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【冒険者ギルドのお仕事】 ~冒険者からの売れ残りを片付けているのは〝役立たず〟〝ゴミ箱〟と嘲笑われる最強の従業員だった~  作者: 水城ゆき
第二章

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レビルの技術

 素材のトラブルにおいて、全て客の言い分を鵜呑みにしていてはギルドの運営は直ぐに破綻するだろう。

 まして今回のように、『破損したから素材は返せないが、支払った報酬金は返せ』などという理不尽な要求が通れば、一つの支部の売上など簡単に吹き飛ぶ。

 

 しかしながら、アダマンサイホンのツノは、魔物が絶命してから二週間程という極めて短い『消費期限』を持つ素材なので、期限切れによる自壊を主張するレビルの言い分も、理屈としてはわからなくはない。

 そもそもグレンには、このレビルという青年の技術が『極めて高い』という事を認めるだけの根拠があった。


 それは前に一度、グレンが個人的にレビルの店へ〝魔晶石〟の加工を依頼した事があるからだ。

 出来上がった品を受け取った時、てっきり店の主人が直々に加工したものだと思っていたが、『それを加工したのは息子のレビルだ』と、店主──ホーリックから自慢げに聞かされたのは記憶に新しい。

 超高密度の魔力が圧縮された〝魔晶石〟は、少しの波長のズレで容易に暴発する危険物であり、その取り扱いの難易度は〝アダマンサイホンのツノ〟の比ではない。

そんな劇物を、彼は見事に精密な〝瓶〟の形状へと削り出して見せたのだ。


 故に、彼の加工技術が未熟であるとは、グレンには到底思えなかった。

 となれば必然的に、今回納品されたアダマンサイホンのツノが『劣化した古い品だった』という事になるのだが。これを証明するのに一番手っ取り早いのは、納品した冒険者に直接聞く事だろう。

 しかし、もしもその冒険者が元々持っていた賞味期限切れのゴミを納品するような不正をおこなっていたとして、ギルドの窓口で素直に白状する事など絶対に無い。

 だからといって、証拠不十分を理由に善良な依頼主を見捨てるようなら、『ソティラス』は必要ない……。

そこで、グレンはフィルネの対応に静かに口を挟んだ。

 

「……あのぉ。ちなみに、レビルさん。どうしても今すぐその素材が必要なら、ギルドへ『もう一度、同じ素材の緊急依頼』を出す必要があるのでは?」

「もちろんですが、 再度依頼を出す為にも資金が必要です!」


 一切の淀みなく即答するレビルを見て、グレンは内心で小さく頷いた。

 もしこれで言葉を濁すようなら、実はツノは壊れてなどおらず、ただ金貨五百枚を騙し取りたいだけの〝悪質なクレーマー〟だと即座に判断する所だ。

彼の言葉からは、あくまで『大会に出品する作品の完成を目指す』真の技術者の熱意を感じたのだ。


「急ぎなら、僕の権限で再度依頼書を作らせてもらうので。一旦、返金の件は保留にしませんか?」

「それは……助かりますが、お金を返してもらわないと次の依頼の報酬を先払いする費用もないんですよ」

「そちらの破損原因を調べるのには時間がかかると思うので、今回の再依頼のギルド報酬は『僕からの信用貸し』という形でどうですか? 万が一返金が認められなかった場合も、支払いは分割でかまいません」


 グレンのその常軌を逸した提案を聞き、慌てて隣にいたフィルネが食ってかかる。


「な、金貨五百枚よ!? 次の依頼を達成した冒険者にも、金貨五百枚を一括で払う必要があるのよ!?誰がそんな金額を……」

「そこは僕が個人的に貸し出します。それに、もしレビルさんの言ってる事が本当だと証明できれば、前の冒険者に支払った報酬は全額取り返せますよね?」


 グレンが平然と言い切ると、フィルネは「はぁ!?」と完全に理解不能な間の抜けた声をあげる。

 レビルも、ギルドの職員が自腹を切るという異例の事態に驚いたような顔をした。だが、直ぐに意を決したように首を縦に振った。


「……どうしてもツノが今すぐ必要なので、それでお願いします!」

「わかりました、契約成立です。ではとりあえず昨日のツノが『本当に魔力枯渇で破損したのか』だけ、念の為に現物を確認させてください」


 フィルネは「もう勝手にして……」と呆れたように大きくため息を吐き、デスクに突っ伏した。

 だがグレンは、〝十中八九〟レビルの主張している事が事実であると信じている。

 冒険者が不正を働き、魔力の抜けた『古いツノ』を掴ませたのか、もしくは他の原因があるのか。

とりあえず、破損したというツノの現物を見る事にして、切断面の魔力残滓や組織の崩壊具合を見れば、それが新鮮な状態で壊れたのか、それとも古くて自壊したのか、ある程度は判断出来る自信がグレンにはあるのだ。


