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【冒険者ギルドのお仕事】 ~冒険者からの売れ残りを片付けているのは〝役立たず〟〝ゴミ箱〟と嘲笑われる最強の従業員だった~  作者: 水城ゆき
第二章

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ビリディ達の軌跡

グレン達がナルシーを訪ねて王城へ行くと、不運な事に彼は王国直轄の重要な討伐案件の依頼を出すため冒険者ギルドへ向かった、と言うので。

ナルシーを追ってギルドへと帰還したグレンとアリアは人混みを掻き分けながら、その騎士団長の姿を探した。


 依頼を出しに来ているのであれば当然、受付にいるはずだと、カウンターに向かうと予測通り、フィルネとナルシーの姿を捉えた。

しかし、その二人は何やら深刻かつヒステリックな応酬を繰り広げている。


「────いや、だから。今回の異常発生に関しては彼の持つ調査能力が必要不可欠だと私は判断している!」

「団長様、毎回毎回その決め台詞でうちの事務員を連れ出そうとするの、やめてもらえませんか? 自分の部下を使えばよろしいではないですか。こっちだって人手不足なんです! 」


 早口で捲し立てるフィルネの猛攻。それに対し、王国最強の男がたじたじしている姿は、もはやルウラ支店の名物になりつつある。

 ルベリオンの英雄に対し、あそこまで遠慮なく文句を言える者は彼女くらいだろう。


 〝西の雷〟の異名を持つライトニングスピードのナルシーも、ギルドの看板娘のライトニングマウスには手も足も出ない〟

なんて、酒場の冒険者たちの間でまことしやかに囁かれているのも頷ける。

 そんな修羅場を遠巻きに眺めながら、アリアが呆れたようにポツリと言った。


「そもそも団長さんは、フィルネちゃんに話し掛けるのが間違いなのよ」


 グレンは深く同意の頷きを返す。さらに言えば、ナルシーが直々にギルドへ出向く必要がないという根本的な話に行き着くのだが。

 とりあえず、このままでは仕事が進まないので、グレンは言い合う二人の間に割り込んだ。


「あ、あの。ちょっといいですか、お二人とも」

「おお、グレンくんじゃないか! 丁度良かった、実はキミに頼みたい案件が……」

「だから! 彼は今、忙しいんです! 私の仕事も手伝わないといけないし、依頼主の所へ不良債権を回収しに行ってもらわないといけないし。アダマンサイホンのツノの件も、結局放置だし!」


