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第21話 in本校舎

「私はね、火と水の属性魔法を使うの。火属性魔法は単純に扱いやすいからで、水属性魔法は私と相性が良かったから。使う属性を絞ったほうが、一つ一つの魔法がより強くなるんだ」

「へ〜……」


 それは知らなかった。

 男子三人組が、感嘆の声に似たものを上げる。

 確かに、色々な属性魔法を覚えてそれぞれ強化するよりも、そっちの方が手っ取り早く強くなれる気がする。


「じゃあ、つーちゃんは火と水以外は使わないってこと?」

「まあ完全に使わないってことでは無いけど、基本はその二つ」


 右手の指で「二」という数字を表して掲げながら、つばきが健太の疑問に答える。

 気になっていたことが明らかになって、勇助はどこか胸のつかえが取れた気分だった。


「ありがと、突然変なこと聞いちゃってごめん!」

「全然大丈夫! いざっていう時、お互いの能力(チカラ)のことをちゃんと知っておかないと困るからね!」


 右手で表した「二」をそのままピースサインにして勇助の方に向けると、つばきはお得意のスマイルを浮かべた。

 一言で言うのならば、可愛い。


「次は体力試験でござるか……これは自信があるでござるよ!」

「だろうなー。正義、足超速いしめちゃくちゃ運動神経良さそう」

「それほどでも無いでござるよ!」


 正義はそう言いつつも、勇助の素直な賛辞にかなり分かりやすく照れている。感情が読み取りやすい人ばっかりだなあ、と勇助がふと思った。

 ポーカーフェイスよりはよっぽど接しやすい。


 そんな調子でとりとめのない話を続けている内に、四人は本校舎前に着いていた。

 本校舎の出入口前にある、十段も無いほどの横に大きい石で出来た階段の前に並び、巨大な校舎を揃って見上げる。

 初めて本校舎を見た時には、その大きさにばかり目がいってしまっていたが、近くで見ると出入口付近だけでもかなりイイ感じだ。

 健太は思わず、校舎が持つ迫力に気圧されてしまった。


「スッゲー……! これは……正面から入っていいんだよね?」

「駄目なら駄目って言われるから、大丈夫!」


 勇助はそう言い切ってから、申し訳程度に「多分」と付け加えた。

 ふと周りを見ると、階段の前(しかもど真ん中)で堂々と立ち止まっている皆を華麗に回避しながら、生徒達がどんどんと本校舎に真正面から入っていた。

 ならば、心配する必要ナシ。


「よっしゃ行こう!!」

「でござる!」


 自分の自信を奮い立たせるように、勇助がそこそこの大声で宣言する。

 正義の「でござる」がこんなにも頼もしく感じたのは、今回が初めてだった。




   ◇◇◇




「更衣室ってどこだっけ?」

「入ってすぐの階段を上がってすぐ横!」

「『すぐ』ばっかだな」

「利便性とかも考えられてるんじゃない? 分かんないけど」


 健太が、分かっているのか分かっていないのか判断の難しい「へ〜」というような声を出す。

 石造りの階段を上りながら、勇助は小さくため息を吐いた。


 新入生が入学したての四月〜五月、本校舎の中での迷子者は爆増するという。

 そんな先輩達の二の舞を踏まないよう、しっかりと頭の中に叩き込んだ勇学MAPを有効活用しなくては。


 短い階段を上り終え、例に漏れず開け放たれている観音開きの巨大な木製の扉と向き合う。

 扉の向こう側には、薄い黄色の壁に囲まれた巨大な円形の空間――本校舎のエントランスが見えた。

 床は全体的に白っぽく、ちょうど中央に描かれた巨大な円から放射線状に線が広がっているデザインだった。

 豪華な装飾の施された、大きな柱も数本立っている。


 目の前のエントランスから伸びている通路は、こちらから見えるもので計二本。

左に進んでいる通路と右に進んでいる通路の二本だ。

 左通路の入口の上には盾のオブジェ、右通路の入口の上には杖のオブジェが、それぞれ飾られている。


 お目当ての「入ってすぐの階段」は、右通路と左通路のちょうど中間にあった。

 階段の上の方の壁には、剣のオブジェが飾られている。

 横に広めの緩やかな階段で、上りきった後は左右に伸びる二階の通路にぶつかるという造りになっている。

 その造り上、階段を上ってすぐの筈の更衣室もここからは見えない。

 事前情報によれば、あれは「中央階段」と呼ばれており、左通路を進んだ先には「左階段」、右通路を進んだ先には「右階段」があるとか。

 毎度毎度名称が分かりやすくて助かる。


 ――ここが、勇者育成学園の本校舎……!


