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第十五章 三獣士現る!

「せーんぱい!」

 俺を呼ぶ声がする、松下だ。

「今度いきたいお店あるんですけどまた一緒に来てくれませんか?」

 なんだか前の飲み会以来妙になついてきている。

「あ、割り勘で大丈夫なんで!」

「まぁ俺は払っても問題ないけどさ。」

「いいんですよ先輩!」

 なんだか今までよりも明るくなった気がする。

「どのみち今週末は例の飲み会だろう?」

「先輩と二人がいいんです!」

「いいねぇ、若い二人は。僕はお小遣い制だからあんまり外食出来ないんだよね。」

 寂しそうに話すのは係長、お子さんの学費の為に節約しているのだとか。

「俺も時間があれば一緒に行きたいんだかな!」

 がははと笑いながら話すのは所長、年末に向けて最近忙しない。

 かくいう俺達も決して暇なわけではない。年末には岡見さんのところでも忘年会が開かれてそのために大量の発注がかかる。主任になった以上それに見合う仕事をしないといけないのだ。

 時は十一月の上旬、怒濤の年末に備えて力を蓄えないといけないのだ。


「ジロウさんどうですか今日の御飯!寒くなってきたので父の得意料理のサムゲタンを作りました!」

 楽しそうに話すのは上新井。

「確かに体が暖まるなかめちょん。」

 今では俺も彼女をかめちょんと呼んでいる。そもそもこいつは本名がややこしいのだ。

「えへへ!それはよかったです!」

 嬉しそうに話すかめちょんもすっかりうちに馴染んでしまった。

「なんなら私を暖めてくれてもいいんですよ?」

 そういう彼女は前よりも明るい。前から明るかったがそんな気がする。

「はいはい、布団にでもくるまってろ。」

「あージロウさんのいけず!!」

 その分前より面倒になった気もする。

「前みたいに頭撫でてくださいよー!!」

「…はいはい。」

 イデアの話を聞いて以来かめちょんはそれを要求してくる。

「えへへ!」

 撫でてやると猫みたいに喜ぶのだ。

「やっぱりジロウさんはお父さんの素質がありますよ!」

 意味のわからないことをいう。

「…程々にしてくれ。」

 俺だって独身男性だ。今までたいして意識してなかったがこの図々しい女に興味がないわけではない。

「なんならもっと激しくしてくれてもいいんですよ!」

 しかしそうゆうのはよくないと思うのだ。


 その理由はイデアだ。

 彼女と真剣に向き合うためによそ見をせずに彼女を見てあげる必要があると俺は考える。


「もージロウさん!」


 例え仕事が忙しくても。


「私ってそんなに魅力ないですか?」


 例えこのうっとおしい女に可愛いげがでてもだ。


「…もしかしてホモなんですか?」

「…違うわ!!」



 俺達の都市巡りは二つの試練を乗り越え残るは二つ、つまり半分を過ぎたと言ったところだ。

 俺達は〈パンプキンジャングル〉を静かに通っていた。

「見て見てジロウ!変な花だよ!」

 野生のハナカマキリをつまみ上げイデアは笑う。カマキリなんだから危ない気もするがイデアに摘ままれたそれは抵抗する素振りを見せない。かめちょんから聞いた話ではNPCがイデアに危害を加えないようチートコードが仕込まれているらしい。

 前までは先を急ぐばかりで気付かなかったが今の俺達はイデアとの旅を楽しみ緩やかに進んでいる。

「イデアちゃん危ないよ!」

 危なくないことはわかっているけどかめちょんは注意する。やっぱりお姉ちゃんのつもりなのだろう。

「ジロウ、イデア!こっちにも色々虫がいるわ!」

 辺りに生えるカボチャを角で持ち上げナチュラルは声をかけてくれる。するとコオロギやキリギリスが姿を現す。

「しっかし先週の騒ぎが嘘のようですな、ジロウの旦那!」

 気が付けばタカちゃんも俺達に同行し二本の鉤爪を地面にたてながら俺の隣をついてくる。余計なジョークを言わないところから兄の方だと察せられる。

 この森は先週まではハロウィンイベントで盛り上がっていたがイベントも終わり閑散としていた。先週はコスプレ大会やら期間限定NPC「ジャックオランタン(を被ったブルドック)」も出現したりと忙しなかったのだ。