 何か自分が責められている感が否めないグレンだったが。ナルシーもナルシーで助けを求めるように戸惑っており、この場を鎮圧しない限り本題にも入れそうになかった。

 そこで、先ずはナルシーの持ってきた情報を精査すると、どうやら王国騎士団は、まだ〝死生蝶〟を検知できていないようだった。

あちこちで急増している魔物について、原因を調査し排除してほしいというのが今回のオーダーらしいが。

 まさにそれについて、グレンとアリアは話をしに来ていた。


「あのぅ……ナルシーさん。その調査案件なら既に終了してますよ。後は、対象の魔物を順次排除していけば数日で数は減るはずです。

……それからフィルネ。アダマンサイホンの件も解決するから、もう少しだけ待っててよ」


 そう言って、グレンは二人に地底湖で起きた〝死生蝶事件〟の全容を説明した。

 ナルシーは「なるほど、そんな事が……」と、フィルネは「ふーん、まあグレンくんがそう言うなら」と、ようやく納得して両者の問題も収束した。


「それで、ナルシーさんに一つお願いしたいのですが。実は死生蝶の発生した遺跡の件で、ビリディさんに話を聞きたいのです。何処にいるか知ってますか?」

「ああ、そういう事か。ならば、今から私が案内しよう」


 ナルシーの許可を得て、どさくさ紛れに現場を離脱しようとするグレンに対し、背後からフィルネの鋭い愚痴が飛んでくる。


「ちょ、ちょっと! まだ私のデスクに未処理の書類が山積みなんだけど!?」

「ご、ごめんフィルネ! これが終わったら手伝うよ!」


 頬を膨らませて不満を露わにするフィルネに平謝りし、グレンとアリアはナルシーと共にギルドの外へと踏み出した。

 ナルシーに着いて歩いていると、ルベリオン城の敷地内にある地下牢獄への入り口へ向かっているかのようでいて……その入り口は通り過ぎた。

やがて城の敷地の最果て、ひっそりとした庭園の隅にある小さな離れの小屋に辿り着く。

 一見すれば立派な物置か、あるいは庭師の詰め所といった風情のその小屋こそが、現在のビリディの『家』である。


 大体この世界の牢獄には厳重な魔力結界が敷かれ、脱獄を阻止する仕組みになっている。だが魔力無しのビリディには、その類いのセキュリティは一切機能しない。

 つまり、彼を檻に閉じ込めるのは物理的に不可能に近い。それならば「強制的な拘束」ではなく、城の敷地内という管理された領域で「適度な自由」を与える事こそ、最も合理的で効果的な手段であると、ナルシーは判断したようだ。


 城周囲には常に騎士達が配置されており、至る所で監視の目が光っている。

 傍目には「飼われている野良猫」のような奇妙な扱いだが。国際指名手配され、どこにいても賞金稼ぎに首を狙われるリスクに晒されている彼からしてみれば、城壁の中は案外と快適なのか。当の本人は小屋の前でケロッとした表情で日向ぼっこをしていた。


「おう! 久しぶりだな、相棒。どうした、俺とりに来たか? 俺はまだ、あの森での戦闘を負けたとは認めてねぇぞ」


 ビリディはグレンの顔を視認した瞬間、新鮮な獲物を前にした飢えた獣の目に変わった。相変わらずの戦闘狂っぷりにグレンが頭を抱えると、ナルシーが威厳を持って制した。


「落ち着け。今日は私闘の許可を出しに来たのではない。グレン君が、この西方大陸に上陸してからの君たちの行動について聞きたいそうだ」

「なんだ、そんな事か。……何が聞きてぇんだ? 別にお前らが期待するようなドラマチックなエピソードはねぇぞ」


 ビリディは露骨に興味を失った様子で、その場にドカっと無作法に座り込む。


「ビリディさん。ルウラへ向かって来る途中、古い遺跡を見てませんか?」

「古臭い遺跡がポツンとある湿っぽい森を通ったが。それがどうした?」


 ビリディの回答に、グレンの頭の中のパズルがカチリと音を立てて組み上がった。

 彼はチャミィの認識阻害能力により、誰に救い出されたかの記憶は欠落しているが、シースの軍港に降ろされた後の事はハッキリ覚えていた。

 確かに、リュシカを連れてイルマール大森林の遺跡内部にある『シャトルファングの隠し拠点』を目指したと言う。


 以前グレンが始末した盗賊──ベーチャが、アリアを奴隷船に密送するためにイルマール大森林を北へ抜けようとした事があった。

 彼らの正式なアジトが遺跡内部であったかまではハッキリしていないが、少なくともビリディはシャトルファングの拠点を目指し、人の目を避ける意味も含め、森の中を真っ直ぐ遺跡目指して歩いていたのだ。

 

「……ビリディさん。西方大陸には頻繁に来てたのですか?」

「いや、初めてだ。だから、こっちの奴等のアジトの場所までは俺も正確には知らねぇ。俺たちを助けた『運び屋』の話で知ったくらいさ」


 運び屋──つまり、チャミィの情報によって、ビリディとリュシカは遺跡を目指した事になる。

 チャミィが、その情報をビリディに教えたのは偶然なのか。それともわざとなのか。グレンがなんとなくチャミィへの疑念を深める中、ビリディは言葉を続けた。

 

「……まあ、仲間との合流を期待して遺跡の地下まで潜ったが。実際にはアジトなんて影も形もなかったけどな」

「その探索にはリュシカさんも一緒ですよね?」

「当たり前だろ。あんなボロボロの状態のガキを地上に置いてこれるか」


 ビリディの証言では丁度、遺跡の最深部に辿り着いたのが深夜で、その日はやむを得ずそこで一泊したという。

 ならば、リュシカの持つ強大な精霊の力が、あの石碑に封印されていた古代の精霊たちを目覚めさせたとしても不思議ではないだろう。


 (……今回の一連の事件。地味にチャミィが絡んでるなぁ……)


 偶然にしてはあまりに出来過ぎている状況に、グレンはチャミィとの情報交換には少し慎重になる必要があるのかもしれない、と考えはじめていた。


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