侍女仲間の妹の婚約者の病弱な幼なじみ
今回、エステルの恋愛観を書いてみましたが私自身にはさっぱりわかりません。なのでこちらに関してはノーコメントですm(_ _)m
あと、馬車の速度は時速5〜10kmくらいらしいです。
さてさて。
婚約者からの使いを帰して、そのまま四人して馬車に乗り込んで幼なじみ令嬢のいる男爵家へと向かった。
馬車の中で悲痛な顔をしてるクラリスに対し、セシリス嬢は私やシャーロットに色々と質問している。
王宮での働き方や婚約者との関係や、私の夜遊びについてなどなど。
「エステル様は、恋多き女性なんですねえ!」
「そういう表現になる?でも私、二股掛けることはしないわよ。今の恋人がもうダメかな、と思ったら次へ向かうだけ」
「次へ向かう前に別れるようにしなさいよ、エステル」
「早いか遅いかの違いじゃない?」
「全然違うわ」
シャーロットには呆れられたけど、私の中ではそれくらいの差だ。
例え次の人とうまく行かなくても、今の恋人とは別れる。そのまま引き摺ったりしない。
「あと、恋人がいる男性にばかり声を掛けるのも自重した方がいいわ」
「そう言われるけど、恋人がいるって時点で何かしら長所があるってことでしょう?私以外の人が『いい』と思う所がある男性に目が行くのは、魅力なんだから仕方ないじゃない」
「仕方ないかしら……」
「あくまで『恋人のいる』男性よ?婚約者だったり妻がいる男性には近付かないわ。慰謝料とか請求されたくないもの」
「そこは割り切れるのね……」
もはや不思議なものを見る目だ。
恋人、がほしいのであって結婚相手を探している訳ではない。
家同士の繋がりなんかは、私の気持ちひとつでどうこうしていい問題ではないと思ってる。私はね?
「それで言うと、わたくしの婚約者なんかはどのように感じますの?」
「論外よ。恋人でもないくせに婚約者より優先させる幼なじみってどれだけなの」
「バッサリ行ったわね」
「強請る方も優先させる方も、契約を甘く見てるとしか思えないわ」
「格好良いですわエステル様!」
セシリス嬢が感激したように叫ぶと、クラリスが焦り出した。
「セシリス!エステルの真似だけはしちゃ駄目よ?憧れないでちょうだい!」
「お姉様、心は自由です!」
「駄目ったら駄目!」
憧れ、とか。そんなつもりじゃないんだけどな。
そうこうしてるうちに、目指す家が見えてきた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
幼なじみのいるであろう男爵家の屋敷は、なんだかこぢんまりして見えた。
地方の土地だけは無駄に広い男爵家の造りに慣れてしまってるからだろうか。
普段、貴族街にはあまり赴かないので基準がわからない。
「……男爵家って、こんなもの?」
こっそり三人に聞くと、揃って首を振った。
あ、やっぱり。
先程のムーサルク家と比べてみても、明らかに小さいものね。
「あまりいい経営状態じゃないようよ。王宮で確認したわ」
「元々名のある家って訳でもないしね」
「それで子爵家に喧嘩売ろうとは、いい度胸です」
どうどう、と姉がセシリス嬢を宥めてる。
血の気が有り余ってるわね。
まあでも、このくらいの規模なら話が早い。
少し先の曲がり角、後ろの車輪だけ見える馬車にチラリと目を遣るが、そのまま無視する。
「あ、やっぱり。あそこの馬車、婚約者の家の馬車です」
忌々しげにセシリス嬢が指を差したのは、私が見たのと反対方向に止まっている馬車だった。
なるほど、子爵家の家紋がついてる。
堂々としたものだけど、それだけ疚しくない証拠なのかしら?本気で思ってるなら、愚かとしかいいようがないけど。
「とりあえず、今日も来てることは確定ね。幼なじみの見舞いと称して、遊び歩いてる訳ではなさそう」
「幼なじみと遊んでるかもしれないですけどね」
「セシリス……」
気持ちは分かるが、もう少し取り繕ってもらわないと。断罪するにはまだ早いんだから。
ポンポン、と肩を叩き、先程からたむろする令嬢たちに驚きの目を向ける門番へ声を掛けた。
「ご機嫌よう。こちら、アーノルド・ヒュイズ子爵令息のご婚約者、セシリス様よ。わたくしたちはその姉と、姉の同僚です。本日ヒュイズ子爵令息がこちらへお見舞いにいらしたと伺ったので、わたくしたちもお見舞いに来ましたの。案内していただける?」
◇◇◇◇◇◇◇
ムーサルク子爵家に伝言をしている以上、ヒュイズ子爵令息がこの家に来ていることは確定で。
ヒュイズ子爵令息のお見舞いを受けている以上、私達のお見舞いは拒否できない。
ここで「知らない人にはご遠慮いただく」とか言われたら、人の婚約者と密室で何してんだオイと騒ぐつもりだったが、そこまでの拒否はなくすんなりと屋敷内に通された。
小さめなお屋敷内は、あまり使用人も多くないらしい。
これすなわち、お嬢様と幼なじみ坊っちゃんにも人を付けてないんじゃないの……?
