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聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第十話【銀の三角】

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その08 お礼

 時刻はまだ|狼の半刻(午後三時)前、私たちもタハン探しに協力できそうだ。

 とりあえず合流予定の『自警団』詰め所に顔を出すと、エーコちゃんとベタくんがいた。


「お疲れ様でした。首尾はいかがでしたか?」

「バッチリ。そっちはどう?」


 お土産に包んでもらったジャム入りのお菓子を差し出す。

 こわごわと口にするも、甘さと酸味とホロホロした口溶け、そしてバターの香ばしさに感動するベタくん。分かるよ。


「あ、例の女はもう見つけてる。今、ガッマさんが踏み込んで催眠……?」

「『誘眠』ですね。眠らせて移動し、ニカお姉さまが『優しく尋問』するそうです」


 何となく含みある感じにエーコちゃん。机の上にはボゥお姉さまの手作り弓。使い方を教えてた雰囲気。

 昨日の射的が散々だったからだろう。


「俺、やっぱり弓は駄目だな。ガッマさんに教わったナイフの方がいいよ」

「町中だと、弓を持ち歩くことすら難しいですから。威力・射程・連射性・命中精度、全てにおいて弓が勝りますが……携帯性と初速、格闘戦では忸怩たるものがありますがナイフが有利と言わざるを得ません」


 エーコちゃん、意外と負けず嫌いだよね。


「しかし、ナイフを使うなら身体の使い方を憶えると良いですよ。今のベタではイウノ先輩にも勝てませんから。この人、虫も殺せないような顔をしてグラウンドえぐいですよ」

「またまた」「冗談キツイぜ」


 そういえば、ヘアルトはどこだろうか。確か情報収集班だったはず。


「ヘアルトなら、お小遣いを貰って自由行動ですよ。手練手管で素早くねぐらの場所を手に入れたので」

「昨日ガッマさんに捕まった時に言った宿は、もう引き払ってたんだよな」


 何があったのか聞きたいように行きたくないような。


「でもさ、今日中に何とかなりそうで良かったな。明日の『来訪祭』をゆっくり楽しめそうじゃん」

「恐らく、タハンは単独行動ではないですし、ニカお姉さまたちが背後関係を聞き出せれば一安心ですね」


 これは、修道院を出る前に院長先生が忠告してくれたことだった。

 トチェドを殴ったタハンが、怒りに任せてそのまま連れて行かなかったのは、ブレインが存在するからだ。


 タハン自体はそんなに頭が良くない上に直情径行にある。同じことしか繰り返さないし、口論にも弱い。

 殴ってしまった事も含めて不測の事態ばかりだったので、判断できずに逃げ出したというのが院長先生の考えだ。


 トチェドに暴力を振るい、痛みで従わせる方法に気付いてしまったなら、それが最も効率的で素早い。

 タハンの頭にに判断できる脳みそが入っているなら、トチェドをもう一度ぶん殴ってから誘拐するべきだった。


 何しろボゥお姉さまはヌーヨドを抱えてオロオロしてたしね。

 …………まあ、そうしてたら城壁上のニカお姉さまが躊躇わずに短剣を投げていたのだろうけど。


「ルシビルさんへの連絡はどうしますの?」

「じゃあ、俺ひとっ走り行くよ。銀の三角の旗のあるお屋敷だろ? なんて言えば通じる?」

「羽の根付を見せれば分かるはずです」

「一応念の為確認するけど、捕まらないよね?」


 ベタくんは、ルシビルくんがティカイルクス子爵令息だって事が半信半疑の様子だった。

 まあ、言いたいことは分かる。


「ボクも行きましょうか?」

「いや、大丈夫だ。遣いの一つもできなきゃな」


 フットワーク軽く、上着を引っ掴んで飛び出していくベタくん。彼を見送って、エーコちゃんが私たち三人を見回した。

 詰め所には他に誰も居ない。チラリと入口を確認してから、エーコちゃんは声を落として口を開く。


「予想されているとは思われますが、私は『水晶葉の森』の『エルフ』、本当の名前はウォトワルフです。ちなみに『巫女姫』とかいう聞いたこともない役職ではございませんので悪しからず」

「…………ではやはり、その……いつぞやの非礼を今一度詫びさせていただきますわ」


 なるほどと頷くトチェド、ロドゥバは沈痛な顔で切り出す。


「何の話ですか?」

「エーコ……ウォトワルフですの? 貴女の故郷を侮辱したことですわ」


 想定外だったのだろう。エーコちゃんは失笑した。


「そんな事もありましたね」

「あんなに悲惨だとは思わず、本当に申し訳ありませんでしたわ」

「調子が狂うのでいつも通りでいて下さい。ロドゥバ先輩、聖パトリルクス修道院に所属している限り、私はあなた方の後輩のエーコです」


 それでも少し納得行かない様子のロドゥバ。


「帰るんですか?」

「はい、子供の一人旅は危険なので、カルミナさんたちが送ってくださる内に一緒に行くべきだと院長先生が」


 お昼前の、学びたいという気持ちも本当なのだろう。だが、確かにあの二人と一緒の方が遥かに安全だ。院長先生の言うことも分かる。


「他の皆さんにも順次伝えるつもりですが、その……先輩方には相談があるのです」

「何でも聞いて」「わたくしにできることなら」「ボクもです」


 エーコちゃんは神妙に頷いた。何か大きな秘密を打ち明けるかのように。


「皆さんには短い間でしたが本当に……心からお世話になりました。修道院の皆さんに、贈り物をしたいので、明日の『来訪祭』で選ぶのを手伝って頂けませんか?」


 その言葉に、私はとりあえずトチェドを小突いた。反対側からロドゥバとトチェドを小突いている。


「…………ボクも近々修道院を離れなければならないので、一緒に探しましょう」

「そうなんですか? それはまたなぜ?」


 エーコちゃんの素朴な疑問。

 トチェドは、実は前々から修道院を出ることを考えて動いていた節がある。その理由を、私はトチェドが男の子だからなのではないかと疑ってきた。


 成長して身長が伸び、喉仏が出てきて、声も変わりヒゲも生えてしまったら、そりゃあ修道女のフリはしていられない。

 だからここでのトチェドの答えに、私は意表を突かれた。


「ボクはきっと殺されますから」


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