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【冒険者ギルドのお仕事】 ~冒険者からの売れ残りを片付けているのは〝役立たず〟〝ゴミ箱〟と嘲笑われる最強の従業員だった~  作者: 水城ゆき
第二章

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暴かれた罪

 ◇◇◇◇◇


「帆を上げろ! これより目標無人島へ向けて移動を開始する! 見張りは総動員で周囲に気を張れ!」


 まだ星が瞬く深夜の暗い海へと、海軍大将マギロンの号令の下、グレンとアリアを乗せた最新鋭の軍艦が静かに大海原へ滑り出す。

 標的であるエルギルト達の船は既にマリンルーズを出発しているので、今頃は目標地点辺りに着いている頃だろう。

 明日の夜明けが、エルギルトには『取引時間』として伝達されている。


 海賊に扮した冒険者達を乗せた〝ダミー船〟は、昨日の時点で別の港から出港しており、既に現場の海上で待機中で、後は日が昇りきってからダミー船とエルギルトによる取引が行われるだろう。

 

 (……土壇場になって、エルギルトの考えが変わり、取引そのものが中止になったりはしないかな?)

 と、そんな淡い推論をギリギリまで巡らせていたグレンだが、出港から幾ばくかの時が経ち、気が付けば空は白み始めた頃。

 グレンの瞳に写ったのは、海賊船長の背後にいる、か細いリュシカの姿であり。やはりエルギルトは、実の娘を情け容赦なく海賊に引き渡したという事実が確定していた。


 グレン達を乗せたルベリオン軍艦は、問答無用でエルギルトの船目掛けて進みだした。

 しかし、次の瞬間。上空の空間が歪み、巨大で禍々しい魔方陣が描かれた。どうやら強力な召喚魔法が展開されたようで、それを感知し、アリアは慌てたようにグレンに訊ねる。


「うそ……リュシカちゃんは!?」

「海賊船ですね。……残念ながらエルギルト殿下は、証拠である彼女を海賊ごと消去する選択をしたようです」


 空に浮かんだ魔方陣から、四体の空飛ぶ巨大な獣が召喚され、海賊船の甲板へと襲いかかった。

 グレンの記憶では、『ペリュトン』という特級の魔物だ。高位の召喚魔獣であり、対人用の殺戮兵器として、これほど厄介で凶悪な魔物もいない。

 ペリュトンのアルゴリズムは極めて残虐で、対象の人間が動かなくなる(生命活動を停止する)まで容赦なく攻撃を続ける。

 

 王配があれほどの召喚魔法を使える事に、グレンには驚いたが。とりあえず海軍の船をエルギルトの船に近付け、マギロンは戦闘の停止を叫んでいた。

 しかし、エルギルトはあからさまに切迫した表情で自分達の援護を求めてきたようだ。

その取引自体が〝仕組まれたもの〟だったとも知らずに。


 グレンもアリアも、エルギルトの底なしの悪意に残念そうに表情を曇らせた。

やはり、エルギルトの考えは最後まで変わらなかったのだと……。

マギロンが更に、船上から叫ぶ。


「大至急、その召喚獣の攻撃を停止していただきたい。貴殿が『海賊』だと主張して攻撃しているその船は、我々が知る限り『冒険者の船』であると聞いている。一度、こちらで確認させてもらおう」


マギロンが提案するも、往生際の悪いエルギルトは引かなかった。


「ワシが防衛の為に出したペリュトンは、相手を殺し尽くすまで消せはしないのだ。もはや術者のワシにもどうする事も……」


 召喚された魔物は、それがどんな狂暴な魔獣であろうと神獣であろうと、術者本人の意思でいつでも強制送還できる事を、グレンは知っている。

 つまり、エルギルトは何が何でも、ペリュトンを使ってリュシカの口を封じたいらしい。これ以上、こんな〝暴挙〟を許すわけにはいかなかった。


「────グレン殿。アレを何とか出来るかね?」


 マギロンの静かな問いかけに、グレンはコクリと頷き、体内の精霊を呼び覚ます。

 召喚魔法には、こちらも精霊の召喚で対応するのが手っ取り早い。もっともグレンの場合は既に体内に〝それ〟がいるのだが。

マギロンを始めとする多くの目がある為。無詠唱で不可解なハイレベル魔法を行使したとなっては、後々で面倒な事になるので〝形だけ〟でも大魔法を装った詠唱をおこなう事にする。


