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突撃!侍女仲間の妹の婚約者

「ということで、クラリスの妹の婚約者を探ろうと思います」

「いやなんでよ!」

「アイゼンバーグ公爵家のミュリエル様のご意向です」

「だからなんでよ……」


侍女仲間、クラリス・ムーサルク子爵令嬢が力なく項垂れる。

気持ちは分かるが、こればかりは仕方ない。


「ミュリエル様に侍女仲間の恋愛話を求められたので、クラリスの妹さんの話をしました」

「うちの妹は侍女ではありません」

「この場合、要なのは面白さだから所属の厳密さは求められてないわ」

「遠回しに断ってるんだけど?」

「私は遠回しじゃなくても断れないんだけど?」

「それはそうだろうけど……」


クラリスが渋面になったのを見て、シャーロットが間に入った。


「クラリス、妹さんも悩んでるって言ってたでしょう?ミュー様は確かに面白いから指示を出されたけど、巡り巡って妹さんのためになるならいいと思うの」

「シャーロット……」

「私達が調査しなかったら、そのうちミュー様がムーサルク家に乗り込んで来るわ」

「なんでよ!」

「「面白そうだから。」」


私達二人がキッパリと言い切ったため、クラリスはテーブルに突っ伏した。

人間、諦めが肝心だと思うよ。



「それにさ、やっぱり気になるわよね『病弱な幼なじみ』って。どれくらい病弱で、どれくらい親密なら婚約者を放ってまで看病に行く訳?」


純粋な疑問として提示すると、先程までとは違った意味でクラリスが渋面になる。


「……頻度は月二くらいよ。でもそれがほぼ妹との約束に被るから、相手はそちらのお見舞いを優先するの。病弱さは知らないけど、別に不治の病でもないし余命わずかな訳でもないと思うわ」

「そりゃそうね。家にいるんでしょう?」

「もちろん」

「幼なじみの方は、貴族なの?」

「一応男爵家らしいわ。あまり裕福でもないらしいけど」

「そちらの方と婚約はしなかった?」

「幼なじみも彼も、兄がいるわよ。跡は継げないの」

「ん?クラリスの妹さんと婚約してるのは?」

「うちは母方の爵位もあるのよ。母が一人娘で。父には兄弟がいるから婿養子と言う手もあったんだけど、色々考慮して妹が母方の爵位を継ぐわ」

「あら」


背景に納得。

幼なじみと彼が結婚しても、行く先は平民だ。

クラリスの妹さんと結婚するなら、例え爵位が低かろうと貴族でいられる。



「……それ、サイアク妾として住まわせるとかあるんじゃないの?」

「それか結婚した後に乗っ取り?」

「怖いこと言わないでよ……」



情けない顔をされるが、否定出来ないってことは可能性ありだ。


「妹さんの方から断るのは?」

「今のところ、幼なじみのお見舞い以外は普通だからね。それを理由とするにはちょっと足りないのよ」

「蔑ろにしてる、って判断にはならないの?」

「一応、予定をキャンセルした後に謝罪の贈り物が届くから」

「あら。抜かりないわ」

「それ、妹さんはどう思ってらっしゃるの?」


コテン、とシャーロットが首を傾げた。

まあそうね、本人の気持ちを知りたいわ。


「そろそろ愛想を尽かしてるようね。婚約して二年経つんだけど、最初はもちろんそんな風じゃなくて仲良くしてたわ。でも半年過ぎた頃に『幼なじみのお見舞い』が入るようになって、妹も体調不良なら仕方ない、お大事にって伝えてたんだけど、あまりに度重なってくるもんだから腹が立ってきたみたい」

「婚約者にですか?」

「都合良く体調不良を引き起こす幼なじみと、分かってるんだか分かってないんだかホイホイお見舞いに行く婚約者の両方よ。何より、婚約者と会う約束をして準備してるのにそれを突然キャンセルされたら、予定が全部なくなるのよ?時間を返せって思わない?」

「あぁー」

「思いますね。それ、約束自体はなしにならないんですか?」

「婚約者としての責務になってるのよね。どうせお見舞いに行くんだからなしにしましょう、って提案しても『次こそは大丈夫だよ!』って言い張るんですって。お前の次っていつだよ、と妹は申しておりました」


最後の丁寧語が怒りを表してるわー。


「それ、ご家族は?」

「薄々?さっきも言ったとおり婚約解消の理由としては足りないから、ヘタに刺激しない方が良いのかしら……とか。案件だけ見たら、お見舞いに行くなとも言い辛いじゃない?」

