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【冒険者ギルドのお仕事】 ~冒険者からの売れ残りを片付けているのは〝役立たず〟〝ゴミ箱〟と嘲笑われる最強の従業員だった~  作者: 水城ゆき
第二章

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マルクスからのお知らせ

ビリディの証言を聞くに、遺跡での死生蝶の原因はやはり水巫女のリュシカと見て間違いなかった。

 後は王国の騎士団が、残存しているゾンビ魔物の掃討に全力を尽くすと宣言している。

 リュシカ誘拐という特大の事件は、最後の最後まで思わぬ所に厄介な爪痕を残していったわけだ。


 とにもかくにも、以前のレビルによる依頼は、冒険者側の「動く魔物を狩った」という事が嘘ではない為、支払済みの報酬の返金は難しいという事になる。

 となると、再発行された依頼に対して再び金貨五百枚払う事になり………グレンにとっても気が重い話だ。それは、『自腹で貸付けしているから』という事ではない。

 そもそも今回の件は、請け負った冒険者も依頼主のレビルも悪くない。それでも依頼主に二重決済を強いる事になるのは変わらない。それが、グレンにとって少し心が痛む事だった。

 

 とりあえず二回目の依頼掲示は既に貼り出されている。もし他の冒険者が達成したらグレンが立て替えて支払い、レビルは借金を背負う事になってしまう。

故に、この場合一番良いのは依頼は取り下げてしまい、グレン自らがアダマンサイホンを狩ってくる事だ。


そうと決めたグレンは、アリアと解散した後、ギルドに向かって足早に歩いていたのだが。その途中で、渦中のレビルとバッタリ出くわした。


「ああ、ギルドの兄さん! ゾンビ魔物の件、街で噂になってますね。僕も覚悟を決めました。金貨五百枚は必ず分割で支払いますので。よろしくお願いいたします!」


 レビルの凄まじい気迫に押され、グレンはその申し出を反射的に承諾したが、心では彼からこれ以上の追加料金を徴収するつもりなど微塵もなかった。

 急ぎギルドに帰還したグレンは、レビルの依頼書を確認する。それはまだ誰にも受けられずに残っていた。

 直ぐに破棄しようと依頼書の端を掴んだが、その横からフィルネがグレンの腕を掴む。


「……どうしたの、フィルネ? 」

「グレンくん。……キミ、支店長から『あの話』は、もう聞いた?」

「え? ……な、何のことですか?」

「まだ聞いてないのね。……ふん、まあいいわ。どうせ後で嫌でも聞かされるでしょうけど。……それより、その依頼。どうするつもりなの?」


 フィルネの表情がいつになく暗い。その声に沈んだトーンが含まれているのが気になったが、とりあえず誤魔化す。


「あ、ああ。なかなか受けられないみたいだし。目立つ所に張り替えようかな……なんて……」

「そう。でも大会まで残された日数は殆どないし。そんな高難度クエスト、仮に誰かが受注したとしても、生きたアダマンサイホンが直ぐに見つけ出せるとは思えないわね」


 フィルネにしては驚くほど論理的な情勢分析だった。確かに、ゾンビではない生きたアダマンサイホンと出会うのは元から難しい。

その上、出会ったとしてダイヤモンド級の硬度のツノを無傷で切り落とすことは至難の業だ。

 最初の冒険者が達成できたのは、ある種、ゾンビ化した〝別物〟だったからかもしれない。

フィルネは、それを理解しているのだ。

 

 一昔前は受付業務だけを淡々とこなしていたフィルネだが。しっかり冒険者達に寄り添ううちに、現場に必要な専門知識も確実に身に付けていた。


「……そういう事もわかるようになったんですね」

「バカにしないでよ。ギルドのカウンターに何年立ってると思ってるの?」

「そ、それはそうでした」


いつになく妙につっかかってくるなぁ…などと戸惑うグレンに、フィルネが更に踏み込んでくる。


「で。……キミさ、その依頼を誰も達成できないと踏んで、『破棄』するつもりでしょ?」

「いや、それはまだ……」


その通りです、などと言えるはずもなく。グレンが曖昧に言葉を濁すと、彼女はそれ以上深く追及してくることはなく、静かにグレンの腕から手を離した。

 一体全体、何が彼女をあんなにピリつかせているのだ。と若干の戸惑いを覚えつつ、とりあえずグレンは依頼書をコッソリ自分の制服のポケットに隠し入れた。


フィルネが立ち去った後、再度掲示板に依頼書を貼るような素振りを見せつつ、その後は人手の足りない別の従業員の代わりに郊外へ依頼達成報酬の回収タスクに走ったり、混雑する窓口の受付補助を頼まれたりで。

結局、ギルドの営業時間終了までシッカリと動き続けた。

業務終了間際になると、今度は支店長のマルクスから呼び出しを受けた。


 昼間のフィルネの不穏な言動を思い出し、(これが『例の話』だろうか?)と少しドキドキしながらも、グレンは支店長の待つ部屋の扉を開けて室内のソファーへと腰を下ろす。

 マルクスはいつものように高級な紅茶を差し出しながら、即座に本題を切り出した。


「いやはや、グレンさん。他の従業員の方々に納得のいく理由を付けて説明は済ませたのですが……実は先日。中央のギルド本部から緊急指令が届きまして」


 ギルド本部──つまり、リンザールのギルドマスターの意向である。

ルウラ支部の経営状態に何か致命的な脆弱性でも見つかったのか? などと脳内で色々と考えを巡らすが、グレンにはこれといった心当たりはなかった。


「……リンザールからですか。何か僕の業務に問題でも?」

「いや、全く逆ですよ! むしろ評価が高すぎた。色々ありましたが、基本的に我がルウラ支店はグレンさんによって、地域でもトップクラスの安定を確立してます。

そこで本部は、ソティラスの新人の『育成・研修場所』を、このルウラ支店に決定したそうです」


 新人のソティラス。それはグレンにも初耳だった。一体なんの話かと、マルクスへ詳細を求める。

 するとどうやら、グレンが西方大陸で孤軍奮闘している間に、本部では次世代のソティラス要員の育成を開始していたらしい。

 そこで、適度に依頼数もあり、様々な問題を解決してきた事で安定し始めたこの支店を新人の研修場に選んだ、という。


 グレン的には正直「面倒くさい」という感情が先立った。詳細はまだ不明だが、ソティラスの研修というからにはグレンが新人に教える立場になる、ということだろう。

そういった他者への干渉は、グレンが最も苦手とする分野である。

 ────だが。マルクスの口から放たれたのは、グレンの予想の斜め上を行く回答だった。


「……それでですね。本部はグレンさんに、未開拓の支店を切り開いて欲しいらしく。ルウラ支店の管理は新任の方に引き継ぎ、グレンさんは別の支店へ『異動』する事になるようです」

「えっ!? ……あ、そういう事ですか」

「本当に、これほど名残惜しい事はありませんが……今まで本当にお疲れ様でした」


 平静を装っていたが内心では驚き戸惑っていた。二年以上もルウラに駐在して、ようやくフィルネを始めとした同僚たちとも良い関係性を構築できてきた。

依頼の分布も安定してきて、今回の件さえ鎮まれば、当分は平穏に過ごせるだろう……などと、グレンは甘い予測を立てていたのだ。


 異動までの期限は、早ければ二週間以内だという。それは丁度、レビルが心血を注ぐ品評大会が終わるタイミングだ。

 どうやらレビルの為にアダマンサイホンのツノを取ってくる事が、ルウラ支店でグレンが『ソティラス』として関わる最後の仕事となりそうだ。


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