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出向先は、剣と魔法と人事部でした 〜評価されなかった社会人の異世界改革〜  作者: 怪獣姫


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火花みたいな人

 その声は、ギルドの空気を一瞬で変えた。


「――だからさ、売れないんだよ!」


 張りがあって、明るい。

 そして、やけに真っ直ぐだった。


 伊勢は足を止め、入口の方へ視線を向ける。


 そこに立っていたのは、小柄な女性だった。



 褐色の肌。

 肩口まで露出した薄着の上に、

 使い込まれた革のエプロン。


 オレンジ色の髪は短くまとめられているが、

 ところどころ跳ねている。


 火の前に立つ人間特有の、

 熱を帯びた存在感。


 ――ドワーフ。


 一目でそう分かった。


「初心者向けに作ってるのにさ!」


 女性は、職員に向かって腕を組み、

 勢いよく言葉を続けている。


「“最初はこれくらいがいい”って

 何回説明しても、

 派手なやつとか、

 数値だけ高いのを欲しがるんだよ!」


 怒っている。

 だが、八つ当たりではない。


 そこにあるのは、

 悔しさだった。



「……落ち着いてください」


 職員が困ったように宥める。


「相談は、順番に――」


「だから、その“相談”をしに来たんだって!」


 女性は一歩踏み出す。


「最近さ、

 初心者の動きが変わったって聞いた」


「無茶しなくなったとか、

 装備をちゃんと考えるようになったとか」


 伊勢の胸が、わずかにざわつく。


「それで調べたら、

 ギルドにいるんでしょ?」


 女性の視線が、

 ふいにこちらを掠めた。


「数字だけじゃなくて、

 現場も見て話す奴」


 そして、

 ぴたりと伊勢を捉える。



「……あ」


 職員が気づいたように振り返る。


「伊勢さん」


 その呼び名で、

 場の空気が一瞬止まった。


 女性は、目を丸くした。


 次の瞬間、

 ぱっと表情が明るくなる。


「あ、アンタか!」


 ずかずかと距離を詰めてくる。


 思わず伊勢が一歩引くほどの近さ。


「伊勢、だよね?」


「……はい」


「やっぱり!」


 満面の笑み。


「噂どおりだ!

 ちゃんと人の目してる!」



 リリアが、少し遅れて状況に気づいた。


 入口付近で、

 見知らぬドワーフの女性が

 伊勢にぐっと近づいている。


(……近い)


 自覚する前に、

 胸の奥が小さくざわつく。



「ブリジット!」


 女性は、胸を叩いて名乗った。


「鍛冶師やってる!」


「で、今日は――」


 そこで一拍置き、

 真剣な目になる。


「相談がある」


 さっきまでの勢いとは違う、

 仕事の顔。



 簡易の応接スペースに場所を移す。


 ブリジットは椅子に腰掛けると、

 肘をついて前のめりになった。


「単刀直入に言うね」


「初心者向け装備が、売れない」


 言い切りだった。


「ちゃんとしたやつ作ってる」


「軽くて、扱いやすくて、

 壊れにくくて、

 無理しない前提の装備」


「でもさ」


 肩をすくめる。


「誰も選ばない」



「派手な武器がいい」


「数値が高いのがいい」


「安いなら安いで、

 極端なのを掴む」


「それで死ぬか、

 運よく生き残っても

 “運が悪かった”で終わる」


 ブリジットは歯を食いしばった。


「……納得いかないんだよ」


「ちゃんと生き延びるための装備なのに」



 伊勢は、すぐには口を開かなかった。


 ただ、頷く。


「作り手としては、

 そうなりますよね」


 その一言に、

 ブリジットの目が大きく見開かれる。


「……分かる?」


「分かります」


 即答だった。


「それは、

 “装備の問題”じゃない」


「“選び方”の問題です」



 ブリジットは、

 一瞬ぽかんとしたあと、

 ぐっと身を乗り出した。


「……アンタ」


「ちゃんと話、聞いてくれるんだね」


 距離が、さらに近くなる。


「お願い」


「一緒に考えてほしい」


「このままだと、

 初心者が死ぬ」


「私の装備が、

 誰にも届かない」



 伊勢は、

 一瞬だけリリアの方を見た。


 リリアは、表情を崩していない。


 だが、

 指先がわずかに強く握られている。


 その小さな変化を、

 伊勢は見逃さなかった。



「分かりました」


 伊勢は、静かに答える。


「ただし」


 一拍。


「一緒に現場を見ましょう」


「売れない理由は、

 机の上だけじゃ分からない」


 ブリジットは、

 その言葉を聞いた瞬間――


 ぱっと笑った。


 太陽みたいな笑顔だった。


「最高!」


「やっぱり噂どおりだ!」


 そして、

 遠慮なく伊勢の背中を叩く。


「よろしくね、伊勢!」



 その様子を見ながら、

 リリアは小さく息を吸った。


(……仕事、仕事)


 そう思いながらも、

 胸の奥のざわめきは、

 なかなか静まらなかった。


 一方で伊勢は、

 はっきりと感じていた。


 これは、

 逃げられない依頼だ。


 そして――


 ここにいる理由を、

 試される仕事でもある。


 火花みたいな人が持ち込んだ問題は、

 確実に、次の扉を叩いていた。

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