 形容し難い感慨と抑えきれない高揚を胸に抱きながら、勇助――そして仲間達は、本校舎に足を踏み入れた。

 

 見上げると、壁の高位置には鮮やかに彩られたステンドグラスで出来た窓が幾つもあった。

 ステンドグラスのモチーフは、あのオブジェと同じく剣・盾・杖。

 壁の高位置には格子状の窓も幾つかあり、エントランスを陽の光で満たしている。

 中央部分には、鎧に身を包んだ男が剣を掲げている、勇ましげな雰囲気の立派な銅像も建てられていた。この銅像は、「初代勇者」なのだそうだ。

 そしてやはり、天井が高い。校則の一つにでもなっているのだろうか。


 思わず足を止めてエントランスに見入る新入生達。

 勇助らも、その例外では無かった。


「素敵……!」

「あの窓も何かスッゲー! あれ、何て言うんだっけ……スタンドグラス?」

「ステンドグラス、だから」

「ヤバいでござる! ヤバいでござるよ!!」


 正義の興奮はまさしく頂点に達している。

 いや、もしかすると越えてしまっているのかもしれない。

 入ってくる生徒達の邪魔にならないようにしっかりと移動しながら、勇助がエントランスに感銘を受けるついでにツッコむ。


「いや、もう本当スゴ……。 ――ていうか、忍者も『ヤバい』とか言うんだ」

「拙者は現代浸透型の忍者なのでござる」


 ――いやあ、現代に馴染もうとする努力とかが全然見えないんだけど……。特に見た目……。


 勇助に、頭巾の辺りを穴が空くほどジロジロ見られているのに気付いた正義が、怪訝そうな表情を浮かべる。

 表情と言っても、見えるのは目だけなのだが。


「拙者の頭巾がどうかしたでござるか? もしや、何か汚れでも?」

「いや、別にそういうわけじゃ……」

「ならば良かった。この頭巾は、拙者が毎日手洗いしているのでござる」

「えっ? マジ?」

「マジでござる」


 正義が大きく首を縦に振る。

 そこは「いかにも」とか言えよ、と勇助が心の中でツッコむ。

 二人が話している内に、中央階段に向かって駆け出していた健太がこちらを振り向いた。


「階段何段あるか数えようぜ!」

「いいねいいね!」

「それはいいでござるな! 実は拙者、『階段の段数数えカウンター』というものを持ってきていて……」

「何だよそのカウンター!! 時間無いから!!」


 不服そうにぶつくさ言いながら、健太が皆の方――というよりつばきの方に戻ってくる。

 正義は、取り出しかけていた「階段の段数数えカウンター」を鞄の中に再びしまい込んだ。

 勇助はそれがどういうものなのか少し気になったが、尋ねるのはまた別の機会にすることにした。

 その機会が来るまで、カウンターのことを覚えていたらの話だが。

 健太は、懲りずに次なる提案をする。


「なあなあ、誰が一番――」

「競争はやらないから」


 みなまで言わせることなく、勇助が健太の提案をバッサリと切り捨てた。

 何の慈悲も与えることなく、冷淡にバッサリと。


「次は体力テストなんだし、あんまり体力を消費し過ぎないようにしないと」


 健太が分かりやすく拗ねる。

 しかし、これでようやく階段を普通に上り始めることが出来た。本日既に三回目となる競争が実施されることも無く。


「新入生、やっぱり多いなあ〜……」


 階段を上がるにつれて視線が高くなると、視界に入る人数も自然と増える。

 勇助がチラッと後ろを振り返ってから、実に平凡な感想を漏らすと、つばきも「本当ね!」と頷いた。


「やっぱり、勇者の素質を持ってる人が年々増えてきてるってことかしら」

「学園長も、今年の新入生は何か違うと仰っていたでござるなあ」

「毎年そんなこと言ってたら困るけど、あの学園長そういうタイプじゃなさそうだし」


 正義と健太も、つばきに続いた。

 もしや学園長のあの一言も、新入生のやる気を引き出す為なんじゃ……という考えが勇助の頭の中をよぎったが、すぐに首を振ってその考えを追い出した。

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