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侍女仲間の妹の婚約者の噂話

相談女編が終わった後にこねくり回してたらこうなりました。

ミュリエルは、夕焼けの河原で殴り合ったら分かり合えるタイプのようです……。

『女の敵は女』という言葉がある。

以前私も言われた。いや、私は『男も敵』と付け加えられたので、人類が敵なのか??となったが。

女性同士の足の引っ張り合いだとか、男性と対立したとしても、対立の真の相手はその人の後ろにいる女性

だったとか、そんな感じで引用される表現。

恋人のいる男性をその彼女から奪い取る、私も立派な(?)『女の敵』の一人だろう。

これはもう否定のしようがないし、する気もない。


ただ、そんな私から一言だけ付け加えさせてもらえるなら。



ーー『女の敵』は、女()()とは限らない。


◇◇◇◇◇◇◇◇


薫り高い紅茶。人生で味わったのは二度目……いや、前回はまったくもって味わえてないから、今回が初。


明らかに高級そうなティーカップ。正直手が震えそうになるけど、万が一これを落としでもしたら一族が路頭に迷うぞと、侍女教育で鍛えられた平静心をここぞとばかりに発揮する。


適度な固さの椅子、適度な高さのテーブル、三人で囲んでもまったく窮屈でなく、それでいて距離の離れない絶妙な広さに並べられてる、ひとつ幾らするのか全く見当もつかないお菓子。


これだけ広い空間があったら、実家なら確実に五人は住まわせるだろうサロン、侍女見習いの自分が恥ずかしくなるくらいピクリとも動かない壁際の侍女とメイド。



……目の前で微笑む次期公爵夫人。

こちらを目を細めて微笑ましそうに眺めつつ、優雅にカップを傾けてる。


いやホント、なんで??


ここ数ヶ月で何度も浮かべた疑問が、また脳裏を掠めた。

なんで、しがない地方男爵の娘である私が、王宮に勤めてるとは言え侍女見習いでしかない私が、国でも少ししかいない公爵家のサロンでお茶してるんだ……!


斜め前に座るシャーロットをジト目で睨むが、全く気付かない。


「ミュー様、これ新作ですか?ベリー?」

「新作と言うか、既存のアレンジにあたるのかしら。ラズベリーをブルーベリーに換えて、クリームを重ためにしたんですって」


平然とお菓子について質問し、公爵家の方とやり取りしてる。

これが爵位の違い……、いやシャーロットとは爵位がふたつしか違わないから、王都育ちと地方の差なのかしら。

遠い目をしていると、次期公爵夫人ーーミュリエル様が笑い掛けてきた。



「エステル、どれから行く?料理長の力作はキッシュなんだけど、オススメはアップルパイよ」

「……いただきます、ミュリエル様……」



◇◇◇◇◇◇◇◇


ミュリエル様と初めてお会いした三ヶ月前。

すなわち、あのカフェでワルロー様から全てを暴露されたあの時から、私は職場での振る舞いを改めた。

正直言って、王都や王宮を舐めていたのだ。

これまで咎められることなく過ごせていたのは、小さな領地内の話で、かつ私が領主の末娘だから見逃されていただけだ。

そう気付くと、領地に帰りたくないと思うくらい恥ずかしい。


王宮の職場内で評判が下がるとは、すなわち私の家族や領地の評判を下げるということだ。

ならば、とにかく仕事に邁進して自分の評価を上げてもらうしかない。

そう決意し直し、侍女見習いの仕事も意欲的に行うことにした。

それまでも手を抜いていた訳ではないけど、より高い評価を目指すなら王族専属の侍女になるのを目指した方がいい。

そこから仕事の疑問点を仲間や先輩に積極的に聞きに行き、そうしてるうちにシャーロットや他の侍女とプライベートな話までするような仲になったのだ。


……私とシャーロットが会話に花を咲かせていると、通りすがりのワルロー様が複雑そうな顔をするけど。

よくよく確認したら、王宮文官内に私の手口が広まったのも見当付けて順番を忠告したのも、挙句そろそろ片付けようと声を掛けたのも全部ワルロー様が主体だったらしい。

あくまで私の自業自得ではあるが、それでも彼の思い通りにいかないシャーロットとの関係を見せ付けるのはスッとする。ざまみろ。

そんな感じで雑談してると、ある日シャーロットから爆弾発言が飛び出した。



「ねえエステル。次のお休み、何か予定は入ってる?」

「ん?特に入れてないけど」

「良かった!私も同じ日に休みだから、ミュー様に会いに行こうよ」




……は?