 まぁそれはそれで楽しい思い出になった。それはいいのだ。


「へっへっへ、見つけたぜウルフライダーズ!!」


 俺達の後ろから声がする。烏の烏龍だ。

「またあんた達?雑魚の相手は勘弁なのだけど。」

「雑魚とはなんだ雑魚とは!」

「てめーなんか怖くねぇや!」

 烏龍の後ろにはいつぞやみた鳥達がいる。ハンターコミュニティ「烏合衆」の面々だ。


「おいおい烏龍よぉ、そいつらは俺達の獲物だぜ?」


 「烏合衆」とは別に森の茂みから声がする。ゆっくりと現れるのは体長一メートル程のワニ、コビトカイマンのハングリー。本来のコビトカイマンはもう少し大きいのだが彼なりのこだわりなのだろうか?

「あ、前の闘技大会でジロウさんが秒で倒したやつですね!」

「う、うるせぇ!!今回はちゃんとチームで来てるんだ、負けやしねぇ!!」

 ハングリーの後ろからぞろぞろと動物が現れる。その群れは蛇やトカゲ、コモドオオトカゲと言った爬虫類で構成されている。

「あれはゴロツキの集まり、スケイルチームズですぜジロウの旦那。悪い噂が多いぜ。」

 タカちゃんはそういってにやっとする。また面倒なのが出たな。


「まてまて、ウルフライダーズは我らが討ち取る。」


 今度は左の林から別の動物が現れる。この中でも一際大きい獣、ヒグマだ。

「一匹狼のジロウ、角の悪魔ナチュラル、お二人の命もらい受ける!」

 ヒグマの隣から渋い声で現れたのはレッサーパンダ、その隣にはシロクマもいる。

「おっと今度は熊手道場だ。やつらは動物の姿でカンフーの達人らしいぜ。」

 妙に嬉しそうにタカちゃんは説明してくれる。お前はそのためについてきたのか?

「私達すっかり人気者になっちゃいましたねジロウさん。」

 何故かかめちょんも嬉しそうだ。目立つなって話はどこへいったんだ?

