第10話 作戦会議
――正義との一悶着でちょっと忘れかかってたけど、このホール怪獣いるんだよな……いや何でいるんだよ……。
ホール中の生徒達が、各々心の中で十数回はツッコんだであろうことに、勇助は再びツッコミを入れた。
しかし今は、いくらツッコミを入れていても仕方がない。いるものはいるのだ。目の前で起きている出来事を否定できるはずがない。
「っし、俺も絵を――あれっ? 画材どこ行った〜」
健太が意気込むが、絵の具やパレットを今持っていないことにすぐ気付いた。
ホールの通路に置いておいたままだ。
先回りして画材を隠すべきか否か、勇助が割と真剣に悩む。
しかし健太は駆け出してしまったため、勇助は先回りすることを諦めた。疾走状態の健太に追いつくのは不可能である。
「因みに、拙者の能力は『忍術』でござる。定番の忍術は大体使えるでござるよ」
「定番のって……忍者本人がそれ言っちゃダメでしょ」
さらっと自らの能力の説明をする正義に、勇助もさらっとツッコミを入れる。
「固いことを気にしてはいけないでござるよ、勇助殿」などと言いながら、正義はスタスタとステージの方へと歩いていく。
つばきも当然のようにそれに着いていくのを見て、勇助は一瞬躊躇ったものの、すぐにそれを追った。
「厄介なのは、体を覆っているあの硬い鱗ね……守りが固くて、いまいち決定打になってない感じ」
「弱点を突かねば、でござるな」
つばきと正義が言葉をかわす。
しかし、弱点を突くといってもどうやって? 残念ながら、勇助達は弱点を見抜く術を持っていない。
怪獣に勝つのが絶望的だと思い始めたのか、戦闘を放棄する者も出て来た。
怪獣と戦っている生徒の数が少なくなり、何故かホール中に散らばり始めている。
「あの〜……」
こうなれば、弱点を見つけるまで攻撃を喰らわし続ける……ぐらいのことをやらなければならないのかもしれない。
「すみません!」
「はいっ!?」
勇助が、多少大袈裟と言えるほどに肩を震わせる。
――声を掛けられた。自分が。
そう認識するのに使った時間、約二秒。
勇助の様子がおかしいことに気付いたつばきと正義が、こちらにやって来た。
声を掛けて来たのは、背が低めの男子生徒だった。
何となく地味な雰囲気を覚える。クラスに一人はいる、教室の端っこで静かに読書をしているようなタイプだ。
特徴といえば少し大きめな眼鏡と、制服の上に羽織っているこれまた大きめな白衣だろうか。
眼鏡レンズの反射で、こちらからは彼の目が見えない。
「えーっと……?」
「――実は僕、怪獣の弱点分かったんですよね」
「…………えっ?」
男子生徒の放った衝撃的すぎる一言に、三人の声はぴったりと揃った。
脅威のシンクロ率である。それも仕方ないか。
「それ本当!?」
「は、はい……。僕の能力は、この眼鏡を通して見た者の弱点が分かるというヤツでして」
つばきの勢いに若干圧されながらも、男子生徒は俯き気味に自らの能力について話し始めた。
「怪獣にも使えるかは分からなかったんですが、幸いにも弱点が判明し……戦っている人達に伝えようとしたのですが、全く聞く耳を持ってくれなかったんです。皆さんなら何となく聞いてくれる気がして、それで……」
「それで弱点は!?」
まどろっこしくなったのか、正義が結論を急かす。
男子生徒は「あ、すみません!」と一言謝った後、怪獣に生えている尻尾の方を指さした。
「尻尾部分に生えている鱗の中に、一つだけ他と反対の方向を向いているものがあるんです。それをめくったところにある核のようなものを攻撃すれば、アイツは恐らく一発でやられますね」
「…………一発?」
「恐らく」
男子生徒が頷く。今までのどこか自信なさげな態度とは打って変わって、自信に満ち溢れているといった感じだ。
勇助は、少し肩の力が抜ける感覚を覚えていた。
「一発て……今までの苦労……いやまあ僕は苦労してないけどさ」
「自分で行こうとしたのですが、流れ火の玉を数発喰らってしまったために……諦めました」
