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第13話 怪獣事変

「実は怪獣騒ぎと並行して、ホールの中ではちょっとした『モンスター騒ぎ』も起こってた」

「『モンスター騒ぎ』?」


 四人の声がぴったりと揃う。

 モンスター騒ぎとはどういうことなのか、皆の頭上に誇り高げに浮かぶハテナマークは一層大きくなった。


「どこからか現れたのかは分からないけど、突然ゴブリンとかスライムとかの低級(ザコ)モンスターがたくさん現れて……。強さは全然なんだけどなにしろ数が多いから、片付けるのに時間がかかったんだよね」

「成程……怪獣に立ち向かう者達が途中から減っていたのは、そういうことだったんでござるな」


 正義が、腕を組んでうんうんと二回頷く。

 勇助も納得した。生徒達が散らばっていた原因は、まさしくこれだったのだ。

 途中から戦力が「対怪獣」と「対モンスター」に二分されていたのならば、確かにそれも当然のことだ。

 にしても、全くモンスターの存在に気付けなかった。


「全然気付かなかった……」

「怪獣のことで、頭がいっぱいだったからかしら」


 健太がそう悔しげに言うと、つばきも人差し指を顎に添えて考えを巡らせた。

 男子生徒が、宥めるような声色になる。


「全部瞬殺だったらしいから、気付かなくても無理ないんじゃない?」

「そっか〜……」


 男子生徒にフォローを入れられても、まだ健太の眉は下がったままだ。

 少し離れたところから「タケルーッ」という声が聞こえた途端、男子生徒はハッとした表情になった。


「じゃあ、友達が呼んでるから……バイバイ」


 男子生徒改めタケルが、こちらに手を降ってから友人のところに駆け出していく。

 四人も手を大きく振りながら、それを見送った。


「……全部瞬殺、か……」


 タケルの後ろ姿が完全に見えなくなってから、勇助が小さなため息を溢す。

 あの怪獣とのバトルは、恐らく弱点を突かない限りは全く有効打を狙えない、明らかに気勢をそがれてしまうものだった。だからこそ、他の生徒達の強さというものがあまり分からなかった。


 しかし、そんな反則級の仕掛けがしてあった怪獣とは違い、低級モンスターとのバトルは実に単純明快である。

 攻撃力がいくら低かろうが、ゴリ押し通せば勝ててしまう――その程度の強さだ。

 それ故に、戦う者の強さがかなり分かりやすく浮き出てしまう。

 要は、倒すのが早ければ早いほど強いのだ。

 「スライムをどれだけ早く倒せるか」という世界大会まで開かれているほどである。


 今年の新入生は、本当にかなりスゴイのかもしれない。


「強い人ばっかりってことね……!」

「埋もれてしまわぬよう、頑張らねば!」

「だな!」


 ――超プラス思考……。

 三人の向上心の強さに、勇助はただただ脱帽するしか無かった。

 しかしすぐに、先程までの異常事態の根本にツッコんだ。


「――ていうか、本当に何で怪獣とモンスターが現れたの? ツッコミどころ多すぎない?」

「先生も全然出てこなかったし……」

「まあ、この世界は何でもアリでござるからなあ」

「あっ、もしかしてさ、魔王の陰謀とか!?」

「んなわけないでござるよ」


 正義が健太の思いつきを完全に否定した時、突如ホールにゆったりとした拍手が響き渡った。

 嬉しげなざわめきは完全に消え、生徒達は揃って拍手の主を探した。

 だが、それを特定するのは簡単だった。


 今の今まで戦場と化していたステージ付近は、怪獣が好き勝手やってくれたためにほぼ壊滅状態だった。

 しかし、辛うじてステージの前端部分は生き残っている。

 拍手が聞こえてきたのは、ちょうどその辺りからだった。


「皆さん――実に素晴らしい」


 スローペースな拍手の主――それは、勇者育成学園の学園長、サタナス・フィランソロピーに他ならなかった。


「…………!?」


 頭が完全に状況に追いつかない。追いつこうとしない。

 一体どういうことなんだ、今ここで何が起こっているんだ。

 生徒達の状況整理もままならないまま、サタナス学園長はおもむろに口を開いた。


「やはり、今年の新入生は想像以上でした。ここらで種明かしと行きましょう」

「種明かし……!?」


 勇助は、頭の上に浮かぶハテナマークがぐんぐんと際限なく膨張していくかのような感覚を覚えた。

 恐らく、この場の全生徒が同じような感覚を抱いていることだろう。

 席に座っている者、勇助達のようにステージ付近に立っている者、端の方に座り込んでいる者、通路を塞ぐように立つ者……立っていようが座っていようが関係なく、次の瞬間には、全新入生を巻き込んだ巨大なざわめきが巻き起こった。


