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【冒険者ギルドのお仕事】 ~冒険者からの売れ残りを片付けているのは〝役立たず〟〝ゴミ箱〟と嘲笑われる最強の従業員だった~  作者: 水城ゆき
第二章

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現れない海賊

 ◇◇◇◇◇


 今回の事件には、重要な未解決タスクが残されている。

 リュシカの引き渡し先として予定されていた海賊──正確には海賊を使って取引している相手を暴く事だ。

 大元の取引相手については、情報屋のチャミィも詳しく知らないと言うので、どういう連中が現れるのかはハッキリとわかっていない。


 ただ、中継している海賊の事はある程度、明らかにされている。

 二本の剣に貫かれる狼の紋章。その威圧的なエンブレムは、ビリディいわく〝カニバリズム〟と呼ばれる海賊のマークであり、中央大陸を拠点とするかなり大規模な海賊団だという。


「ねえ、グレンくん、どうするの? リュシカちゃんを引き取るって言った連中でしょ?」

「正直、実際の取引現場を抑えられなければ、法に則って彼らを捕縛する事は不可能です。ただ、彼らは一部の界隈で〝義賊〟とも呼ばれてるみたいですから、水巫女を引き取ってどういう目的に利用するつもりだったのか、彼らの真意は探っておかないと」


 世界的に悪名高い巨大な犯罪組織といえば、ビリディのいる『シャトルファング盗賊団』が有名だが。海上の覇者(海賊)ならば、間違いなくこの『カニバリズム』がトップに君臨しているとビリディは断言していた。

 しかし、グレンの記憶において、カニバリズムの名前が冒険者ギルドの依頼や手配書で大々的に目に入る事は殆どなかったのだ。


 それには明確な理由がある。多数の民間人からの被害報告から明らかになったシャトルファングと違い、カニバリズムの被害者は、その殆どが『同業の海賊』や『密輸業者』で、稀に一般の商船などが襲撃される事もあるらしいが、襲われた船が何故か被害届を一切提出しないのだ。

 おそらくは、彼らが標的にしているのが、非合法な兵器や違法な麻薬など、国家機関には報告出来ないような『裏の積み荷』ばかりだからと言われている。


 事実。カニバリズムの名は、同じ裏社会のもの達を食い殺す〝同族殺し(カニバリズム)〟からきていると考えられる。

同じ海賊から恐れられる存在であり、民間人には手を出さないので、所謂〝義賊〟的な側面を強く持っていると言えるだろう。

 

 ビリディ曰く、シャトルファングも結成当初は、権力者や裏でせこい稼ぎ方をしてる者をピンポイントで狙う〝義賊〟の集団だったらしいが。

 組織の規模が巨大化するにつれ、末端の〝個々〟が自由に動きすぎるようになり、各地で無秩序な悪事が目立つようになってしまったようだ。


 そういう意味では、カニバリズムも〝世界〟の海を舞台に大規模な組織で暗躍しているわりには、シャトルファングのような末端の暴走や悪い噂が一般社会に広まらないのは驚異的だ。

 組織の管理が余程上手く機能しているのだろうと、グレンなりに評価しており。

そんなカニバリズムという組織を直接見てみたいと思ったのも確かで。そんな強固な統制力を持つ組織が、一体どんな人間を現場に送り込んで来るのかという、グレンの純粋な好奇心もあった。


────しかし。運命の翌日の朝となっても、指定座標である無人島付近の海域にはただ一つの船影も現れなかった。

 海賊船どころか、民間船すら一隻も通らないまま、虚しく時刻は正午を回り。雇われた冒険者達も慣れない船上での長時間の待機に飽き飽きしてきたようで、甲板で無駄口を溢し始める。


「おい、もう現れないんじゃないか?」

「先日の大規模な騒ぎで、何か異常を察知されたのかもしれないな。とりあえず、指定時刻は過ぎたしこれで依頼もクリアだな」

「カニバリズムって、組織的大海賊のわりに実際に見たって話をあまり聞かないしな。眉唾なんじゃないか?」


 冒険者達の弛緩した様子を見て、グレンも(これ以上の待機はリソースの無駄だ)と判断し、作戦の終了とマリンルーズへの帰還を決定した。

 相手の危機察知能力は思った以上に高く、事前に下見でも放っていたのかもしれない。あるいは……チャミィが、二重スパイとしてカニバリズム側にも『今回の偽装作戦』を流した可能性も、ゼロではないのだ。