家令に案内されてお嬢様の部屋に向かうと、廊下の時点で楽しそうな笑い声が聞こえた。
「……家の壁が薄いから聞こえる説と、人の婚約者呼び付けるほどの病状なのに廊下まで突き抜ける大声で笑ってる説、どちらの方が不名誉?」
「前者は男爵家の家計への誹謗、後者は令嬢への病状の認識のなさを嘲笑、そんなところですね」
「エステル、セシリス。もうちょっと棘を少なくしてくれる?家令の顔色が悪いわ」
あらごめんなさい。でも事実だし。
クラリス曰く顔色の悪い家令は、少し強めに扉をノックした。
「お嬢様。お客様がいらっしゃいました」
「お客様?予定にないわ、邪魔しないで」
邪魔、とは。
全員で家令を見ると彼は観念したらしく、令嬢の許可のないまま扉を開けて我々を招き入れた。
「ちょっと!入っていいなんて言ってな……え、セシリス様?!」
「ん?セシリス?」
部屋の中にいたのは、胸が苦しい割に家令よりも顔色の良いご令嬢がベッドから身を起こし。
その脇の椅子に令息が座り、こちらを振り向いて驚いていた。
……ご令嬢。顔色がいいて言うか、化粧してんじゃん!
こりゃ完全にアウトだ、と呆れる。
確かにきちんと考えたことなかったけど、自分が具合悪いって時に妙齢の男性を枕元に呼べるか?て話だ。
咳きこめば話すこともままならないし、素顔を晒すし、髪だって寝っ放しならボサボサだろう。
何より、しんどい時に寄り添うだけの存在なんて絶対にウザい。
好意があるならなおさら呼びたくないな、としみじみ思った。
私達女四人は、顔を見合わせ頷きあった。
「クラリス嬢まで……どうしてここに?」
「セシリスとの約束をキャンセルしてまでお見舞いに行くんですもの、そろそろ死期が近いのかと思ってわたくしたちもお見舞いに来ましたの。でもまあ、とっても元気そうね?ご令嬢」
クラリスがニコ、と令嬢に笑顔を向ける。
令嬢は眉を下げ、情けない顔をした。
それを見て婚約者殿は彼女を庇う。
「クラリス嬢、チェルシーは本当に具合が悪かったんです。俺と話をしてたら元気になっただけで、体が弱いことを疑われるのは心外です」
話をしてたら、ねえ。
体が弱い?ふーん。
ふと見ると、シャーロットがびっくりした顔をしてた。
「シャーロット?」
「あ、いえ。ご家名しか知らず、お顔は初めて見たものですから……」
「何が?」
「ご令嬢です。チェルシー様、うちの周り走ってますよね?」
?!!!
なんだって?!
全員でチェルシー嬢を凝視してしまった。
チェルシー嬢は顔を真っ赤にして否定する。
「誤解です!走ってなんかいません!」
「そうですご令嬢、チェルシーは体が弱いんですよ、走ったりする訳ないじゃないですか!」
「そう……ですかね?すみません、わたくしはターレス伯爵家の者ですの。今は王宮勤めなのでしていませんが、学園卒業前までは体力作りのために自宅の庭でよく侍女と体を動かしていたんです。その時に、塀越しによく見た女性と似ていたものですから」
「あの大きな家ーー?!」
あのとか言ってるし。
今の主張も、肺活量すごいし。
シャーリー、ナイス爆弾投下!
