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【冒険者ギルドのお仕事】 ~冒険者からの売れ残りを片付けているのは〝役立たず〟〝ゴミ箱〟と嘲笑われる最強の従業員だった~  作者: 水城ゆき
第二章

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ソティラスの新人

  ────六日後。


 グレンはギルドの支店長室で、自分宛に届いた手紙を読み終えると深い溜息を吐いた。

そして、目の前に座っている、〝フィルネをさらに幼くしたような〟小生意気で可愛らしい金髪の少年に、一つの問いを投げる。


「……キミは、自分がここで『やるべき事』を理解しているの?」

「もちろんですよ、先輩! 僕は先輩みたいな、裏で世界の悪を掃除するスゲェ影の男になりたくて〝ソティラス〟で鍛えられてきました! 今日から僕がルウラの依頼を片っ端から消化してく予定です!」


 どうやら根本的な勘違いを起こしているらしいこの少年──ベロア・ラーソン(十六歳)は、リンザール本部から派遣されてきたばかりの、期待(という名の不安)の新任ソティラスメンバーであった。

 グレンの見立てでは、彼は極めて高確率でトラブルを招く『爆弾』のような少年だ。


 戦闘スペックは異常に高いようだが、ソティラスという役割を〝正義の味方〟か何かと混同している節がある。本来は手を出してはならない「冒険者向けの通常依頼」まで、次々と始末していく勢いだ。


「……キミはいったい、マスターになんて言ったんだ?」

「先輩がいなくなっても、僕一人でルウラの依頼なんて全部始末出来るんで余裕っす!って言いましたよ。……そしたら、その手紙を渡されました!」


 頭を抱えながらグレンは再度、本部のエイシュリッツから届いた手紙(身勝手な指令書)を睨みつける。


 ーーーーーーーーーー

 親愛なるグレン・ターナーへ。

 ベロア・ラーソンは極めて高度な暗殺・戦闘能力を持つ少年だが、その溢れる力を制御しきれない。そこで我がソティラスの管理下に置いてはいるが、所謂〝爆弾〟である。

 若干、性格に難有りだ。

 そこでキミには今後、新しい勤務先である『ファジロード支店』の安定化という仕事をこなしつつ、ルウラでのベロアの教育・監視・指導も密かに遂行してほしい。


 空間転移出来るキミなら、二つの拠点を往復する事も可能だろう。

 面倒をかける事になり申し訳ないが、ギルドの未来の為にも、ベロアを宜しく頼む。


ギルドマスター・エイシュリッツより。

 ーーーーーーーーーー


 随分と一方的な内容だった。

 新しい勤務地〝ファジロード〟は、西方大陸の遥か南西にある小国【ピュアル公国】の首都で、ルウラからは馬を飛ばしても三週間以上はかかる。

 一度辿り着いて座標を認識してしまえば、転移魔法を持つグレンには一瞬の距離ではあるが。距離以上に、この新人の教育という内容がグレンの精神を蝕み始めていた。

 

「……ってわけで、今日からよろしく、先輩! 俺のことは気軽に〝ベロっち〟と呼んでくださいよ!」

「はぁ……。仕方ない、とりあえず……よろしく、ベロアくん」

「……いやいや、『ベロっち』ですってば、先輩!」


 (〝これ〟教育するのは、相当に骨が折れそうだ……)

 と、グレンは、オーバーヒートしそうな頭を抱えて項垂れた。ようやく安定し、ソティラスによるテコ入れも必要がなくなってきたルウラ支店に、最も不適任な『人材』が送り込まれてきたのである。


 まして、ルウラの従業員たちには「グレンはファジロードに転勤する」という情報を共有しているので。

明日以降、グレンが『グレン』としてルウラでベロアと顔を合わせるわけにはいかない。

 となると、今後は変装して「名もなき冒険者」や「通りすがりの市民」に擬態し、ベロアに会いに来る必要がある。


「……というわけで、グレンさん。今日がルウラでの最終日ですね。まずは、始業開始前にグレンさんから一言挨拶と、ベロアくんの紹介をお願いします。そして、営業終了後には従業員達が主催で、盛大な〝送別会〟を開くそうです」

「……支店長。何度も言いますが、僕はそういう集まりが一番苦手なんですけど」

「いえいえ、今夜はフィルネくんの〝送別会〟も兼ねていますから。必ず出席してください」

「そうですよ先輩! こういうコミュニティも、立派なソティラスの仕事の一環!」

「……キミが言うと、とても説得力がないんだよなぁ」


 こうして従業員が揃った頃、始業開始の挨拶をする事になった。

ベロアというブレーキの壊れた人間に好き放題発言させたら、瞬く間に白い目で見られるだろう、と。グレンは戦々恐々としながら、全従業員の前で後任であるベロアを紹介した。