 それについては後程、直接問い詰めてみる事にして、結局何の成果も得られなかったグレン達は、ルウラの冒険者ギルドへと帰還する事になった。

 今回の海賊役の依頼報酬は、事前に〝いちおうの依頼者〟であるチャミィがギルドに支払う手筈になっているので、この一件は一応の完了となる。

 グレンが雇った冒険者達を引き連れてギルドのフロアに戻ると、待ってましたとばかりに、受付嬢のフィルネが一枚の書類を片手に不機嫌そうに話しかけてきた。


「あら、随分と早かったのね。はい、これ。依頼主から正式な完了サインを貰っておいてね。昨日、こっちに今回の件の莫大な報酬金が支払われたわ。

本当に謎の依頼主ね。まあ、こっちとしてはあんな大金を直接回収に来いと言われても困るから助かるけど。ただ、ギルドの規定上『依頼主のサイン』は必要だから」

「そ、そうだね。ちゃんと依頼主に言っておくよ。ははは……」


 と、フィルネの追及を誤魔化すようにグレンが視線を外した先──掲示板の死角に、まるでグレンの帰還を待っていたように、チャミィがちょこんと座っている。

 いつも以上に周囲の冒険者に溶け込んでおり、危うく見落とす所だった。


 こんなオープンスペースで話をするのはセキュリティ上危険なので、たった今フィルネに与えられた『サインの回収』という正規の仕事を隠れ蓑に利用しようと、グレンは瞬時に機転を利かせた。


「とりあえず、僕は今すぐ依頼主にサインを貰ってくる事にするよ。じゃあフィルネ。後は冒険者たちへの『ギルド報酬の分配』よろしくね!」

「……は? あ、ちょっと待ちなさいよ……!」


 背後から呼び止めるフィルネの声を聞こえなかったフリして、グレンはその場を足早に立ち去る。

 グレンと一緒に帰還した冒険者達は、一同にカウンターのフィルネに向かって「おい、早く報酬を」と依頼完了報告になだれ込む。

 小柄なフィルネの姿は、一瞬でガタイの良い冒険者たちに囲まれ見えなくなってしまった。

 

 グレンは自分に続いて外へ出てきたチャミィと二人で、裏路地の薄暗い酒場へと入り、一番奥の人っ気のない席に座った。

 彼女は早速いつものように大量の酒を注文していたが、グレンはフィルネから預かった完了報告の書類を差し出して言う。


「これにサイン頼むよ」

「わかったにゃ。ササッと書くにゃ。……それより、そっちのメインタスクは上手くいったかにゃ? こっちに、ルベリオン王宮内の情報は入って来てにゃいが、にぃ様は約束をちゃんと守ってくれたにゃ?」

「ああ、何の問題もないよ。ビリディは今頃、ルベリオンの騎士団によって脱獄と密航の罪でシッカリ裁かれているはずだ」

「……本当に、間違いないかにゃ?」


 チャミィは、ワーズサニーのギルドからの依頼で脱獄犯であるビリディの情報を追っていたので、彼女にはエルギルトの罪を暴く作戦に協力してもらう代価として、『ビリディの捕縛』という顔は立ててやらなければならない。

 その事については、今回の作戦を始める前に、ビリディ本人にも〝一旦〟「大人しく捕まる」という条件で了承してもらっていた。

 ビリディの脱獄騒動も何らかの形で解決させないと、中央大陸・ワーズサニーのギルドの多大な負担を減らせないのだから仕方ない。


 とはいえ。

 今回の水巫女事件は、ビリディの存在があったからこそ解決した側面が大きいことは、グレンから騎士団長ナルシーに、司法取引として強く口利きしてある。

その結果、ビリディの脱獄の罪は軽減される事になっていた。


 そもそも、ビリディは巨大組織の〝若頭〟というだけで特A級の賞金首として登録されているが。彼個人の手によって直接的な被害を受けたという届は、不思議なことに過去一件もなかったりする。

 

「……それよりチャミィ。あの後、無人島に取引相手が現れなかったんだ。まさか、キミが裏で手を回して、彼らに情報を売ったりしてないよね?」

「心外だにゃ! それは絶対にしてにゃい」

「まあ、チャミィがそう言うなら、今回は信じておくよ」

「……にぃ様は、相変わらずいちいち疑り深いにゃあ」


 チャミィは不満そうに目を細くして、ジョッキの酒を一気飲みした。

 実際のところ。損得勘定で動くケットシーという種族を、完全に信用するのは難しいが、事実として今回の作戦によって彼女に任せた脱獄犯ビリディの捜索タスクは片付き、ワーズサニーのギルドも通常業務に戻れるのも確か。


 更に、世界を揺るがせた水巫女誘拐事件も、黒幕の逮捕によって完全に解決した為、中央大陸のギルド全体の王国案件は落ち着き、未処理依頼数も徐々に減ってくる。

総合的に考慮すれば、彼女の多少の裏工作(小遣い稼ぎ)には目を瞑る事も必要だと、グレンは判断した。


「タスクも完了したし、じゃあ、我輩は中央大陸に戻るにゃ」

「ああ、長丁場お疲れ様。じゃあまた何かあったら頼むよ」


 チャミィは「またにゃ、にぃ様」と、最後のジョッキの酒をグイっと豪快に飲み干すと、テーブルにジャラジャラと代金を投げて身軽に席を立った。

 己の役目を完璧に終えて去って行く、どこか逞しい彼女の後ろ姿。それを静かに見送っていたグレンは、チャミィの背中の肩甲骨のあたりに、黒い『刺青タトゥー』が彫り込まれている事に気付いた。


 露出多めの服とはいえ、部分的に布に隠れて全容は見えない。ただ、それは……『二本の剣』のようにも見えた────。

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