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出向先は、剣と魔法と人事部でした 〜評価されなかった社会人の異世界改革〜  作者: 怪獣姫


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それでも、その武器を作る理由

 ブリジットの工房は、いつも熱かった。


 火炉の前に立つのは、

 今日が初めてではない。

 何百回、何千回と繰り返してきた光景だ。


 それでも――

 彼女は今日も、同じ形の剣を打っている。



「……また、その手の武器か」


 工房を覗いた同業の鍛冶師が、

 呆れたように言った。


「初心者向けだろ?」


「そんなの、

 儲からないって分かってるだろ」


 ブリジットは、

 槌を止めずに答える。


「分かってるよ」


「でもさ」


 金属を叩く音が、

 言葉を区切る。


「必要だろ」



 初心者向けの武器。


 軽く、扱いやすく、

 無理な力をかけても事故が起きにくい。


 見た目は地味。

 数値も、派手ではない。


「中途半端なんだよ」


 別の鍛冶師が笑う。


「高くもない、

 安くもない」


「壊れにくいってことは、

 買い替えも遅い」


「商売にならねぇ」


 その言葉に、

 ブリジットは一瞬だけ手を止めた。



「……そうだね」


 認めるように言う。


「商売だけ考えたら、

 割に合わない」


 でも、と続ける。


「最初に持つ武器ってさ」


 槌を置き、

 真っ直ぐ前を見る。


「そいつの冒険の“基準”になる」


「振り回して、

 疲れて、

 判断が遅れて」


「それで死んだら」


 声が、少し低くなる。


「その後の装備の話なんて、

 できないだろ」



 周囲は、

 気まずそうに視線を逸らした。


「……理想論だな」


「現場は、そんな綺麗じゃない」


 分かっている。


 ブリジットは、

 それを何度も見てきた。


 派手な武器を持って、

 勢いで突っ込む初心者。


 数値だけを信じて、

 戻ってこなかった背中。



「だからさ」


 ブリジットは、

 誰に向けるでもなく言った。


「私は、

 最初に生き残るための武器を作る」


「売れなくても」


「笑われても」


「それがないと、

 次がないんだ」



 後日。


 道具屋通りで、

 伊勢はその話を聞いていた。


 ブリジットの工房で、

 並べられた地味な装備。


「……周りから、

 何か言われますか」


 伊勢が尋ねる。


「そりゃ言われるよ」


 ブリジットは笑う。


「“余計なお世話”とか」


「“自己責任だろ”とか」


「でも」


 肩をすくめる。


「自己責任で済むのは、

 生きて帰ったやつだけだ」



 伊勢は、

 装備を手に取る。


 重すぎず、

 軽すぎず。


 明らかに、

 “無理をさせない”作りだ。


(……これは)


(選ばれない理由も、

 選ばれるべき理由も、

 はっきりしている)


 だからこそ、

 届かない。



「ブリジットさん」


 伊勢は、

 慎重に言葉を選ぶ。


「もし」


 一拍。


「“初心者だから”じゃなく」


「“今の状態だから”

 選べるとしたら」


 ブリジットは、

 眉を上げた。


「……状態?」


「はい」


 伊勢は頷く。


「個人じゃなく、

 パーティとしての状態」


「それなら、

 逃げじゃなくなる」


 ブリジットは、

 しばらく黙っていた。



「……なるほどね」


 小さく笑う。


「考えたこと、

 なかった」


 そして、

 伊勢を見る。


「それ、

 ちゃんと話してもいい?」


「ギルドにも?」


 伊勢は、

 静かに頷いた。


「ええ」


「公平な形なら」



 その夜。


 ブリジットは、

 工房で一人、火を落とした。


 並ぶのは、

 今日も同じ初心者向けの武器。


 でも。


(……届くかもしれない)


 そんな予感が、

 初めて胸に灯った。


 選ばれない理由は、

 分かっている。


 なら――

 選ばれ方を変えればいい。


 その答えに、

 もう一歩で手が届きそうだった。

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