第十六章 森の番人
「兄貴、いいんですか?」
コビトカイマンのハングリーの隣でコモドオオトカゲが問いかける。
「仕方ないだろうチルド、一匹狼に角の悪魔、おまけに三獣士まで現れちゃかないっこねぇんだ。」
命からがら逃げ出したスケイルチームズの面々は〈パンプキンジャングル〉を離れ話し合っていた。
「でもですぜ兄貴、奴らずっと一緒にいる訳じゃないですしセーブのためにどっかで休むはずですぜ。ログアウト中は襲えなくても起動直後の隙を襲えば楽勝!これが俺達のやり方じゃないんすか?」
コモドオオトカケのチルドはリーダーのハングリーにいつもの作戦を提案する。
「…確かにそれが俺達のやり方だが今回は話が違うんだチルド。」
ハングリーは目を細めていう。
「今回の依頼は奴らを倒せばいいってもんじゃないんだ。」
「どうゆうことなんですか兄貴?」
「…お前は気にしなくてもいいんだよ。とにかく前金もたっぷり貰ってるしおいしい仕事なんだ。」
それだけいってハングリーは身震いをする。
「それに今回の雇い主は三獣士よりもよっぽど恐ろしい連中だ、余計な真似をすれば俺達が潰されちまう。」
「…だ、誰なんですそいつは?」
「あぁやつらはなぁ…。」
「つきましたねジロウさん!三つ目の都市グリーンホスピタル!」
老虎とあった週の週末、俺達は三つ目の都市へとたどり着いた。俺達の前には端の見えない巨大な城壁がありその中央に巨大な門がある。
「…言われなくてもわかってるわよカメレオン。」
俺の頭の上に強い視線を送るものがいる。
「…別にあなたには言ってませんけど!」
かめちょんも彼女を睨みかえす。
なんだかよくわからないが今かめちょんとナチュラルは仲が悪い。昨日のオフ会を経てから妙にいがみ合っているのだ。
かめちょんの念願であったイデアを除く俺達大人全員での飲み会は昨日行われた。俺個人は普通に楽しい飲み会だったと思うのだがどうにも二人は出会った瞬間から敵対の意を示していた気がする。
「くく、修羅場ですなジロウの旦那!雌鳥歌えば家は滅ぶっていいますし旦那が仕切るべきですぜ!」
なんだかよくわからないことわざを使うところからして今日のタカちゃんは妹の方だろう。
「喧嘩はダメよ二人とも!」
二人の制裁をイデアがしてくれる。この中で一番幼いはずのイデアが一番しっかりいるのだ。
俺はため息をつきながら巨大な門を見つめる。グリーンホスピタル、このゲームで最大の人口を誇る都市。恐らくここでの試練が最も困難なものになる。
「むむ?入国希望者か?」
門の前に隊列を組んで見張りをする動物がいる。ミーアキャットだ。
「私達長に会いに来たんです!〈たからもの〉の件と言えば連絡があったはずです!」
かめちょんが直立する兵士に答える。
「うむ、長より連絡は受けている。そちらの子犬がそうなのだな?」
向こうもどうやら俺達の素性を知っているらしい。
「ではそこの子犬、それとそこのカメレオンのみ入国を許可する。」
ミーヤキャットは俺達にそう伝える。
「待ってください!残りの三人も私達の仲間です!全員通してくれないんですか!?」
かめちょんが抗議の声をあげる。
「…貴様ここがどこだか知らない訳ではあるまい?」
目付きを尖らせミーアキャットは俺達を睨んでくる。
まぁ正直こうなることはわかっていた。
「ここグリーンホスピタルはプレーヤー間での戦闘絶対禁止、草食獣限定の王国なのだぞ!!」
このゲームには数多くのコミュニティがある。それらは様々な動物達が参加して作り出すものだが時として解散することもある。その主な原因がメンバーの全滅だ。
弱肉強食のこのゲームでプレーヤーが死亡してしまうことは日常のように起こることなのだ。だが一度倒れてしまうと全てのアイテムを失って倒れた場所とは別の場所にランダムにリスポーンする。それ故にコミュニティの拠点から遠く離れたところに現れたりしてしまい、元居た場所に戻るのに多くの労力が要求される。勿論硬い結束で何度やられようと元のメンバーと合流するコミュニティもあるがそうでない場合はその場でコミュニティを脱退し新しい生活を始めることになる。
ここグリーンホスピタルではその心配がない。このゲーム最大の人口を保つこの街の秘密は徹底した戦闘排除にある。
現実社会ではそうそう出来ない命のやり取りが出来るこの世界においてプレーヤーを襲うプレーヤーも数多く存在する。勿論俺もそうだしナチュラルなんか特にだ。
そんな戦闘面を楽しむ人以外に社会の喧騒から離れ動物として静な生活を望む人達もいる。彼らが集まり静かな生活を守るために作った王国こそこのグリーンホスピタルだ。パワーオブメタルズが強い街、スカイフロントウェアが賑やかな街ならばここは安全な街なのだ。
しかしその安全さを守るためにこの街には厳しい規則がある。最も有名なものとして肉食動物など街の住民に危害を加える恐れのある動物の排除だ。要するに名のあるハンターである俺とナチュラル、ついでにタカちゃんはまず正攻法ではこの国に入れないのである。
「みんなが一緒じゃなきゃやだ!!」
俺達は結局門を通れず門から離れて壁の外で立ち往生していた。
「私はジロウと一緒に外で待っててもいいけど…。」
「イデアちゃんが一緒にいきたいっていってるんだからみんなでいくんです!!」