脳内でミュリエル様が大笑いしている。
これはしっかり報告しよう。たぶん現実でも大笑いされるはず。
「私、本当に体が弱いんです!走ってなんか……」
「ご令嬢。あなたが走ってるかどうかは、この家の使用人や門番に聞いたら分かることではなくて?下手な嘘はやめた方がいいわ」
「……っ」
クラリスの忠告に、ご令嬢は俯いた。
てゆうか、いくら爵位が低かろうと男爵家のご令嬢が街中を一人で走ってるの?本気?
呆れ果てた目で見ていると、チェルシー嬢は傍らの令息に縋った。
「アーノルド様、私少しでも健康になりたくて、調子が良い時に走ってただけなんです!信じてください」
「あぁ、わかってるよチェルシー。君はいつも『健康なセシリスが羨ましい』って嘆いてるもんな。出来ることからやるべきさ」
「アーノルド様……!」
なんか盛り上がってるし。
もしもしご令息?ここにあなたの婚約者様いらっしゃいますが?
引き合いに出されたセシリス嬢の目が冷ややかだ。
私は気になってたことをシャーロットにこっそり聞いた。
「……ターレス邸って、この家からだとどれくらいの距離があるの?」
「馬車で10分くらい。屋敷の外周も同じくらい掛かるわ」
すると、ターレス家前まで行って帰ってくるだけで往復20分。シャーロットの目撃情報通りなら、家周りを走ってるからプラス10分。
「……元気じゃん」
「そうだと思うわ。見た限りかなりの速さで走ってるから」
「アイゼンバーグ卿くらい早い?」
「そうね、いい勝負かしら」
ぶふ、と吹き出しそうになったので慌てて口を噤む。
よし、ここも報告確定だ。絶対喜ばれる。
「セシリス、見舞いに来てくれたのはありがたいが、何もこんなに大勢連れて来なくても……クラリス嬢はともかく、他の方は?」
盛り上がりが一段落したらしい令息が、ようやくセシリス嬢に話し掛ける。遅っ。
冷ややかな目のまま、セシリス嬢はため息をついた。
「あなたに礼を言われることじゃなくてよ、アーノルド様。シャーロット様とエステル様は、お姉様と同じ職場で働いてらして、本日たまたま遊びにいらしたの。あなたとの約束の前までご一緒してたのだけど、急にキャンセルになったからそれならお見舞いに、と伴ってくださったのよ」
「急に……それは悪かったよ、でも連絡を入れただろう?」
「ええ、来ましたわ。胸が苦しかったのですってねチェルシー様。それでアーノルド様をお呼びになったんでしょう?」
「ええ、そうです。本当に苦しかったのだけど、アーノルド様がいらしてくれたら苦しいのが消えて……」
「そう、それは良かったわ。それで、アーノルド様はチェルシー様に『何を』なさって苦しみが消えたのかしら?」
「「え?」」
セシリス嬢は、先程の疑問をそのままぶつけることにしたらしい。
「触診?視診?治療法は何かしら。薬はアーノルド様に扱えないから、撫でてあげたのかしら?さぞかし優しくしてあげたんでしょうね。恥知らずが」
「セシリス!なんてことを!」
「そんな破廉恥なことしてません!」
「じゃあ何をしたらそんなに元気に?」
「言っただろう!話をしてたら治ったんだ!」
「話をしたくらいで治る病気なんてありません。アーノルド様は教祖か何かですか?神の力でもお持ち?」
「そんな訳ないだろう?!」
「じゃあなんで治ったんですか」
「だからっっ……」
「セシリス様、ひどい言い方しないでください!私本当に苦しくて……」
「チェルシー……」
なにこれ、話が堂々巡りじゃないの。
呆れていると、セシリス嬢が『お手上げ』って顔をした。
よしよし、頑張ったセシリス嬢のために私が一肌脱いであげよう。
「埒が明かないわね、ご令息。ご令嬢。話をしたから治ったと言う。でもそんな力はないと言う。それでも苦しかったのは本当だと言う」
「それは……、でもチェルシーが苦しがったのは本当で」
「本当に、苦しかったんです……!」
ポロポロと涙を溢すチェルシー嬢。
どうでもいいけど、白粉に跡が付くの大丈夫?
私はそこでにこやかに笑い掛けた。
「ですからね?この際、きちんと診てもらいましょう。チェルシー嬢が本当に病弱なのかどうか」




