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出向先は、剣と魔法と人事部でした 〜評価されなかった社会人の異世界改革〜  作者: 怪獣姫


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中間を、形にする

 朝のラッジの店は、いつもより静かだった。

 金具の擦れる音も、冒険者の笑い声も少ない。


 棚の前に立ったラッジは、腕を組んだまま動かなかった。

 視線の先には、薬草の束が積み上がっている。

 潰れていない。

 束ねられている。

 状態は、悪くない。

 だが――売れない。


「……また余ってるな」

 独り言のように呟く。


 伊勢は棚を見ながら頷いた。

「怪我人が減った結果ですね」

「分かってる」

 ラッジは鼻で笑う。

「いいことなんだがな。商売としては笑えねえ」

 伊勢は束を一つ手に取り、軽く確認した。

 葉脈は整っている。魔力の流れも乱れていない。

 問題のない薬草が、ただ、余っている。

(使われないまま、劣化していく)

 もったいない、という感覚ではない。

 これは、機会の損失だ。


「ラッジさん」

 伊勢は束を棚に戻した。

「持ち越していた話を、そろそろ動かせると思います」

 ラッジの眉が、わずかに上がる。

「……液体にする話か」

「はい」

 伊勢は静かに頷いた。



 試作の話をラッジに持ち帰ると、

 ラッジはすぐに腕を組んだ。

「木製か」

「はい」

「安く作れるんだな?」

「ブリジットさんの見立てでは、瓶の三分の一以下で作れると」

 ラッジは少しだけ考える。

 そして、ゆっくりと言った。

「一個聞いていいか」

「どうぞ」

「これ――」

 帳面を軽く叩く。

「空の容器だけ持ってきたら、ポイントもらえるよな」

 伊勢の動きが、一瞬だけ止まった。



 ラッジは続ける。

「安く作れるってことは、自分で作れる奴も出てくる」

「大工の知り合いとか、木工が趣味の奴とか」

「そいつらが容器だけ量産して、ポイントだけ稼いで……商売にする」

 静かな、だが重い指摘だった。

 伊勢は少し考えてから答えた。

「……分かりました。対策が要りますね」

「そうだろ」

 ラッジは鼻で笑う。

「仕組みを作るのはいいが、抜け穴を作るな、ってことだ」



 その夕方。

 伊勢、リリア、ラッジ、ブリジットの四人が、ギルドの小部屋に集まっていた。

 机の上には、試作の木製容器が三つ並んでいる。

 丸みのある、掌サイズの容器。

 マルコが削り出したものだ。

 細部はまだ粗いが、形としては十分だった。

「まず刻印」

 ブリジットが容器の底を指す。

「工房ごとに固有の刻印を入れる。これは複製が難しい。素人が真似しようとしても、まず同じ形には打てない」

「それが一つ目の網ですね」

 伊勢が頷く。

「二つ目は規格管理です」

 リリアが書類を広げる。

「容器のサイズと形状を、ギルドが正式に登録する。登録外の容器は回収対象にしない」

「つまり、ギルドが認めた容器だけが有効、ということですか」

 ラッジが確認する。

「はい」

「……検品が要るな」

「毎回ではなく、抜き取りで十分だと思います。全数確認は現実的ではないので」

 ラッジは顎を撫でる。

「まあ、そうだな」

「そして三つ目」

 伊勢は一拍置いた。

「ポイント制ではなく、割引制にします」

 ブリジットが眉を上げる。

「どう違う?」

「容器を返却したら、次の購入が安くなる。容器そのものに交換価値を持たせない」

 ラッジが少しだけ目を細めた。

「……容器だけ持ってきても、意味がない」

「はい。あくまで次の購入と紐付けることで、転売や量産の旨みをなくします」

 沈黙が落ちる。

 四人が、それぞれ頭の中で計算している。

 やがてラッジが短く言った。

「完璧じゃないな」

「はい」

 伊勢は即答した。

「抜け道は必ず残ります」

「だが」

 一拍。

「網を複数かけることで、手間をかけてまで悪用しようとする人間を減らせます」

 ブリジットが腕を組む。

「割に合わなくする、ってことか」

「そうです」



 夜。

 ギルドの中庭に、ランプの明かりが揺れていた。

 リリアは書類を整理しながら、机の端に置かれた試作容器をふと見る。

 小さい。

 地味だ。

 だが、確かに形になっている。

 そう思うと、少しだけ胸が温かくなった。

 そのとき、中庭の端に人影が見えた。

 ルカだった。

 少女は中庭の石段に腰を下ろし、机の上の試作容器をじっと見つめていた。

 何も言わない。

 ただ、見ている。

 その目は、子供のものにしては、どこか静かすぎた。

 リリアは、その横顔から視線を外せなかった

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