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マルクスからのお知らせ


 ビリディの証言により、死生蝶が解放された原因も検討がついた。

 つまり、また同じ事が起きる可能性は限りなく低いだろう。

 ナルシー達、王国騎士団もゾンビ化した魔物の掃討に全力を尽くすと言っていた。


 リュシカの誘拐事件は、最後の最後まで思わぬ所に爪痕を残していったわけだが。

 これでようやく本格的にアダマンサイホンのツノについて動く事が出来るようになった。


 とにかく、前のレビルの依頼は冒険者から報酬を返してもらう線は難しいだろう。

 となると、もう一度出された依頼に再び金五百を払ってもらうのか……と、言うと。さすがにそれは出来ない。


 何故なら今回の依頼は、どちらも悪くないのだ。

 それを知っていながら二重に払わせるのは、ギルドとしてしてはいけない事だろう。


 とはいえ、ギルドが負担するのも難しい。

 ただでさえ今回の〝死生蝶事件〟でギルドは大きな損害を被っている。

 一時的に建て替えている金額が相当に多い。


 ならば、レビルのアダマンサイホンの依頼は打ち切りにしてグレンが動くのが早い。

 とりあえずレビルの二回目の依頼の掲示は保留にしているので依頼を打ち切りにする為。フィルネに依頼書を貰う必要がある。


 グレンは急いで仕事に戻る為、アリアと解散してギルドへと向かう大通りを歩いていた。

 すると、丁度ギルドへ向かう途中だったレビルと遭遇した。


「ああ、従業員さん。僕はもう覚悟を決めました。もう一度お金を払います。もはや大会は目前で時間はありません。出来るだけ早くお願いします!」


 レビルの勢いに押され、何の説明もする事なくその話を承諾したが。

 彼からこれ以上お金を取るつもりはない。


 急ぎギルドに戻ったグレンは、フィルネにレビルの依頼書について尋ね。それを渡すように言う。

 フィルネは、その依頼書を取り出してグレンに渡す。


 それを受け取ろうと依頼書を掴んだが、フィルネはそれを離さない。


「どうしたの、フィルネ?」

「グレンくん、キミは支店長からあの話聞いたの?」

「え? な、何ですか?」

「まだ聞いてないのね。まぁ、いいわ。キミ自身の事なんだから、どうせ後で聞くだろうけど。それより、この依頼書どうするつもり?」


 フィルネがいつになく暗いので、グレンは支店長の言葉とやらが気になって仕方なかったが。

 今はフィルネからの問いを誤魔化すのが先だ。


「あ、ああ。僕が掲示板に貼ってくるよ」

「もう、大会まで日数がない。今からそれを出しても、おそらく望む結果は得られないわ。依頼がちゃんと受けられたとしても今までのアダマンサイホンが幽霊みたいな物だったなら。やはり本物が見付かっても簡単にはいかないと思うし」


 フィルネにしてはシッカリした見解である。

 アダマンサイホンがホイホイと出る事はないし、出たとしても通常は簡単にツノを切り落とせない。


 最初の冒険者は、それなりに腕の達つ冒険者だったのかもしれないが。今回は失敗が相次ぐ可能性がある事を把握しているのだ。

 彼女なりに日々、勉強しているのだろうという事がグレンには理解出来た。


 一昔前は受付業務だけを淡々とこなしていたフィルネだが、冒険者に寄り添って冒険者として必要な知識も勉強していたのだろう。

 フィルネも少しづつ、従業員として変化しているんだなぁとグレンは感じた。


「そういうの、わかるようになったんですね」

「バカにしないでよ。何年いると思ってるの」


 そんなの意識し出したの絶対最近でしょ? と言いたい所を敢えて、「そうだね」と笑顔で答えてあげるくらいにはグレンも成長している。


「で、キミはさ。その依頼を誰も達成出来ないと思ってるから破棄するんでしょ?」

「いや、それはまだ……」


 何故わかった! と言えるはずもなく言葉を濁した。

 そもそも、今日のフィルネはやけに突っ掛かってくるし鋭い。

 何かあるのか? とすらグレンは思うのだが。


 彼女はそれ以上何か追及してくる事はなく、黙って依頼書から手を離した。


 一体何なのだ、と思いながらも。グレンはとりあえず、その依頼書をコッソリ自分のポケットに入れた。

 掲示板には貼ったような素振りで、その後フィルネの仕事を手伝っていたのだが。


 他にも、別の従業員の代わりに依頼達成報酬の回収に行ったり。受付を頼まれたりと、忙しくギルドの営業時間終了まで働き続ける事になり。


 営業時間の終了と共に、アダマンサイホンを狩りに行こうなどと考えていたのだが。

 終了間際になり、今度は支店長のマルクスに呼び出しを受けた。


 昼頃のフィルネの話を思い出し、これが例の話だろうとグレンは店長室へと入る。

 ソファーに腰かけるグレンに紅茶を差し出しながら、マルクスは早速とばかりに本題を切り出した。


「いやいやグレンさん。従業員の方々には既に、然り気無く理由を付けて説明していたのですが。実は先日、本部から連絡が来て少し話は進んでいたのですが。この度、今回の大事も無事に乗り越えたという事で本部から再度、決定を伝える通知が来ました」


 本部というからには、ギルドマスターがまた何か行動を起こしたのか。それとも何か問題が? とグレンは思考を巡らせるが、何も思いつかない。


「リンザールからですか。何か問題でも?」

「いや、逆ですよ。色々ありながらも、基本的に我がルウラ支店もグレンさんのお陰でかなり安定しました。そこで新任のソティラスメンバーの育成場所として、ここルウラ支店を使うという事になったそうです」


 新任のソティラスとは初耳だ。一体なんの話かと驚き、マルクスに尋ねると。

 グレンがルウラに来ている間に、本部では新しいソティラスメンバーの育成を始めていた。


 ルウラ支店は現在、まだ〝死生蝶の件〟でバタバタしているが。後にそれはすぐに収まる見通しで、比較的バランスの取れ始めているルウラ支店を、新人ソティラスメンバーの実践投入に使う事になったようだ。


 それを聞いたグレンは、正直面倒に思った。

 詳細は知らないが新人というからには、グレンが何かを教える立場になるという事だろう。

 そんなのは一番の苦手分野である、と思っていたのだが。


 ────話は違うようだった。


「それでグレンさんには、もっと未開拓な支店を切り開いて欲しいらしく。新任の方にここを任せ、グレンさんは別の支店に異動になるとか……」

「え!? あ、そういう事ですか」

「本当に名残惜しいですが、今まで本当にご苦労様でした」


 前にマルクスと話した時に彼は『最後の最後までお疲れ様でした』と口にしたので、大袈裟だと思っていたが。

 なるほど、あの時から何となく話は出ていたのだろうとグレンは察した。

 

 にしても驚きは隠せない。

 二年以上勤めて、ようやく従業員とも仲良くなってきたし。

 依頼も安定してきて今回の件さえ落ち着けば当分は楽になりそうだ、などとグレンは思っていたのだから。


 異動は、早ければ二週間以内だという。

 丁度、レビルの大会が終わる辺りなので。このルウラ支店でのソティラスとしての仕事は、アダマンサイホンのツノ取りが最後になる可能性が出てきた。


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