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クレーマー


 ◇◇◇◇◇



 水巫女の誘拐事件は、王配エルギルトが黒幕だったという衝撃の真実で全世界に知れ渡った。


 ビリディとリュシカの発言によりエルギルトの計画は全て明るみに出る事になり、王配……もとい〝元〟王配のエルギルトは、セルシアクベイルート聖王国女王の命令により斬首刑が決まった。

 彼に協力した他数名の船員も共犯として斬首刑だ。


 なかなか手厳しい判決だとは思ったが。

 あまりに大きな事件だった為、自分の夫とはいえ今後も二度とバカな事を考える者が出ないように、シッカリと〝示し〟をつける必要があったのだろう。


 自分の娘を海賊に差し出した男は、誰にも同情される事なくその生涯を終える事となる。


 ビリディは偽装取引の際、エルギルトに『アイツの所へ届けてくれ』と言われていたようだが。

 エルギルトはその〝アイツ〟については何も言わなかった。


 普通に考えれば海賊の頭の事なのだろうが。

 そもそも、カニバリズムは義賊とも言われているので、危険な水巫女をどう扱うつもりだったのか?

 そこが、グレンは気になっていたが今となっては知る由もない。


 そしてビリディに関しては当初、脱獄した中央大陸モーリス王国のワーズサニーへ連れ戻される予定だったが。

 彼は今回の水巫女事件解決に大きく貢献している。


 聖王国女王は娘であるリュシカの願いを受け、ビリディの罪を軽くする事をルベリオン王国に提案した。


 ルベリオン王国では、それについて議論がなされたが。  

 しかし、ビリディは特に抵抗も無く牢獄入りを受け入れた態度と騎士団長ナルシーの取り計らいにより〝ルベリオン王国で身柄拘束〟という形で、モーリス王国とも話がついたようだ。


 ビリディにしたら、モーリス王国での扱いより多少は優遇されるので悪くない結果だろう。

 とはいえ、彼の事なので再び脱獄する事も考えられなくはないのだが。



 とりあえず世界中を騒がせた水巫女事件と、中央大陸のビリディ脱獄事件の二つは同時に解決された。

 世界を騒がせた大きな事件がなくなり、途端にアチコチの冒険者ギルドは通常運転になったわけだが。


 ルウラの冒険者ギルドでは些細な問題が起きていた。



「はあぁ。それは、私共としましても困るんですが」


 と、グレンの横でフィルネはカウンター越しにいる客に深いため息と共に答えていた。

 

 客の名前はレビル・ワーフ。

 年齢は二十歳そこそこだが、ルベリオン王国では有名な〝魔道具屋〟の息子である。


 ルウラの街には魔道具屋が数件ある。

 魔道具屋とはズバリそのまんま、マジックアイテム等を専門に扱っている店の事だが。

 魔道具にも様々な物がある。


 実際に魔法使いにより魔法が込められた道具であったり、魔法の〝ような〟効果を発揮する道具であったり、アクセサリーであったり様々なのだが。


 それらは、作る職人の技術や使ってる素材等で性能は変わってくる。

 似た効果の商品でも、品物の出来によってその度合いは違ってくるので店に付いている職人によって、売れ行きは変わってくる。


 魔道具の良し悪しは〝技術〟と〝素材〟の二つがあり、両方が良ければそりゃ最高に良い物が出来上がる。

 職人には得意な素材などもあるので、腕の良い職人程自分に合った素材を求めて拘りが強くなるのだ。


 素材の調達は、自分で手に入れられる物以外は冒険者に依頼する事が多いのだが。

 今回はその素材を巡って問題があった。


「だから、あの素材は壊れてしまったんです。僕としても次の素材を調達する為にまた依頼しなきゃいけないし、お金は必要なんですよ」

「ギルドとしては、渡した素材を返していただかないと返金が難しいのですが……」


 フィルネの返答にレビルは、どうしたものかと頭を掻きながらも更に言い返す。

 

「素材は本物だが鮮度が違ったら、それは条件と違うんじゃないですか?」

「アダマンサイホンのツノはレア素材ですし。基本的に鮮度の特定は難しいのです。それに冒険者の方は確かに狩ったばかりだと証言しておりましたので」

「確認不足はあなたのミスではないのですか?

「それは……」


 フィルネは言い返す事が出来ず、押し黙った。



 事の始まりである一つの依頼〝一週間以内に狩ったアダマンサイホンのツノの納品〟が掲示板に張り出されたのは僅か四日前である。


 魔道具職人の技術を競う大会に出品する物を作る為に、レビルは〝ツノ〟を求めていた。


 そして、その依頼は昨日、早くも一人の冒険者によって達成され。

 グレンがその素材をレビルの所に持って行き、報酬金である金五百を回収したのだが。

 今日になって、レビルはギルドに苦情を出してきた。


 『新鮮な物を依頼したのに、あの〝ツノ〟はかなり日数が経過している』という苦情である。

 ツノが新鮮だったかどうかを判断するのは、そもそも不可能に近いが。


 何故、彼はそう言い張れるのか……。


 レビルが言うには〝魔道具の製作途中で破損した〟というのが彼の言い分だった。


 アダマンサイホンは、死んでから二週間程ツノに魔力が残るという特殊な素材だった。

 その間ならば加工出来るが、魔力が残っていない状態で加工すれば間違いなく壊れるというのだ。


 では、やはり古かったのか? と、思われがちだが。

 実はアダマンサイホンのツノに限らず、素材の加工時に職人の技術不足で破損させる事は多い。

 その為、職人はあまりレア素材は使わないし、レア素材の魔道具は当然値が張るわけだ。


 むしろ破損させない職人の方が少ないので、アダマンサイホンのツノを素材に使う魔道具屋は珍しいのだ。


 つまりツノが新鮮だったか古かったか以前に、未熟だった為に破損してしまった可能性は考えられる。

 それを証明する術はないので、ギルドとしては冒険者を責める事も出来ないのだ。


 ただ、レビルの店は確かに素材の技術的にルウラで一位、二位を争う魔道具屋である。

 加工技術が未熟と言うには失礼に当たる程だ。

 それが、店の主人『ホーリック』ならばの話だが。


 今回、加工したのはホーリックの息子、レビルであり。彼はそこまで有名な職人ではないので、技術不足を理由に返金を断るのは〝通常の対応〟である。


 だが、レビルは言うのだ。

 加工のミスで壊れたなら自分でもわかるが、今回は加工ミス以前の劣化が原因だと。


 普通ならとんだ言い掛かりである。

 受け渡しが完了した時点で、後は受け取った者の責任となるのが普通だ。


 こんな事で一々返金していてはギルドも、冒険者もやってられないので。とっくに、このタイプの依頼は世の中から消えてしまっているはずだ。

 つまり、レビルのやってる事はただのクレーマーなのだ。


 ただ、グレンはそうは思っていなかった。


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