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【冒険者ギルドのお仕事】 ~冒険者からの売れ残りを片付けているのは〝役立たず〟〝ゴミ箱〟と嘲笑われる最強の従業員だった~  作者: 水城ゆき
第二章

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クレーマー

 ◇◇◇◇◇


 世界中をパニックに巻き込んだ『水巫女誘拐事件』の真の黒幕は、あろうことか実の父親──王配エルギルトであったという真実は、瞬く間に全世界へ知れ渡った。

 リュシカ本人の証言により、エルギルトの計画は全て白日の下に晒され。王配……もとい、権力を剥奪された〝元〟王配のエルギルトには、聖王国女王の命令により『斬首刑』が確定した。

 

 王族に対する処罰としては手厳しい判決だとは思ったが、あまりにも国際的な影響力が大きすぎる事件だった為、たとえ夫であろうとも、国としてシッカリと〝示し〟をつける必要があったのだろう。

 血を分けた娘を売り飛ばそうとした男は、誰からも同情される事なく、首と胴体を分かたれてその生涯を終える事となった。


 しかし、ビリディが偽装取引の際にエルギルトに『アイツに引き渡してくれ』と念押しされた〝アイツ〟については。

エルギルトも最後まで口を開かなかった。

 状況から推測すれば、取引の窓口であった海賊カニバリズム自体か──または容赦なく海賊船を沈めようとしたマールーン公国あたりが関わっているかもしれないが、断定出来る証拠はなかった。

 

 そして、今回の事件解決のある意味で最大功労者であるビリディに関してだが。

脱獄犯である彼は中央大陸モーリス王国の絶対牢獄『ワーズサニー』へ連れ戻される予定だったが。聖王国の女王は、娘であるリュシカの強い嘆願を受け、恩赦としてビリディの罪を軽くするようルベリオン王国へ外交的な提案を持ちかけたという。


 ルベリオン王国の上層部で、特級犯罪者の取り扱いについて議論がなされたが。ビリディ本人が特に抵抗も逃亡の素振りも見せず、大人しく牢獄入りを受け入れた態度が功を奏して、結果的に〝ルベリオン王国で身柄を拘束する〟という妥協案の形で、モーリス王国側とも話がついていた。


 ビリディからすれば、どんな環境だろうが人間離れした身体能力を持つ彼のことだ。その気になれば、ほとぼりが冷めた頃に再びサクッと脱獄する事も容易いだろうが。実は、そもそも投獄されてはいなかった。

騎士団長ナルシーの政治的な取り計らい(根回し)があり、定期的な騎士団への近況報告を条件に、事実上の〝野放し〟状態にされている。


 何はともあれ、世界中を震撼させた『水巫女誘拐事件』と、中央大陸の『ビリディ脱獄事件』という二つの問題は同時に解決された事で、途端にアチコチの冒険者ギルドは通常運転へと戻った。

そんな大きな事件解決後、ルウラの冒険者ギルド窓口では、一変してスケールの小さい、しかし実務的には極めて面倒くさい問題が起きていた。


「はあぁ……。そう言われましても、私共としましても非常に困るんですけど」


 グレンの横で、受付嬢のフィルネがカウンター越しに身を乗り出してくる客に向かって、本日何度目かわからない深いため息と共に事務的な返答を繰り返していた。

 客の名前は『レビル・ワーフ』。二十歳そこそこの青年だが、ルベリオン王国では名の知れた有名な〝魔道具屋〟の息子である。

 魔道具屋とはズバリそのまんま、マジックアイテム等を専門に扱っている小売店の事だ。


ルウラにも何店舗かあるが、どこも所狭しと緻密に配置された真鍮の歯車や、貴重な鉱石の欠片が並ぶショーケース、そして精巧な彫刻が施された杖などが壁一面の棚にギッシリと陳列されている店ばかりだ。

 それら販売されている魔道具にも様々な仕様があり。実際に高位の魔法使いによって直接魔法が付与された道具、特殊な鉱石の性質を利用して魔法の〝ような〟便利な効果を発揮する日用品。

他には、ステータスを微増させるアクセサリーであったり、多種多様である。


 それらの製品価値は、作る職人の『加工技術』や、使っている『素材の質』の掛け合わせによって性能が劇的に変わってくる。

 似たような効果を持つ商品でも、品物の出来によって市場価値は天と地ほど違ってくるので、その店の職人の腕前が売上に左右する世界だ。


 詰まる所が魔道具の良し悪しは〝技術〟と〝素材〟の二つに依存しており、両方が最高であれば、そりゃあ性能も価格も高い商品が出来上がる。

 職人には己の魔力波長に合った得意な素材なども存在するため、腕の良い職人程、自分の加工技術を100%引き出せる『完璧な状態の素材』を求めて、仕入れへの拘りが異常に強くなるのも常だ。


 そうしたレア素材の調達は、市場の流通ルートで手に入れられる物以外は、ギルドを経由して冒険者に直接採取を依頼する事が多いのだが。

 今、その取引された『素材』を巡って致命的な商業トラブルが発生していた。


「だから! その素材は加工の途中で粉々に壊れてしまったんですよ! 僕としても、次の素材を調達する為にまた依頼を出さなきゃいけないし、その為の事業資金は絶対に必要なんです!」