「ではレビルさん。破損したツノの現物はお店ですか?」

「はい。工房の作業台に戻れば、そのまま残してあります」

「では、今すぐ現場へ伺いましょう」


 ドンドン話を進めていくグレンに、フィルネは「ちょ、ちょっと、窓口業務放り出さないでよ!」と慌てて呼び止めていたが。

 これはギルドの信用に関わる正当なクレーム処理だから問題ないだろうと、フィルネの声を遮り、グレンとレビルは連れ立ってギルドを出た。


 工房に向かって石畳の道を歩く途中で、レビルが不思議そうな、しかし少し嬉しそうな顔でグレンに尋ねた。


「あの……どうして、あなたは僕の言葉を信用してくれるんですか?」

「ああ、実は……」


 と、グレンがかつてホーリックの店で極秘に依頼した『魔晶石の瓶』の話をすると、レビルは「あ! あの時の瓶の人でしたか!」と驚いたように目を丸くした。

 あのとき彼は、父親に「これも修行の一環だ」とだけ言われており、それがどこの誰の依頼で、どれほど危険な代物かも知らされずに無心で瓶を製作したという。

 

「……だから僕は、レビルさんの腕前は信じているんですよ。今年の品評大会は、お父さんではなくレビルさんが出場するんですか?」

「はい。そろそろ世代交代で店を継ぐ事も視野に入れて、父が僕を推薦してくれて……」


 レビルが少し照れくさそうに話し始めた時。突然、背後の路地から「おい」っと、チンピラのような耳障りな声がかけられ、二人は立ち止まって振り返る。

 そこには、レビルと同年くらいの、派手な装飾の服を着た高慢な顔つきの青年が立っていた。


「おい、レビル。大会用の素材は見付かったのかよ? まあ、どうせ良い素材を見付けたところで、お前の腕じゃろくに加工出来ねーだろうけどな。せいぜい、会場で笑い者になるようなガラクタ作るんじゃねーぞ?」


 そう言って青年はレビルを嘲笑する。

明らかにライバルへの敬意など欠片もない、完全に小馬鹿にしたような不快な響きを含んでいた。


「……大丈夫ですよ。必ず、タナトス君の作品に勝てる最高の物を用意してみせますから」

「ほう。いつも親父の影に隠れてる癖に、随分と吠えるようになったな。せいぜい頑張れよ。まあ、俺が最高の魔道具を作って、才能の差ってやつを見せ付けてやるよ!」


 捨て台詞を吐いて去っていく青年の背中を見て、レビルは悔しそうに下唇を強く噛み、両手の拳を握り締めていた。

 〝ルウラ魔道具技術大会〟は、ルベリオン王国の王都ルウラで毎年この時期に盛大に行われる職人の祭典で、ここで優勝すれば、丸一年は圧倒的な人気店としての利益が約束されるほどだ。

 ここ数年は、レビルの父親であるホーリックの店が技術力で連覇し勝ち続けていた。


しかし今年からは、店の看板を背負って息子のレビルが表舞台に立つ事になった。

 そして、さっきの嫌味な青年──タナトスは、若手ながら去年から既に大会に出場している実力者らしく。去年はホーリックに次ぐ『二位』だったそうだ。

普段の市販品の製造では利益の効率を考えて、失敗リスクの高いレア素材は滅多に使わないが、職人のプライドがぶつかり合う一年に一度の大会の時だけは別。


 自分の持てる技術の全てを注ぎ込んだ最高傑作を出して勝負するのだから、原価を度外視して素材の質に拘りを持つのは当然の事だ。

 こうなると、今回の『古い素材の納品事件』は、単なる冒険者の不正ではなく、一位の座を狙うタナトス陣営からの何らかの〝妨害工作〟という線も考えられるのではないか……と、グレンは探りを入れるようにレビルに聞いてみたが────。

 

「……タナトスは確かに嫌味で性格の悪い奴だけど、僕たちは小さい頃から二人で技術を高めあってきました。……あいつが不正をする人間だとは思えないですね」


 実直なレビルはそう擁護するが、裏社会で数々の欲望を見てきたグレンは違う。

 実は裏でタナトスが冒険者とグルになって、意図的に魔力の抜けた古いツノをギルド経由で渡したという可能性は、決してゼロとは言い切れない。

 あくまで、タナトスという青年を『容疑者』から外す事はしなかった。


 やがて、工房に着き。レビルに作業台の上の〝無惨に砕け散ったツノの破片〟を見せてもらった瞬間。グレンは気付いた。

 そのツノの切断面は凄く新しいものに見えるのだが、肝心の魔力が全く感じられない。

 冒険者の証言通り、間違いなく直近まで生きていたアダマンサイホンから切り落とされた『ツノ』ではあると思われた。

しかし、レビルの証言通り、魔力は無い。


 そうなると冒険者の不正とも、レビルのクレームとも考え難い。

さて、どうしたものか……と、グレンは頭を抱えた────。

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