「しつこい雑魚は嫌いなんだけど?」

 これだけの大勢を前にしてナチュラルは強気である。まぁぶっちゃけナチュラルだけでもこいつらは倒せる気がする。

「お友達が一杯だね!!」

 イデアも状況を理解していないのか、いや理解した上で楽しそうに喋る。

 なぜならここのところずっとこうなのだ。


「へへ、テメーらには多額の懸賞金が掛かっているんだ!」

「おおよぉ、それでいて色んな都市を暴れまわって調子にのっているようじゃないか?」

「故に狙われるのは至極当然。観念するがいい。」


 まるで打ち合わせでもしたかのように息のあった三チームのリーダー達はそのメンバーと共に俺達を囲んでくる。

 …はぁ、イデアと遊ぼうと思ったらこうやって毎回邪魔が入る、一体何なんだ。


「ファッキンジャープ!!」


 なんか気付いたらストロンガーも混じってるし何がなんだか…。


「おやおや、騒がしいじゃないかジロウ?」


 俺達を取り囲む集団の外側から新たな声がする。

 その獣は青い眼光をこちらに向けて静かに歩いてくる。

「あ、あれは!?」

「まっまさか!?」

「何故奴らがこんなところに!?」

 俺達を取り囲む集団はざわつき、俺達に近付く奴らに道を開ける。

「…あ、あなたは!?」

「白いおじさまだ!」

 かめちょんとイデアの視線の先に現れたのは白い虎、ホワイトタイガーの老虎だった。


「お前達の雇い主のことは知っている、邪魔だから失せなさい!」


 老虎の右隣で叫ぶのは大きな二つの牙を持つ獣、かつて地上を駆け巡った絶対的捕食者、幻獣種スミロドン、通称サーベルタイガー。


「それでも残るというのなら、私達が遊んであげよう!」


 老虎の左隣で叫ぶのは全長八メートル、その巨体で全てを飲み込む爬虫類の王、オオアナコンダ。


「最初にボスのおやつになりたいのはどこのどいつだい!?」


 老虎の前に現れて叫ぶのは小さな体ながらもライオン等の天敵と互角に渡り合う世界で最も勇敢な動物、ラーテル。

「や、やべぇ、パワーオブメタルズの三獣士だ!!」

「奴らは一匹でコミュニティを二つ三つ潰してきたんだぞ!?」

「それにリーダーの老虎まで一緒だと!?」

「こんなの敵いっこない!!」

「に、逃げろ!!」

「ウ、ウホー!!」

 俺達を囲っていた動物達は散り散りに去っていく。

 突然現れた強者達を前に連携も何もあったものではないのだ。

「邪魔したねジロウ。お嬢さん達もお元気そうで何より。」

 老虎は俺達に向かってにっこりと微笑みかけてくる。

「いえ、面倒事が減って助かりました。」

「そうです!かっこよかったです!」

「うん!すごかった!」

「…あんな奴ら私一人で十分だったけど感謝しとくわ。」

「いやー、三獣士の皆さんに会えるとは感激だぜ!」

 俺達が口々に感想を伝えると老虎の前にいるラーテルが口を開く。

「全く騒がしい連中だ!俺達は偶然ここを通っただけなんだ、勘違いすんなよ!」

 ふんっと言ってそっぽを向く彼からナチュラルに近いものを感じる。

「おいテルー、リーダーの友人に対してそれは失礼でしょう!」

 ラーテルを叱りつけるのはサーベルタイガー、見た目の割に綺麗な女性の声だ。

「そうだぞテルー、お前は落ち着きを持ちなさい。それだから主が手を焼くのだ。」

 サーベルタイガーに加担するのは隣の大きな蛇。チロチロと舌をのぞかせ辺りを警戒しているのが伺える。

「すまんなジロウ、こいつはこうゆうやつなのだ。勘弁してやってくれ。」

 老虎も苦笑いしながら話す。

「まぁうちにもうるさいのは一杯いるんで気にしてないですよ。」

「ジロウさん誰のことですか!?」

「あたしじゃないですよね先輩!?」

 うるさい二人はほっておいて俺は老虎と話を続ける。

「老虎さんこんなところに来てどうしたんですか?」

「なぁに、ハロウィンのサバイバルマッチついでに勧誘に行こうと思ってね。」

 …まさかまた俺を?

「はは、違うぞジロウ?君が今お嬢さん達の相手で忙しいのは私も承知している。君を誘うのはまた今度だ。」

 老虎は穏やかに笑いながら話を続ける。

「今私がスカウトしたい人が二人いてね、彼らを訪ねているのだ。」

 老虎がパワーオブメタルズを率いるリーダーとして優れているのは、勿論戦闘面もだがそれよりもスカウトマンとしての才能があることだ。この多くの獣が軒を連ねるゲーム内で最強を維持しているのは常にその人の適正を見極める采配と強い仲間を引き込む説得力にあるのだ。

「今欲しいのは〈森の番人〉と〈冥府の悪魔〉だ。君達も都市巡りをしているのだから会うかもしれないね。」

 それだけ言うと老虎は三獣士に合図をだし移動を始める。

「私達はもういくよジロウ。いずれまた会うだろう。」

 嵐のように現れて静かに去り行く白い虎はわかれ際にまた一言言い残していった。


「空には気を付けなさい。君達の進む先に幸福のあらんことを。」

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