「お静かに願います」


 サタナス学園長がそう言いながら微笑を浮かべると、ホールには一瞬で静寂の帳が降りた。

 優しげな微笑みにも関わらず、その奥には押し潰されてしまいそうな圧を感じる。

 これこそ、魔王の血を引く所以なのだろうか。


「入学式に、何の前触れもなく怪獣が現れる――常識の範疇ではありませんよね。それも当然。今回のこの『怪獣事変』は……」


 新入生達が戸惑った表情で、多少の誤差はありながらも大まかに、揃って息を呑む。

 すっかり沈黙に支配されたホールに、サタナス学園長の声はよく響いた。


「――全て、試験の一環だったのですよ」

「…………」


 空気が凍りついたかのような、深く濃い沈黙の霧がホールに立ち込める。

 しかし、一瞬でその霧は晴れた。


「ええええええっっ!?」


 ホールには、先程までの静寂と取って変わって新入生達のどよめきが充満した。

 至極当然である。

 あの怪獣騒ぎは、全て学園側によって仕組まれたものだったということだ。

 しかも、サタナス学園長はあれが「試験の一環」だと言っている。どういうことなのか、今のちょっとした説明では全くピンと来ない。


「勿論、先程の試験だけではクラスは決まりません。しかし、あの怪獣への対応の仕方で加点が付く……という仕組みになっています。積極的に戦闘に参加したりサポートをしていた生徒はE(エリート)クラスに入る確率が少し上がり、逆にただオロオロしていただけの生徒はN(ノーマル)クラスに入る確率が少し上がるのです」


 勇学については他人に引かれるほど調べ上げていた勇助でも、これに関しては全く知らなかった。

 完全なる抜き打ちテストということだ。

 ステージが空けてあったのは、怪獣が現れる時に、ステージ上にいた人が被害を受けないようにするため。

 来賓がいなかったのは、何らかの被害を受けてしまわないようにするため……というわけだろうか。

 にしても、怪獣を出すのは少しやり過ぎだと思うけれど。


「試験を意識しない素の状態で、緊急事態に『勇者』としてどのような行動が出来るか。今回はそれを見させていただきました。また、この簡易試験は、勇者育成学園の一種の伝統行事となっております」

「だから先生達は何もしてなかったのかー……」


 健太は納得顔である。

 成程確かに、先程のような状況では、生徒のありのままの姿が見られるというものだろう。


「あの怪獣は、うちの教員の能力(チカラ)によって生み出されたものです。あの能力(チカラ)の絶対的な弱点をしっかりと見抜いた方もいるようで、良かったです」


 サタナス学園長は、そう言いながらホールの左端の方に視線を投げた。

 もしかするとそこに、「弱点をしっかりと見抜いた」学がいるのかもしれない。


「この半壊状態のステージも、復元能力を持った教員がいるのですぐに元通りになります。因みに入学式を開くにあたって、新入生の君達を綺麗な状態で迎えるために、この講堂にもその能力(チカラ)を使っていただきました」


 復元、それ即ち何かが元の状態に戻ること。


 ――そっか、講堂がヤケに綺麗だったのはそういう……。


 勇助が一人で勝手に納得する。


「じゃあ、例のモンスターも先生達が用意したもの……ってこと?」

「多分」


 思わずつばきから視線を逸らしながら、健太が頷く。


「皆さんの活躍ぶり、実に見事でした。そしてお疲れ様です。午後に控えているクラス決定試験の方でも、是非全力を尽くしてくださいね」


 サタナス学園長が爽やかにそう締めると、久方ぶりのアナウンスが聞こえてきた。


《新入生の皆さん、お疲れ様でした。入学式を続けますので、席にお戻りください》

「まだ続けるか!?」


 見上げたすぐ先にサタナス学園長がいるこの状況で、大声ツッコミは出来ない。

 勇助は、隣にいる健太とつばきでさえ聞き取りづらいほどの囁きツッコミを人知れず終えた。

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