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出向先は、剣と魔法と人事部でした 〜評価されなかった社会人の異世界改革〜  作者: 怪獣姫


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火を分けるということ

 夕暮れの鍛冶街は、昼よりも赤い。


 炉の火と西日の色が混じり、通り全体が橙に染まる。


 ブリジットの工房では、最後の点検が終わったところだった。


 客の背中が扉の向こうへ消え、静けさが戻る。


 ブリジットは深く息を吐いた。


「……で」


 汗を拭いながら振り返る。


「見てきたんでしょ」


 伊勢は頷いた。


「はい。小規模店、リペア店、大型店」


 一歩、炉の近くへ寄る。


「どれも回っています」


「そりゃ回ってるでしょ。回らなきゃ潰れてる」


「はい」


 伊勢は視線を逸らさない。


「問題は、“どこに負担が集まっているか”です」


 ブリジットは腕を組んだ。


 炉の火が、彼女の瞳に揺れる。


「はっきり言って」


 伊勢は続ける。


「今、負担はブリジットさんに集中しています」


 一瞬、火のはぜる音だけが響く。


「……分かってるよ」


 小さな声。


「でも、止める気はない」


「止める必要はありません」


 一拍。


「分けるんです」


 ブリジットの眉がわずかに動く。


「何を」


「火を」


 静かな声だった。


「連携です。リペア店と」


 空気が、ぴんと張る。


「……は?」


 ブリジットの声が低くなる。


「壊れた武器を直して中古で売る連中と?」


「はい」


「冗談でしょ」


 彼女は一歩前に出た。


「私は壊れる前提で作ってない」


「分かっています」


「だったらなんで!」


 拳が、無意識に握られる。


「長持ちさせたいのに、“その場しのぎの武器でいい”って考え方と組めって?」


 炉の炎が大きく揺れた。


 怒りというより、拒絶だ。


「理念が違う」


 はっきりと言う。


「私は、壊れない方向に行きたい」


「はい」


 伊勢は落ち着いて答える。


「ですが、壊れない武器は存在しません」


 ブリジットが言葉を詰まらせる。


「壊れにくくすることと、壊れた後をどうするかは、別の問題です」


 静かに続ける。


「リペア店の職人は一流です。芯を見抜く技術も、焼き直す技術も高い」


「知ってるよ」


 吐き捨てるように言う。


「腕は確か」


「では、なぜ嫌なんですか」


 一拍。


「……思想が違う」


「違いません」


 きっぱりと。


「彼らも、冒険者を生かしたいだけです」


 ブリジットが顔を上げる。


「金のない冒険者は新品を買えない」


「だから中古を直す」


「長く持たせたいのも、生き残らせたいのも、根は同じです」


 炎の色が、少し落ち着く。


「……でも」


 ブリジットは視線を炉に落とす。


「私が連携したら、“壊れてもいい”って認めることになる」


「違います」


 伊勢は首を振る。


「壊れた後も守る、という選択です」


 沈黙。


 外では槌の音が鳴っている。


 いくつも。


 それぞれの火が燃えている。


「……あんたはさ」


 ブリジットが低く言う。


「いつも正しい理屈持ってくるよね」


「理屈です」


「感情は?」


 鋭い問い。


 伊勢は一瞬だけ言葉を探す。


「感情も、あります」


 一拍。


「ブリジットさんを潰したくありません」


 炉の火が、ぱちりと音を立てた。


 彼女の肩から、わずかに力が抜ける。


「……卑怯」


「はい」


 苦笑が漏れる。


 しばらくして。


 ブリジットはゆっくり息を吐いた。


「話は聞く」


 一拍。


「でも、私のやり方は曲げない」


「それで構いません」


 伊勢は頷く。


 火は消えていない。


 ただ、向きを変えようとしている。


「次は?」


「直接、話します」


「リペア店と?」


「はい」


 ブリジットは炉を見つめる。


 炎が揺れる。


「……あいつらがどう思ってるか、ちゃんと聞く」


 その声は、怒りではなかった。


 覚悟だ。


 火を分けるということは、

 火を弱めることではない。


 燃やし方を変えることだ。


 橙の光の中で、二人は静かに立っていた。


 次の火種が、すでに灯り始めている。

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