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第11話 フォーメーションA

「そういえば君、名前は?」


 男子生徒は一瞬たじろぎを見せたものの、すぐに答えた。


「――生真(しょうま)(まなぶ)です!」

「頑張ってくるね! メガネ君!!」

「え、今名乗りませんでした?」



   ◇◇◇



 メガネ君――もとい学の名前を聞き終え、四人はようやくステージ(戦場)へと駆け出していった。


「行くぜ! フォーメーションA!!」


 健太は先ほどからやけにテンションが高い。

 仲間と共に戦うというシチュエーションが、楽しくて仕方がないのだろう。

 彼の能力(チカラ)は色んな意味で少々厄介なため、仲間と力を合わせて共闘する機会は少ないのだ。


「Bあるのかよ……」


 勇助は、健太とは正反対に沈んだ面持ちである。

 よく分からない武器擬きを渡され、能力者達と怪獣との戦いに今まさに巻き込まれようとしているのだから、当然と言えば当然だ。


 ――僕が行く意味って何なんだろう……戦闘能力皆無なのは僕もなんですけど……。


 勇助が、今にも足を止めたい気持ちを何とか我慢する。

 正直、行っても足手纏いになる自信しか無いが、反対向きの鱗を見つける手助け程度ならば出来るだろう。流石にそれぐらいは出来ると信じたい。

 何か自分にできることをやらなければ、皆の役に立たなければ。


「勇助ー! 尻尾ここ!」

「オッケー!」


 怪獣が持つそこそこ大きい尻尾に掴まろうとしている健太に手招きされ、勇助は迷いなく走り出した。

 一面びっしりと、青い鱗が生えている。

 しかし鱗は大きめだったのでその分個数は少なく、件の鱗を探すのにそう難儀はしなさそうだ。


「じゃあ僕は付け根の方から探すから、健太は先っぽの方からお願い!」

「了解!」


 勇助と健太は頷き合うと、それぞれ持ち場の鱗に目を通し始めた。

 ――しかし怪獣は絶賛戦闘中のため、大人しくその場に止まっていてくれるはずもない。

 それゆえに、尻尾はブンブンと動く。どこまで見たのか分からなくなる。

 勇助は、思ったより早く終わるかも、と思った五秒前の自分をぶん殴りたい衝動に駆られた。


「動くなってのに!!」


 健太は分かりやすく怒っている。

 一方周りで戦う生徒達は、この二人が何をしているのか皆目見当もつかず、不思議そうに彼らを見ていた。


「健太、そんなに怒鳴ったらバレ……」


 る、と言い終わることはなかった。

 ぐるりと頭を回した怪獣と、目が合ったのである。

 恋も何も始まるわけがなく始まってほしくも無いが、とにかく勇助は心の中でひっくり返って叫んだ。


「たじゃーん……」


 もはや手遅れ。

 勇助はいっそ笑ってしまおうかとさえ思った。

 怪獣が幾度めかの咆哮を上げる。尻尾が震え、それに掴まっていた健太の体も震えた。

 そんな時、救世主が高らかに現れた。


「こっちでござるよ! 『分身の術』!!」


 どこからともなく聞こえる正義の声。

 「分身の術」という胸躍るワードに、健太がハッと顔を上げた。

 勇助が、今響き渡った声の主である正義を探そうとしたが、それには及ばなかった。


 突然、数十人ほどの正義が宙に現れたのだ。

 固まる生徒達、そしてこれには流石の怪獣も動きを止める。ここだけ時間が止まったかのようである。


「スッゲー!! ねえ、見た見た!? 正義増えたの見た!?」

「見た! 見たってば!!」


 尻尾に乗り上げて勇助の方へ近付くやいなや、健太が興奮に身を任せるままに彼の肩を掴んでブンブンと振った。

 勇助にとっては迷惑極まりない。

 いや、正義の今の技――もとい術は確かに「スッゲー」のだが。


「――じゃなくて! 正義の術は確かにスッゲーけど、今絶好のチャンスだから!!」

「あ、そっか!」


 健太を少々強引に突き放してから、勇助が言う。

 健太もすぐに納得した。

 怪獣の動きが止まっている、それ即ち尻尾の動きも止まっているということ。

 勇助の言葉通り、今は絶好のチャンスなのである。

 正義が折角切り開いてくれた突破口を無駄にすることなど、出来ない上に許されない。


「あ、あの〜……私も何か手伝いましょうか……?」

「あっ、じゃあ鱗を探してください! 他のものとは反対の向きをしている鱗!」

「じゃあ俺も探す!」

「僕も!」