「シャーロット……ミュー様とは、もしかして」

「この間お会いしたでしょう?ミュリエル・フォン・アイゼンバーグ様。アイゼンバーグ家のサロンで、お茶をしましょう」

「なんで?!」

「ミュー様がお呼びなの」

「なんで!」

「面白そうだから?」

「なんっっっ、で………」


キョトンとしているシャーロットに脱力した。

通り掛かったワルロー様は背景を知ってるらしく、その時ばかりは同情的な視線だった。



どんなに喚いても、公爵家のお呼びを断れる筈もなく。

ガチガチに固まる体をなんとか動かし、大きな大きな公爵邸の広々としたサロンで、三人でお茶をした。

……訂正。私はまったくお茶を飲み込めなかったので、二人が優雅にお茶する光景を眺めていた。


「エステルさん、とお呼びして良い?」

「エステル、でお願いします。さんとか付けないでください……」

「あらそう?それじゃエステルね。わたくしのことはミュリエルと呼んでちょうだい」

「ミュー様、はダメなんですか?」

「夫が変な独占欲を発揮してね。愛称呼びを管理してるの。シャーロットたちはさすがに学生時代のことだからノーカウントだと思うけど、念の為内緒にしてるわ」

「そうなんですね。気を付けます」

「エステルが呼びたいと言うなら、夫が失態をおかした時に付け込むけど」

「けっこうです……」


なんだ、次期公爵の失態て。そこに付け込むのは自由だが、巻き込まないでほしい。


ミュリエル様には、お会いした時に「旦那様には近寄らせない」と威嚇された。

不敬を承知で言うと、頼まれても近付きたくない。

王宮内で見掛けたことくらいあるけど、なんであんなに輝いてるの?あと足が早い。

あの方に言い寄って、ミュリエル様を捨てさせる技量が自分にあるとはまったく思えなかった。むしろ隣に立ちたくない。


「あの、本当にご夫君には近寄りませんので……」


もしや警戒されての呼び出しか、と思って恐る恐る伝えると、ミュリエル様は一瞬首を傾げて「あぁ!」と言った。


「前に言ったこと?アレはまあ一応釘を刺したのだけど、心配はしてないわ。もっと言えば『出来るものならやってみろ』ね。ルシウス様に話し掛けるのは大変らしい、とアサトから聞いてるわ」

「私もまだご挨拶出来てません。足が早いんですよアイゼンバーグ卿って。あと侍女からの卿への声掛けは、基本侍女長からのみって通達されてます」

「通達」

「なので、他の侍女からの声掛けには反応せずに通り過ぎてます」


パッと扇を拡げて口元を隠してるけど……肩震えてるの丸分かり。


「ふふっ……通達されてるとか……ルシウス様面白過ぎ」

「お顔が綺麗過ぎるのも大変ですね」


シャーロットがしみじみ言ったセリフが、ミュリエル様の笑いのツボを押したらしい。



「あははっ、シャーリーもうやめてよー。せっかく他所行きモードでやり過ごそうと思ったのに、想像したら笑えるじゃない!」

「足早なアイゼンバーグ卿ですか?でも本当に早いんですよ、ねえエステル」

「……そうですね。侍女長と目撃した時に、懐中時計と見比べてました。速度を計算して、規定内であることを確認したらしいです」

「やめてー!エステルまで笑わせないでー!規定内とか!ねえ、やれるもんならやってみろって、物理的な話じゃないんだけど?!」


涙目で笑うミュリエル様に、私達は顔を見合わせた。

「それはわかってますが、まず物理的に無理なんです」

「アサト様が一緒に回った時、あまりの速さに小走りになってしまってあとで侍従長に注意されたそうです。走るのは駄目だとか」

「王宮おもろい!」



その会話から、ミュリエル様はすっかり私を気に入ってしまったらしい。……なんでだ。



◇◇◇◇◇◇


「さあエステル!貯めに貯めた噂話や情報を教えてちょうだい!」


ミュリエル様が意気込んで聞いてくる。

前回のガチガチなお茶会終わりに、次回の予告をされて蒼白になったが、ひとつ要求がありちょっと気を持ち直した。

『王宮や王都の噂話を知りたいの。もちろんあなたが無理なく収集できる範囲でいいし、開示できる分だけでいいわ。頼める?』

ただ好意だけで公爵家に訪れるより、依頼がある方がよっぽどマシだ。

侍女仲間とは打ち解けてきたし、休日や休み前の夜なんかは王都に繰り出してるので、ミュリエル様の興味を引きそうな話題は細部まで聞くようになった。

王都の物流の話、王宮侍女内での流行りの小物、貴族の勢力図の影響などを、シャーロットの補足も交えつつ伝える。

ミュリエル様は大変満足そうだった。


「助かるわエステル。情報を精査する腕は持ってるみたいね」

「光栄です。でも、こんな話を聞いてどうされるんですか?」

「どうって、商売に活かすのよ」

「?」

「エステル、ミュー様は元々グリフィス家の令嬢なの」


疑問に思っていると、シャーロットが教えてくれた。

グリフィス家?!あの?

公爵家の方と聞いた時と同じくらい驚いた。

アイゼンバーグ公爵家はもちろん高位貴族の最高峰で、雲の上の方過ぎてどちらかと言えば空想上の生き物に近かったが、グリフィス家はまた別の意味で恐れ多い。

なにせ、領地にあるありとあらゆる商売に、グリフィス家の商会が関わってるのだ。

特産品の加工、加工に使う材料、加工する職人の育成、特産品を運ぶ運送業……。

どれかひとつでも取り止められたら、商売が立ち行かなくなる。

ほんっとう、ミュリエル様の怒りを買うだけで終わらなくて良かった……!

内心冷や汗をかいたが、当のミュリエル様はニコニコとしてる。


「活かすだけじゃなく、ただ単に私が色んなことを知りたいってだけでもあるわね。公爵家に収まってると、吸い上げる情報の種類も類型化してしまって」

「早い話、好奇心ですか?」

「そうとも言う」


なんにせよ、喜んでいただけるなら何よりだ。


「王宮侍女たちは?シャーリーの婚約以降、恋愛話で面白いことは起きてないの?」


ミュリエル様の言葉にシャーロットが頬を染める。

「シャーロットを揶揄うのも面白いですよ?」

「エステル!」

「それは分かってるけど、他のも聞きたい」


他のねぇ……。

ここ数日の侍女仲間との雑談を思い返し、ミュリエル様が喜びそうな話はどれだったかと考え……。


「……少し侍女仲間とは外れるんですが、それでもいいですか?」

「もちろん」



「侍女仲間の妹の婚約者の噂話なんですが。一見分かりにくいけど、妹を蔑ろにしているとのことです。なんでも、彼には()()()()()()()がいるとか」




ミュリエル様の目が、爛々と輝いた。

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