「何故諦めるでござるか!!」
――正義アツいなあ……。
「じゃあ、早速やりましょうか! ――相手が弱点をみすみす狙わせてくれるはずも無いから、ここは誰かが囮になるとか……」
「では、拙者が! 『分身の術』を使って引き付けるでござるよ!」
「本当にいいの?」
「無論でござる!」
「ありがとう正義君! ファイトだよ!!」
つばきがガッツポーズを取って正義を鼓舞したところで、健太がこちらに駆けてきた。
皆が何か行動を起こそうとしていることを勘付いて、急いでやって来たようである。
彼が持っているのは……かなり細長い手裏剣のように見える。しかし角の部分が丸くなっており、殺傷能力があるようにはとても見えない。
「何か面白そーじゃん!」
「健太、それは?」
勇助が、健太の持っている手裏剣(仮)を指さしながら尋ねる。
健太は少し不満げな様子をあらわにした。
「えーっ、見て分かんない?」
「ごめん、全然」
「剣だよ剣! さっき描いてきたやつ!」
「――えっ?」
一同の目に、揃って困惑の色が浮かぶ。
どんなに想像力豊かな者であろうと、健太が手にしている物体を一発で「剣」と言い当てられることは不可能であろう。
それほどに、健太の描いた「剣」は、驚くほどに「剣」では無かった。
「描いた、とは?」
健太の能力を知らない正義にとっては至極当然の疑問である。
勇助がごく手短に説明をした。
「健太の能力は、『描いた絵の現実化』ってヤツなんだ」
これだけ言えば、余程鈍い者では無い限り、事情を容易く察することができるはずである。
正義は、勇助のその期待を裏切らなかった。
「な……成程」
正義が健太に向ける視線に、憐れむような同情の色が混じったように見える。
かなり分かりやすい「能力の持ち腐れ」ケースを見てしまったのだから、ついそうしてしまう気持ちも少しは分かる気がする。
「あっ、そうだ! じゃあ勇助にこれやるよ!」
「えっ?」
ここ最近で一番、腹の底から出した「えっ?」だと思う。
話の繋がりが見えてこない。「じゃあ」って何だ、「じゃあ」って。
今までの会話のどこをどう解釈すれば、「じゃあこれやるよ」ということになるのか全く分からない。
「勇助は能力無いし武器も無いから、これで戦えばいいかなーって」
「あ、ありがとう……。にしても『じゃあ』じゃないだろ……」
健太から、よく分からない剣(健太談)を手渡された勇助。
しかし、どう活用していいものか全く分からない。使用用途がこんなにハッキリしない武器は、これが世界初なんじゃないかと思えてくるぐらいだ。
せいぜい、出来ても振り回して威嚇を狙うかブーメランのようにするかぐらいだろう。
だがこれで威嚇される生物がいるかどうかはかなり怪しいし、投げたとしても二メートルほどで墜落する気がする。
――え、ガチでこれどうしよう……。健太に貰ったし無下にできないよなあ……え、マジでどうしよ。
剣(健太談)の使い道を、恐らく生みの親である健太より真剣に考えている勇助の隣で、作戦会議は進んでいる。
「じゃあ、正義君と私が怪獣の気を引き付けてる間に、勇助君と健太君が弱点を狙いに行く……って流れでいい?」
「異議なーし!!」
つばきの最終確認に、健太と正義が意気揚々と答える。
熟考していた勇助も、慌ててそれに合わせた。出遅れたせいで、「なーし!!」ぐらいしか言えなかったけれど。
「皆さん、頑張ってきてください……! 僕は戦闘能力皆無なので、応援することしかできませんが……」
「君のおかげで怪獣倒せたよ! ありがとう!!」
「無理やり終わらそうとするな」
「ていうのは冗談で、弱点教えてくれてありがとう!!」
この状況を和ませるためなのか、素の発言なのかは本人のみぞ知るといったところだが、とにかく健太は冗談を一発かました。
「では、参ろうでござる!」
「オー!」
正義とつばきの気合いは充分だ。
作戦を実行に移そうと、皆揃って駆け出……そうとしたが、勇助は足を止めて男子生徒の方を向いた。