「それじゃあ〈たからもの〉が手に入らないじゃない変色女!!」
「うるさい角女!ジロウさんと二人きりになろうたってそうはいきませんよ!!」
「なんなんだお前ら…。」
「旦那はモテモテだな!一石二鳥ってか、鳥だけに!」
争う二人をよそにタカちゃんはにやにやと楽しそうだ。
「もー喧嘩は駄目よ!」
再びイデアが仲裁に入るまで彼女達の罵倒は続いた。
「こうなったらジロウさん!私の奥の手を使います!」
かめちょんは妙に張り切って話す。
「なんだよ奥の手って?」
「ふっふっふ、イデアちゃんを守るために私に隠された秘密のスキルです!」
そういえば前の試練でもなんか言ってたな。
「まずジロウさんイデアちゃんと私を乗せたままそこの角女に乗ってください。」
「な、何よ急に恥ずかしいじゃない!!」
驚き顔を赤くするナチュラルにかめちょんは対し強い口調で続ける。
「うるさいわよ発情鹿!早くジロウさんが乗りやすいようにしゃがみなさい!タカちゃんさんは適当に角にでも乗ってください!」
「なんですってチビトカゲ!」
「…今日の二人はおっかないなぁジロウの旦那。」
「…そうだな。」
とにかく俺達はかめちょんの指示通りナチュラルの背にのりまるでブレーメンの音楽隊のように積み上げられた。
「いいですね皆さん!これから私のスキルを発動します!!」
そういってかめちょんは声をあげる。
「スキル発動!!平凡な見せかけ(ミラージュアワー)!!」
恥ずかしげもなくそう叫ぶと変化が現れる。
俺の下にいたナチュラルの姿が消えたのだ!
「すごーい!浮いてる!」
「すげえやかめちょんの姉御!」
「なんなの?何が起きたの?」
「…どうなってるんだかめちょん?」
視界には俺達の姿はないのに自慢げなカメレオンの声が聞こえてくる。
「ふふっ、これは私だけに特別に許された透明化のスキルです。」
「さっきからスキルとか言ってるけど動物の本来持ってる能力以外このゲームにないだろ?」
「これはこのゲームの開発段階でボツになった特殊能力技能のデータを流用して私だけに備えられた能力なので知らないのは当然ですよジロウさん!!」
相変わらずこのゲームは身内贔屓なゲームのようだ。
「とにかくこの能力を発動している間は私に触れている動物、そしてその動物に触れている動物は他の動物から視認されません!」
俺の好きな自然界は本当にどこに行ったんだ!
「ただ見えなくなっているだけなのでものにも動物にもぶつかりますし対象外の動物にぶつかると透明化は解除されてしまいます。」
「でもぶつからなければ時間制限もありませんしこれで門番に気付かれずに街に入れるはずです!!」
かくして俺達はナチュラルの背に乗ったまま門へ向かうのであった。
「お、一匹通りましたね!門が開いてる今がチャンスです!」
「言われなくてもわかってるわよ!」
俺達は門番の隙をつき侵入を試みる。さっきのミーアキャットは俺達に気付いていない。なんだかズルい気がするがこれならいけそうだ。
「おい、チャーリーなにか物音がするぞ!!」
俺達が門の前に差し掛かると先程のミーアキャットと別の声が聞こえてくる。
「姿は見えないが私の聴力が何かを感じ取った!」
門の裏手から新手が現れる。
大きな耳をピンと建てたアナウサギだ。
「本当かロメオ!そこに誰かいるのか!」
さすがはこのゲームで一番安全な街、セキュリティもざるではないようだ。
俺達の居場所にロメオと言われたウサギが突っ込んでくる。
「ど、どうしましょうジロウさん!!」
こうゆうときのかめちょんは頼りない。さっきまでの威勢はどうしたのやら。
「仕方ない、ナチュラル一旦退くぞ!」
「わかったわジロウ!」
「イデアしっかり捕まってろ!」
「うん!ジロウ!」
俺はナチュラルから飛び降りて門の外にでる。ナチュラルもウサギの突進をかわし、タカちゃんも飛び上がる。
「…困りますよ、不法侵入は。」
俺達が離れかめちょんの能力が解除されてしまいミーアキャットとアナウサギは俺達を視認する。
「こうなったら正面突破よジロウ!こいつらぶっ飛ばして入りましょう!!」
ナチュラルも彼らと距離をとりながらも角を構える。
しかし駄目だ、ここで戦うのはよくない。
「また不法侵入か?この前うるさい虎を追い返したばかりだと言うのに。」
地面に地響きが走る。
門の内側からそれはやって来る。
「おやおや、大物登場みたいですぜジロウの旦那!」
段々と近付いてくるそれは大きな首を俺達に向けている。
「…な、なによこいつ!?」
体長約九メートル肩高約五メートル、ナチュラルの倍以上はある。途中であった三獣士のオオアナコンダも全身を伸ばせば八メートルあるがこいつは見たまんまでかい。
「じ、実物でみると迫力が違いますね。」
「すーごいおっきい!!」
この街が安全なのは街を守る番人達がいるからだ。
「…一匹狼と角の悪魔か、お互い有名人は辛いよなぁ。」
かつて存在した陸上最大のほ乳類。サイの仲間にあたるやつの名は幻獣種パラケラテリウム、旧名をインドリコテリウム。
扱いの難しいその巨体を使いこなし全てを凪ぎ払う謎のトッププレーヤー、彼のニックネームは「パパ」。
「…出来れば会いたくなかったぜ。」
またの名を「森の番人」。




