤバいだろ……」
「待って、見て吹輝! ボールが三つになってる!」
「ホントだヤッバ!」
ワイワイと鑑賞を楽しんでいると、あっという間に五グループは全滅してしまっていた。
最後の一人、やんちゃな雰囲気の漂う男子生徒がボールを喰らって嘆くのと同時に、勇助と吹輝も思わず嘆きの声を上げていた。
「でも、六分二十秒……充分凄いよあの人」
「新入生の中の最低記録とか最高記録とかも知りたいよなー」
「あ、確かに!」
「ま、俺達はまた来年リベンジしようぜ!」
「申し訳ございませんでした!!」
勇助が勢いよく頭を下げると、それを合図にしたかのように、女性教師が口を開いた。
「はい、それじゃあこれで体力のテスト終わります、お疲れ様。この後すぐに能力テストがあるから、一回ここ出て講堂近くの『勇者特訓場』に集合。もうこのグループでは集まりません」
この一言で何人の新入生が安堵の吐息を吐いたのか分からない。
ただ少なくとも、勇助は安心している場合では無かった。
無能力が、能力の試験を受けられる筈が無い。能力を持っていない生徒は勇助だけではない筈だが、どうなるのだろうか。
「タニユウって……能力テストどうするんだ?」
「実は、僕もそれ一番聞きたいんだよね……取り敢えず外出よう」
「だな」
この体育館に入ってきた時と同じように人の流れに逆らうこと無く、寧ろ身を任せながら、勇助達はグラウンドに出た。
一気に身を包む開放感。まだクラス決定試験そのものには全く開放などされていないのだが、少しぶりの青空を拝めるのはありがたかった。
グラウンドの出入口目指して歩きながら、吹輝が勇助に話を振る。
「『勇者特訓場』って、何か凄い設備のあるアレのことだよな?」
「そう。あんまり詳しいことは調べられなかったけど、実戦を想定したバトルフィールドとか試練の間だとか、とにかく強くなるための設備が沢山備えられていて――」
「勇助ー!!」
勇助の説明は遮られた。それも、よく聞き馴染みのあるあの声で。
「健太!」
声の主の名を呼びながら、後ろを振り向く。
するとそこには、お馴染みのメンバーが勢揃いしていた。
健太につばきに正義。ご無沙汰なのはほんの数十分程度なのだが、何故か無性に懐かしく思える。
「何年ぶりでござろうか……」
「いや、会ってないの数十分ぐらいだから」
「元気そうで安心したよ!」
「つばきさんこそ!」
「で、隣にいるの誰?」
「ですよね」
健太の当然極まりない問いに、勇助は素直に同調した。
自分が健太と同じ立場だったとしても、まず同じことを聞くだろう。
吹輝も、それに続くようにして勇助に尋ねた。
「友達?」
「そう。えーっと、まずこっちは笛吹吹輝って言って……」
「よろしく!!」
勇助がたどたどしく吹輝の紹介をする前に、吹輝はもう自分でたった一言の挨拶を終えていた。
健太が早速吹輝のもとに歩み寄って、正義の時と同じ質問をする。
「名前の字って、何て書くんだ?」
「『笛』を『吹く』で『うすい』って読んで、『ふき』はもう大体分かるだろ?」
「あー、『吹く』に『輝く』で『ふき』か!」
「そうそれ!」
「えっ、何で分かんの!?」
勇助が純粋な衝撃を受ける。一発で言い当てるなんて、普通に――いやかなり凄い。
というか、吹輝の下の名前の漢字を勇助は今ここで初めて知った。
「あっ、俺は勇崎健太!」
「私、姫原つばき!」
「拙者は忍正義と申すでござる!」
集合に遅れてしまわないように少し早めに歩きながら、初対面の筈の四人は親しげに自己紹介を終えた。
え、この人達初対面だよね? と、勇助は何度も自問した。
フレンドリーも、ここまで来ると恐怖さえ覚えてくる。
「シノマサって、もしかして忍者?」
「いかにも」
――「シノマサ」に疑問を抱けよ……。
正義が深く頷くと、吹輝の瞳に尊敬の色が浮かんだ。
「マジ!? ってことは分身とかも――あっ、もしかして入学式で分身してた忍者ってお前だったの!?」
「その通り、あれは拙者に他ならぬでござる!」
「スゴッ!!」
場を踊りまくる感嘆符。
一同のテンションの高さと比例して増えていく感嘆符に、勇助は吹輝と初めて会った時の「倍増ハテナマーク」を連想していた。
勇助がそんなことを思い浮かべているとはつゆも知らない健太が、勇助に体力試験の結果を聞いた。
「勇助、体力テストどうだった?」
「本当にフツーだった。何度か死にそうになったけど」
「あっ、あのボールが顔面に――」
「吹輝!!」
勇助は慌てて、人差し指を口の前に置いた。
自分の失態のせいで吹輝に多大なる迷惑をかけてしまったのは本当に申し訳なく思っているが、それとこれとでは話が別だ。
凡人にも、自分のプライド的なものは一応バッチリある。ボールを顔面と腹部に喰らってぶっ飛ばされたなんて話を笑い話のネタとして友人に提供できるほど、勇助は思い切った人間じゃない。
吹輝も、慌てて顔の前でパチンと手を合わせた。
二人の様子を不思議そうな目つきで見る健太達だったが、すぐに話題は変わった。
「能力テストって、どんなことやんのかな?」
遂にグラウンドを後にしながら、健太が皆の顔を見回す。
「能力を解放する、と言っていたでござるが……」
「特訓場でやるっていうことは、新入生同士で戦ったりもするのかしら?」
「僕思いっきり戦力外なんですが……」
勇助が分かりやすく肩を落とす。
ただでさえ能力を持っていないというのに、能力者達に混じって戦えるわけがない。
「要は、全力ぶつけりゃいいって話だろ?」
「今まで使えなかった分、能力使いまくるぞー!」
「いや、健太はちょっと自重して……」
勇助は、控えめに健太を止めた。
彼の能力は、誰かが手綱を握らないと大変なことになる。
「使いまくる」なんてことになったら、本当に洒落にならないことになりかねないのだ。
「俺も攻撃系の能力じゃないからなー……もしバトルとかになったら、ひたすらサポートに回るしか無いな」
「拙者の忍術も、ほぼ隠れたり逃れたりするためのものでござるからなあ」
「そんなこと言ったら、俺の能力だって直接攻撃系じゃないよ」
「一番攻撃系なのは、やっぱり私の能力かな」
「てか、皆の能力ってどんなヤツ?」
「俺のは……」
能力という単語が、場を縦横無尽に飛び交う。勇助はその数を数えてみようと思い立ったが、何故か虚しくなってすぐに諦めた。
◇◇◇
入学式が行なわれた講堂から、およそ徒歩一分。
青っぽいレンガで造られた巨大な建物が、そこに建っていた。
これこそ、勇学の誇る「勇者特訓場」。
勇者として必要な強さを得るための設備が整えられているというが、詳しいことはあまり外部に漏らされていない。
続々とジャージ姿の新入生達が雪崩れ込んでいく、大きめに作られている入口はかなり立派だ。
「特訓場感は無いけどな」
「人は見かけによらぬもの、って言うじゃん!」
「人じゃ無いけどね」
吹輝の率直な感想に、健太がことわざを用いて返す。
その健太の返答に、勇助は呆れながらにツッコんだ。
「では、参るとしようでござる!」
「能力テストも頑張ろう!」
正義の号令、つばきの鼓舞。
一行は大きく頷いてから、揃って勇者特訓場の中に足を踏み入れていった。