「単体ならそうですけど、回数重ねたらわざとじゃないですか」

「もちろん、私も妹も故意であることは疑ってないわ。ただ、『そう言う偶然もある』と言い張られたらそれまでなのよね」


やり辛いわね、病弱な幼なじみへのお見舞い。

いっそお見舞いと称して浮気でもしてたら、婚約破棄も簡単でしょうに。


「エステル、どうする?ここまでの経緯で、いったん報告しちゃう?」

シャーロットに問い掛けられ、ふむ、と考えた。

詳細は聞けたけど、これからどうなるかが読めないとなると報告としては未完成よね。

せめて、婚約継続か破棄かどちらの可能性が強いかくらいは推測を告げたい。


「……クラリス。次の妹さんと婚約者の予定はいつか分かる?」

「定例だもの、決まってるわ。二週間後よ」

「じゃ、その日に合わせて三人で休みを取りましょう」

「「は?」」


ポカンとするシャーロットとクラリスに、私はニッコリ微笑んだ。



「実際に妹さんとの約束を反故にするか見届けて、さらに幼なじみの家でお見舞い()()してるのか見に行きましょう。その方が手っ取り早いでしょ?」



後で「ミュー様みたいな発想力だった……」とシャーロットに言われた。

失礼な。



◇◇◇◇◇◇◇◇


渋るクラリスに「妹さんが嫌がったら無理に同席はしない」と約束し、家へと連絡を取ってもらったところ、妹さんのセシリス嬢は大変乗り気だった。


「これで婚約が解消になるのなら望むところです!少なくとも、キャンセルの連絡を自宅で待つ無為な時間がなくなりますもの」


むしろこっちが引き気味になるくらいの意気込みだ。

拳を握り締める妹に対して、クラリスがため息をつく。


「あなたはどうしてそう、前のめりに考えるの……」

「前のめりにもなりますわ!この婚約が解消していれば、今頃わたくしとの縁が結べたかもしれない令息たちが、次々に婚約を発表して!これでもしあの幼なじみがいいご縁で繋がりでもしたら、わたくし憤死してしまいます!」

「そんな大袈裟な……」

「幼き頃から優秀な婚約者とラブラブなお姉様にはわかりません!」


セシリス嬢の発言に、私とシャーロットはクラリスに注目してしまう。

クラリスは一気に真っ赤になった。


「ちょ、ラブラブとかやめてよ!」

「本当のことですわ。と言うより、わたくしとアーノルド様との仲に比べたら、普通の恋人や婚約者は大抵がラブラブです」

「それはそうでしょ」

「比較対象が間違ってるわ……」


姉は額を押さえているが、私としてはこの妹さんに共感出来る。


「エステル様、シャーロット様、どうかご協力をお願いします!わたくしに新しい人生の道をお示しくださいませ」


ウルウル、キラキラとした目で見詰めてくる。

少し演技入ってるっぽいけど、これで自分のテンションを高めてるのかな。



「ちなみに、どんな条件なら婚約者と幼なじみを許せると思う?」

「彼女が不治の病で、残り余命が一ヶ月切ってたら許します。」

「生きてる限り許す気がないじゃないの……」

「お姉様、それだけわたくしの時間を奪い続けた罪は重いということです」



そんな話をしていると、ノックとともに使者が入ってくる。


「セシリスお嬢様、本日のご予定についてアーノルド様より……」

「あーはいはい。キャンセルね。今日はなんのお見舞い?」

「……胸が苦しい、とのことですので」

「胸が苦しいって訴えてる女性の元へお見舞いって、何するの?触診?」

「エステル!」

「いや、本当何しに行くのって純粋な疑問」

「見るんですか?撫でるんでしょうか??」

「セシリスっ!」


クラリスとシャーロットの目が、『ヤバい奴が二倍になったぞ』と危惧を抱いてる。

大丈夫、本当にヤバいのは私じゃないから。


セシリス嬢がすくっと立ち上がった。

以前はキャンセル予想だったので部屋着で過ごしてたらしいが、今日はバリバリ令嬢の余所行きスタイルだ。



「それでは皆様!わたくしの婚約者が本当に幼なじみの元へお見舞いに行ってるのか、()()()()()()してるのか、見極めに参りましょう!」



突撃!侍女仲間の妹の婚約者。

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― 新着の感想 ―
胃薬要る?
婚約者に愛想尽かして面白い性格になってる妹が面白い件。三回ほどすっぽかした時点でこの縁談はなかったことにとか言われて押しきられても仕方ないですよね。妹さんの我慢強さと言うか、父親の優柔不断な判断が酷い…
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