「ギルドの契約規定としましては、お渡しした素材の『現物』を返品していただかない事には、システム上ご返金の手続きは難しいのです……」


 フィルネの返答に、レビルはどうしたものかと頭をガシガシ掻きながらも更に食い下がって反論してくる。

 

「納品された素材は本物でしたが、指定した鮮度とは全く違ったんです! それは明確な契約条件の不履行じゃないですか?」

「アダマンサイホンのツノは超レア素材ですし、基本的に納品時の外観だけで鮮度を証明するのは不可能に近いんです。それに、納品された冒険者の方は『確かに狩ったばかりの新鮮な物だ』と証言しておりましたので」

「その冒険者の言葉を鵜呑みにして、十分な検品をしなかったギルド側のミスなんじゃないですか!?」

「それは……っ」


 痛いところを突かれ、フィルネは言い返す言葉を失い、グッと押し黙った。


 事の始まりである一つの依頼──『アダマンサイホンのツノの納品(採取から一週間以内の物に限る)』がギルドの掲示板に張り出されたのは僅か四日前の事である。

 魔道具職人の技術を競う大規模な品評会に出品する魔道具を作る為に、レビルはこの新鮮な〝ツノ〟を血眼になって求めていた。

 そして、その高額依頼は昨日、早くも一人の腕利き冒険者によって達成され。グレンがその素材をレビルの店に納品し、報酬金である『金貨五百枚』という莫大な売掛金をキッチリと回収してきたばかりなのだが。


 今日になって、レビルは血相を変えてギルドにクレームを叩きつけてきた。

 『新鮮な物を依頼したのに、納品された〝ツノ〟はかなり日数が経過していた』という内容である。

 ツノが新鮮だったかどうかを加工後に証明するのは不可能に近い。 しかし、そもそも依頼が出されてから四日しか経っておらず、冒険者が依頼内容を見てから行動したなら確実に四日以上は経過していないとも言える。


 では何故、彼はそこまで「劣化していた!」と言い張るのか……。

 レビルが言うには、〝魔道具の加工途中で、ツノが粉々に破損してしまったから〟という理由だった。

アダマンサイホンという魔物は、絶命してからおよそ二週間程しかツノの内部に魔力が残留しないという、在庫管理が極めて特殊でシビアな素材だ。

 魔力が充填されている期間内ならば特殊な刃で加工出来るが、魔力が完全に抜けてしまった状態で加工しようとすれば間違いなく砕け散るという。


 では、レビルの言う通り、納品された時点で既に古かったのか?

 しかし、実は魔道具業界における基本的観点から見れば、アダマンサイホンのツノに限らず、素材の加工時に『職人自身の技術不足』によって素材を破損させる事は日常茶飯事なのだ。


 加工に失敗すれば、その材料費は全て丸々損失となって重くのしかかる。その為、一般の職人は赤字リスクを恐れてあまりレア素材を使いたがらない。だが、それを無事に加工できたレア素材の魔道具は、そのリスク分も上乗せされるため販売価格は跳ね上がる。

 しかし、加工途中で一切破損させない完璧な職人の方が圧倒的に少ないため、アダマンサイホンのツノをメイン素材に使う魔道具屋自体が市場では非常に珍しかった。


 つまり、納品されたツノが新鮮だったか古かったかという以前に、『レビル自身の加工技術が未熟だった為、破損させてしまった』という可能性も疑われている。

 技術を証明するほど彼の作品は世に知られていないので、ギルドとしては納品してきた冒険者に責任転嫁して責める事は出来ない。

 ただ、レビルの店は、精緻な歯車や複雑な魔力回路の構築において、確かに加工技術的にルウラで一位、二位を争うトップクラスの魔道具屋である。


 「あなたの加工技術が未熟だったから壊したんでしょう?」と言うのは、名店に対する侮辱にあたる。

 ただ。それも、店の主人である天才職人『ホーリック』が直々に加工してた場合ならば、の話だ。

 今回、品評大会に向けてツノを加工したのは、あくまで実務経験の浅いホーリックの息子、レビル。彼は父親ほど有名な職人ではないので、純粋に「技術不足の可能性が否定できない」という理由で返金要求を断るのは、ギルドとしての〝通常対応〟である。

 だが、レビルは必死に食い下がった。


 「自分の技術的な加工ミスで壊れたのなら、刃先から伝わる手応えでわかる! 今回は加工ミス以前の、納品段階での魔力枯渇が絶対的な原因だ!」


 ビジネスの契約上、普通ならばとんだ言い掛かりである。商品の検品を済ませ、受け渡しが完了した時点で、法的にも所有権は完全に受け取った側に渡るのが市場の絶対ルールだ。

 事後報告で一々全額返金に応じていては、ギルドの帳簿も冒険者の生活も破綻してやってられないので、このタイプのリスキーな素材依頼はとうに消え去っているだろう。


 つまり、五百ゴールドという莫大な材料費を一瞬にして自らの手で『損失』へと変えてしまい、その補填を販売元に押し付けようというレビルの行為は、ただの悪質なクレーマーに過ぎない。


 ────ただ一人。このギルド内で、グレンだけは、レビルがクレーマーだとは思っていなかった。

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