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ソティラスの新人


 ────六日後。


 グレンはギルドの支店長室の中で、自分宛に届いた手紙を開いた。


 ザッと内容を見てため息を吐き、目の前にいるフィルネに似た、金髪の小さな可愛らしい〝少年〟に訊ねる。


「それで、キミ。やるべき事はわかってる?」

「もちろんですよ先輩! 僕は先輩みたいなスゲェ男になりたくて〝ソティラス〟に入ったんですから。次々と依頼を消化して名前をあげ、チヤホヤされるんです!」


 どうも何か勘違いしているらしき少年──ベロア・ラーソン(十六歳)は、本部から来た新人のソティラスメンバーであった。


 しかしながら、彼はなかなか問題のある少年のようだ。

 戦闘能力は高いようだが、どうもソティラスを〝英雄〟か何かと勘違いしているようで。

 冒険者から残された依頼〝以外の〟討伐系依頼も次々と始末していく気満々だ。


「キミはいったい、マスターになんて言ったの?」

「先輩がいなくても、僕一人で全ての依頼を始末出来るので余裕です! って言いましたよ。そしたら、その手紙を渡されました」


 なるほど……と、グレンは再度手紙を見る。



 ーーーーーーーーーー

 グレン・ターナーへ。


 ベロア・ラーソンは極めて高度な暗殺能力を持つ少年で、我がソティラスの管理下に置きたい所謂〝爆弾〟である。

 性格は少々難有りだ。


 そこでグレンには今後、新しい勤務先『ファジロード支店』の安定化も行いながら『ルウラ』にいるベロアの教育、指導も密かに頼みたい。

 グレンなら転移も出来るし可能であると思っている。

 面倒をかける事になってしまい申し訳ないと思っているがギルドの為にも、ベロアの為にも宜しくお願いする。


       エイシュリッツより。

 ーーーーーーーーーー



 見れば見るほど身勝手な内容だった。

 新しい勤務先〝ファジロード〟は、西方大陸の南西にある小国──【ピュアル公国】の首都で、ルウラからは馬でも三週間以上はかかる距離だ。


 何処に飛ばされるのかと思っていたら、意外と西方大陸内ではあった為。

 一度辿り着いてしまえば、転移が出来るグレンには一瞬の距離ではあるのだが。

 

「ってわけで、よろしく先輩。俺の事は〝ベロっち〟と呼んでくださいね!」

「はぁ……仕方ないね。ベロアくん」

「ベロっちですってば」


 〝これ〟を教育するのは骨が折れそうだ、とグレンは頭を抱える。

 ただでさえ安定して〝ソティラス〟の介入の必要が少なくなってきたルウラ支店に、一番不適任な人物が送られてきた。


 これならまだ、やる気の無い人物が送られた方がマシだとグレンは思ってしまう。

 まして他の従業員はグレンがファジロードに転勤する事を知っているので、ルウラで顔を合わせるわけにはいかない。


 となると冒険者などに変装して、ベロアの様子を観察しに来る必要があるのだ。


「それでグレンさん。明日にはファジロードに旅立つのですよね? 一応、今日が最終日だという事でギルドの従業員達が〝送別会〟を開くそうです」

「支店長、そういうのは苦手なんですが」

「いえいえ、フィルネくんの〝王宮就職祝い〟も兼ねているので遠慮なさらずに」

「そうだぜ先輩! こういうのもソティラスの仕事でしょうよ」

「キミが言うなよ……」


 とりあえず、グレンは自分の時の教訓を生かして。

 いきなり依頼をゴミ箱にポイポイして従業員からの反感を買うのではなく。

 最初はグレンの知り合いという事で、普通にギルドに馴染んでもらう事にした。


 それにあたって先ずはグレンが、ベロアを従業員に紹介する必要があるのだが。

 この性格で好き放題言わせたら、さぞかし〝なんだコイツ〟と思われるだろうとグレンは思っていたのだが……


「────と、いうわけで明日から僕はファジロードに行きますが。彼、ベロア・ラーソンの事を宜しくお願いします」

「みんなよろしく! 僕の事は〝ベロっち〟って呼んでねぇ」


 底抜けに明るいベロアの笑顔と挨拶に、従業員一同が固まっていたが。

 その沈黙を壊したのはフィルネだった。


「私はフィルネよ。私もあと暫くしかいないんだけど、その間こき使うから覚悟してよね、ベロっち」

「あはは、よろしくフィルネ!」


 それからは、他の従業員もベロアを囲んで挨拶を始めた。


「ベロっちかぁ。お前面白いな、俺はガイだ。よろしくな!」

「ベロっちくん、これからヨロシク」

「グレンの知り合いなのか、よろしくなベロっち」

「ベロっちくん。可愛いい顔してるねぇ」

「やだ、ベロっち。おもしろーい!」


 とんだコミュ力おばけで、思わずグレンは半身引いてしまったのだが。 

 とにもかくにも、こうしてベロアは一瞬にしてルウラ冒険者ギルドの人気者になってしまったようだ。

 

 

 営業時間が始まるとグレンは、ベロアに掲示板にある依頼書を見ながら、〝ソティラス〟として手を出すべき仕事について教えていると、アリアが訪れた。


「おはよー、グレンくん。新しい従業員さん?」

「はじめまして! 僕はベロア、ベロっちって呼んでね。綺麗なお姉さん」

「わぁ、そうなんだ。ひょっとしてグレンくんの代わりの……?」

「そうさ! 僕こそが今後、ソティラスを引っ張る────痛っ! 先輩、なにするのさぁ」


 グレンに頭をコツンと叩かれたベロアは、両手で頭を押さえながら反論する。


 だが彼には少し厳しくしないと、いつまで経っても自分は教育係から外れられそうにない事にグレンは気付いてしまったのである。


「その名前は出しちゃダメだよ」

「あ。そうだった! 知られたら殺さないとダメなんだよね」

「い、いや、その考えも飛躍しすぎだけどさ。彼女は、たまたま知ってるから良かったけど。二度とギルド内でその名前出さないようにね」


 グレンとベロアのやり取りを見て、アリアはクスクスと笑った。


「グレンくん、なんか一気に先輩になっちゃったね。それより、明日出発でしょ? 私はいつでも出れるからね」

「先輩。この人は彼女ですか?」


 思わず口ごもるグレンの代わりにアリアは言う。


「そうだよ、ベロっちくん。私はアリア」

「おう! これからも、よろしくなアリア!」

「って、これからも……?」


 グレンは、頭にハテナが浮かんでるらしきアリアに〝ベロアの件で新しい勤務先とルウラとを往き来する事になりそうだ〟と伝えると、「なるほど……」と驚きつつ、アリアがグレンに尋ねる。


「じゃあ、結局。あんまり今までと変わらないよね?」

「そんな事ありません。僕はもうルウラでは〝グレン〟として動けないので。たまに冒険者として変装してベロアを監視する事になるんですよ」


 転移出来る事はアリアやマルクスしか知らない。

 ファジロードのギルド支店は依頼件数が多いわけではないようなので、ルウラのように忙しくはないだろうが。


 それでもルウラでのベロアの教育があるので、グレンの生活が今以上に大変になるのは目に見えていた。

 

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