「────と、いうわけで。僕は明日からファジロードへ異動しますが。まだ未熟な彼、ベロア・ラーソンの事を温かい目で見てあげてほしいです」

「みんな! 僕のことは気さくに〝ベロっち〟って呼んでねぇ! 仲良くしようぜ!」


 底抜けに明るい、一点の曇りもないベロアの黄金の笑顔とハイテンションな挨拶。その眩しすぎる輝きに、一瞬だけ従業員一同が固まったが。

その静寂を真っ先に払拭させたのは、フィルネだった。


「私はフィルネ。私もあと数日後にはここを去るけど、その間は死ぬほどこき使うから覚悟してよね、ベロっち」

「あはは、望むところだ! よろしくな、フィルネ!」


 (……こいつ、フィルネに即対応しただと!?)

 驚くグレンを余所に、他の従業員たちも雪崩を打つようにベロアを囲み、フレンドリーな挨拶を投げ始めた。


「ベロっち。お前面白いな、俺はガイだ。筋肉の悩みならいつでも言えよ!」

「ベロっちくん、期待してるわよ」

「グレンの推薦なら安心だな。よろしくなベロっち」

「うわぁ、ベロっちくん。近くで見ると小動物みたいで可愛い顔してるねぇ!」


 その光景に……とんだコミュ力おばけだとグレンは若干の嫉妬を覚えた。

 自分が二年間かけてようやく築き上げた人間関係の壁を、彼はわずか数秒でとっぱらってしまったのだ。

 とにもかくにも、こうしてベロア・ラーソンは一瞬にして、ルウラ冒険者ギルドの「愛されキャラ」として確立してしまった。

 

 こうしてルウラ支店での最後の業務が始まるなり、グレンはまずベロアに掲示板の依頼書から、〝ソティラス〟として介入すべき案件と、静観すべき案件の選別基準を教えていた。

そこへ、真っ赤な髪を揺らしアリアが訪れる。


「おはよー、グレンくん! ……あら、新しい従業員さん?」

「やぁ、僕はベロア。みんなにはベロっちって呼ばれてるんだ。……それにしても、綺麗なお姉さんですね!」

「あら、口が上手いねぇ。……ひょっとして、これがグレンくんの後任の子?」

「そうさ! 僕こそが今後、ルウラの平和を裏からガッツリ支えて、ソティラスを引っ張る次世代の────痛っ! 先輩、なにするのさぁ!」


 グレンに頭をコツンと叩かれたベロアは、両手で患部を押さえながら涙目で反論する。

 

「……その『名前』は、公の場で絶対に出しちゃダメだと言ったよね?」

「あ! そうだ! 本部の教本には『正体を知られたら目撃者を速やかに排除しないとダメ』って書いてあった!」

「い、いや、その考えも飛躍しすぎだけどさ。……彼女は、たまたま僕の正体を知ってる協力者だから良かったけど。明日から絶対にその『名称』を言わないように」


 グレンとベロアの、漫才のような不器用なやり取りを見て、アリアは「ふふっ」と楽しそうにクスクスと笑った。


「グレンくん、なんか一気に『先輩』になっちゃったね。……でも、明日出発でしょ? 私もいつでも出られるからね」

「……ねえ先輩。このお姉さん、もしかして先輩の『彼女』なんですか?」


 思わず返答に詰まり口ごもるグレンの代わりに、アリアが誇らしげに胸を張る。


「……そうだよ。私は、グレンくんのパートナーのアリア。よろしくね?」

「おう! そっか! これからも、よろしく頼むな、アリア!」

「……え? これから……って?」


 グレンは、頭の上に巨大なハテナを浮かべているアリアに対し、本部のエイシュリッツからの司令を説明した。

 ベロアの教育任務により、当分はファジロードとルウラを往復する事を。


「……じゃあ、結局。場所が変わるだけで、あんまり今までと変わらないの?」

「……そんな事はありません。僕はもう明日以降、ルウラには居ないはずなので。たまに変装して、ベロアの暴走を監視しに来る事になるんです」


 空間転移を扱える事は、アリアを除けば支店長マルクスしか知らないトップシークレット。

 故に、ファジロード支店にいるグレンが、頻繁にルウラに現れるのは不自然極まるのでグレンは変装を強いられる。

 そして二つの街で転移を繰り返す事になるのだから、グレンの忙しさが増す事は間違いなかった。

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