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出向先は、剣と魔法と人事部でした 〜評価されなかった社会人の異世界改革〜  作者: 怪獣姫


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試した結果は、数字よりも先に顔に出る

 工房の扉が、ぎい、と音を立てたのは昼前だった。


 火はもう入っている。

 鉄と油が混じった、いつもの匂い。


 ブリジットは槌を置き、

 一瞬だけ息を整えてから顔を上げた。


(……来た)


 分かってはいても、

 最初の一人は少し緊張する。



 入ってきたのは、若い冒険者だった。


「この前……ここで武器、買ったんだ」


 ブリジットは頷く。


「覚えてるよ。ランクの札、ちゃんと見てた人でしょ」


 冒険者は少し驚く。



「点検、だよね?」


「……ああ。有料って聞いてさ」



「いいよ」


 一拍置く。


「……その代わり、ちゃんと見るから」


 冒険者は剣を差し出す。



 ブリジットは刃を光にかざし、角度を変え、柄を軽く叩く。


 表情が変わる。


「……ここ。踏み込み、深いね」


「え?」


「怖かったでしょ」


 冒険者は黙る。


「敵が来ると一気に距離を詰めてる。でも体がまだ追いついてない。

 だから、この辺に力が集中してる」


 剣を返す。


「次はね、半歩でいい。半歩我慢して刃を当てる。

 それだけで、刃はずっと長持ちするよ」



「あともう一つ」


「モンスターの血と油、ちゃんと拭いてる?」


「……水で、軽く」


「それじゃ足りないよ」


 声はきつくない。


「血も油も、乾くと刃の表面に膜を作る。

 それが邪魔して切れ味が落ちるの」


 一拍。


「切れなくなると、余計に力を入れるでしょ。

 その結果が、刃こぼれ」



「……それで、この欠け?」


「そう。昨日、硬いの当てたよね」


 冒険者は頷く。


「次からは、ちゃんと拭くこと。布でいい。

 切れ味が戻るだけで、戦い方も変わるよ」



 そのとき、後ろから声がした。


「……ねえ」


 女武闘家だ。


「今の話さ。私、武器に頼らない分、無理して前に出ること多いんだけど」


 一度ブリジットを見る。


「切れ味が落ちてると、余計に押し切ろうとするやつ、増えるよね」



 ブリジットははっきり頷いた。


「そう。判断が遅れるの」



「ってことはさ」


「最初から“無理しない前提”で使える装備の方が、前に立ち続けられるってこと?」



「そういうこと」


 ブリジットは迷わない。


「派手じゃないけど、生き残るならそっちの方が合うよ」



 女武闘家は少し笑った。


「……帰りに棚、見せて」



 冒険者は頭を下げる。


「ありがとう。金、払う」



 昼下がり。


「……思ったより少ないね」


 ブリジットは腕を組む。


「はい、想定どおりです」


「来ない人の方が多い」


「それでいいんだよね」


 伊勢は頷く。



 点検を終えた冒険者たちの背中を見つめる。


「……顔が違う」


「はい」



 その夜。


 伊勢はギルドで報告書を開く。


 数字はまだ何も語らない。


 だが。


(人は、もう動いている)


 試した結果は、

 数字よりも先に顔に出ていた。

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