 ――といった具合で、戦いを遠巻きに見ていた者達の中から、あっという間に五人ほどの協力者が現れてくれた。

 流石勇者の卵が集う勇者育成学園、困った人を捨て置けないのだろう。

 「何故鱗を探すのか」などの質問もせず、黙々と作業に打ち込んでくれているのはありがたい。


 思いもよらぬ「分身の術」に思わず動きが止まっていた生徒達も、また攻撃を再開した。

 的は大きい上に動かない。千載一遇の好機というやつだ。


「ストップ! 止まるでござる! こっちでござるよ!」


 ここで再び正義の声が響いた。

 なるほど確かに、怪獣が再びこちらを向いている。

 ピンチ再来である。

 正義は、必死に怪獣の意識をこちらに戻そうと試みる。


「こっちでござる! ほらポチ!!」

「コイツ絶対ポチって顔じゃないだろ!!」

「逆にポチ顔って何だよ」


 珍しく、勇助と健太のポジションが逆転した。

 勇助はたまに訳の分からないことを言い出すので、その時は健太がツッコミ役に回らなければいけないのだ。


 そんな訳の分からぬポチ論争をしている間に、怪獣が大きな口を開いた。

 その奥からは、盛大に燃え盛る炎が見える。

 また火炎放射をするつもりなのだ。

 先程は結構距離があったために、喚いたりしていても正義に吹っ飛ばされて助かったが、今回のこの距離は明らかにマズい。


 ここで飛び出して来たのはつばき。

 逆向き鱗探し隊の前に出てくると、自信満々に勇助達の方を振り返った。


「大丈夫! 私に任せて」


 親指を立てて、ウインクを決める。

 なかなかに破壊力のあるコンボだが、勇助は耐えた。健太は無理だった。


「でもあの火炎放射、かなりヤバめだったけど……」

「私だって魔法使いの端くれだもん。火力は断トツなんだから!」


 ここまで言われてしまえば、これ以上食い下がることはできない。

 勇助はつばきを信じ、グッと親指を立てた。

 何か激励の言葉をかけようとしたが、上手いこと言葉が見つからない。下手によく分からない言葉を言ってしまわないよう、結局親指を立てるのみにしておいた。


 このやり取りの間に、怪獣の火炎放射準備はすっかり整ってしまったらしい。

 尻尾――というより勇助達目掛けて、口から二度目の火炎放射を放った。

 勇助の目が思わずそれに釘付けになる。

 つばきは、短く且つ大きく息を吐いてから、両の掌を炎に向けた。


「アクアウェイブ!!」


 つばきの掌から放たれた巨大な水の波動は、見る間に炎を飲み込んで揉み消した。

 勇助が思わず目を剥く。数拍、呼吸という概念すら忘れてしまったほどだ。

 健太の目がキラキラと輝いて、「つーちゃんスッゲー!」とお決まりのセリフを言っているのが視界の隅に映っている。


「当たった……」


 つばきは安堵の吐息を漏らしてから、小さくそう呟いた。

 勇助が、興奮赴くままに声を上げる。


「つばきさん……メチャクチャ凄い!!」

「そんなことないわ! 自分の弱点がある尻尾に向けて吐いたんだから、きっと威力は相当弱めてあるはずだもん」


 つばきは即座に否定した。

 しかしその顔には、少し嬉しげなはにかみ笑いが浮かんでいる。


 怪獣の動きが再び止まった。

 できればこれで終わりにしたい。


「セカンドチャンス! 一気に終わらせるぞー!!」


 健太が、そう叫びながら拳を突き上げた。

 彼のテンションは今、最高値に達している。

 つられて叫びそうになった瞬間、勇助の視界を『お目当てのもの』がよぎった。

 そう、よぎったのだ。正確には、動いたのは勇助の方なのだが。


「……えっ?」


 そこには確かに生えていた――反対向きの鱗が。


「…………!!」


 声を出そうにも、うまく言葉が見つからない。

 この場合何て言えばいいんだ。無難に、「見つかったぞーイェーイ!!」なんて叫べばいいのか。分からない。


「あ……ありました!!」


 やっとのことで絞り出せた言葉は、何故か敬語。

 鱗を見失ってしまわないように、しっかりと片手の指で例の鱗を抑えている。

 因みにもう片方の手には、健太に渡された武器的な何かをしっかりと握りしめていた。


 鱗を探す理由を知らない――というか聞かされていないボランティア達は、軽めの歓声を上げている。

 一方、鱗を探す理由を完璧に把握している面々は、飛ぶや跳ねるやの大騒ぎだ。

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