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出向先は、剣と魔法と人事部でした 〜評価されなかった社会人の異世界改革〜  作者: 怪獣姫


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静かな街

昼のギルドは、いつも通り賑やかだった。


冒険者たちの笑い声。

酒場から流れる料理の匂い。

依頼掲示板の前に集まる人だかり。


表面だけ見れば、何も変わっていない。


だが。


伊勢はその空気に、どこか違和感を覚えていた。



受付カウンターの前では、採取者たちが並んでいた。


背中の籠には、乾いた薬草。


量は多くない。


リリアが帳簿を見ながら言う。


「……買い取り価格、少し下げています」


伊勢が隣から覗く。


「在庫ですか」


リリアは頷いた。


「道具屋にも余っています」


「怪我人が減った」


「ええ」


その理由は、二人とも分かっていた。


勇者。


ダンジョンの魔物が減った結果、

怪我人も減り、薬草の需要が落ちた。


一見すれば、いいことだ。


だが。


伊勢は腕を組む。


「採取者の収入が減る」


リリアは小さく頷いた。


「そうですね」



そのとき。


ギルドの扉が開いた。


トーマスだった。


背の高い体。

日に焼けた顔。

肩には大きな採取袋。


だが今日は、その袋が妙に軽そうだった。


トーマスは袋を床に置く。


「こんなもんだ」


袋の中には、乾いた薬草が少しだけ入っていた。


受付嬢が驚く。


「今日は少ないですね」


トーマスは苦笑した。


「生えてねえんだ」


伊勢が聞く。


「減っていますか?」


トーマスは顎を撫でる。


「妙なんだよ」


少し声を落とす。


「浅層の薬草が減ってる」


リリアが眉を寄せた。


「季節では?」


トーマスは首を振る。


「いや」


そして静かに言う。


「魔物がいない」



伊勢の視線が、わずかに鋭くなる。


「薬草と魔物は関係あるんですか」


トーマスは頷いた。


「ある」


椅子に腰を下ろす。


「薬草はな」


「魔物がいる場所に生える」


伊勢は少し驚いた。


リリアも目を瞬かせる。


トーマスは続ける。


「魔物がいる場所は、死体も出る」


「血も流れる」


「栄養が集まる」


そして袋を軽く叩く。


「だから生える」


伊勢は静かに考え込む。


魔物が減る。


薬草が減る。


採取者の収入が減る。


ダンジョンの経済が変わる。



近くのテーブルで、採取者たちが話していた。


「浅層、静かすぎる」


「スライムもいねえ」


「勇者だろ」


「いいことじゃねえか」


一人が言う。


「でもよ」


「静かすぎるのも怖いぞ」


トーマスはその会話を聞きながら、小さく笑った。


「まぁ、しばらく様子見だな」


袋を肩に担ぐ。


「採取者ってのはな」


「ダンジョンが静かでも働くし、荒れてても働く」


伊勢が言う。


「大変な仕事ですね」


トーマスは肩をすくめた。


「慣れだ」



トーマスはギルドを出ていった。


その背中を見送りながら、伊勢は呟く。


「……何かおかしいですね」


リリアが振り向く。


「伊勢様?」


伊勢はダンジョンの方向を見た。


遠くに見える巨大な石門。


昼の光の中で、静かに口を開けている。


静かすぎる。



その頃。


ダンジョンの奥深く。


暗闇の中で。


一匹の魔物が、ゆっくりと目を開いた。


餌がない。


魔物もいない。


腹が減っている。


その魔物は、ゆっくりと立ち上がった。


そして。


人間の匂いのする方向へ――


歩き出した。

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