「風の王よ、我が魔力食らいて空の制定侵し者に、暗黒の裁きを────」


 グレンの中から『荒っぽい精霊』が解き放たれ、荒れ狂う暴風として辺りに顕現した。直ぐに、極限圧縮された真空の刃が海賊船の上空を飛び回る四体のペリュトンを、一瞬にしてバラバラに切り裂き、僅かな間に消滅させた。

 その後、周囲の安全が確保されたのを見計らったかのように、アリアが放った最高位の回復魔法が血の海と化した海賊船の周囲を、輝ける奇跡の光で包み込む。

 エルギルトの顔は、その理不尽な光景に、完全に思考がフリーズしている。

 

 軍艦が静かにエルギルトの船に横付けされる。マギロンは武装した海兵を率いて自らエルギルトの元に向かった。

 グレンとアリアもその後ろに続く。


「エルギルト殿下。御無事ですかな?」


 マギロンの問いかけに、エルギルトはどこか戸惑った顔で「あ、ああ、大丈夫だ」と答えながらも。その視線は、ずっと無傷で浮かんでいる海賊船へと向けられていた。

 彼には不思議で仕方ないのだろう。

 何故、王国海軍を前にしても海賊船はこの場から逃げないのか……。それどころか、海賊船は再びエルギルトの船にピッタリと横付けしてくるのだから。


「あ、あれは冒険者等ではない! あいつらは私の娘を拐った凶悪な海賊だ! 早く捕縛しろ!」


 エルギルトが、海賊船から渡り板を歩いて乗り込んでくる、ガタイの良い船長らしき男を指差してマギロンに叫ぶ。

 しかしマギロンは、困ったように深く眉を下げただけだった。


「な、何をしている! 早くアイツを撃て……!」


 と、激昂するエルギルトが指差すその海賊船長のすぐ背後には、リュシカの小さな姿があった。彼女の表情は絶望に暗く沈み、金色の瞳には大粒の涙を浮かんでいる。


 「リュシカ! 早くこっちへ来なさい!」


エルギルトは父親の顔を装い近付こうとするが、リュシカは恐怖に顔を歪め、海賊の大きな背中の後ろに隠れてしまった。

 

「リュシカ……どうしたのだ!? 早くこっちへ!」


 リュシカに対して強く呼び掛けるエルギルトに、海賊船の船長が甲板にペッと唾を吐き、冷酷に言い放った。


「ハッ? あんたが俺に〝コイツ〟を不要なモノとして渡したんだろ。何を今さら……そういう取引だろうが!」

 

 唖然とするエルギルトに向かって、船長は深く被っていた海賊帽子を放り捨て、その特徴的な『銀色の前髪』を露わにして続ける。


「お前が俺に言い出した話だ。この娘をマールーン公国に届けてほしいってな。俺の耳も、このガキの耳でもハッキリと聞いてるからよ。……いまさら逃げられねぇぞ」

「お、お前は、シャトルファングの!? ば、バカな、何故だ……!? これは一体、どういう事だ!?」


 パニックに陥り周囲を見渡すエルギルトが、グレンとバチリと目が合うと。彼は「まさか……お前たちが」と、驚愕に歪んだ顔で、ようやく自分が周到な『罠』にハメられた事に気付いたのか、その顔が次第に死人のように青ざめていった。

 

「……お父様……私が、邪魔だったんだね?。王国から、いなくなればよかったんだよね……。ごめんなさい……」


 リュシカの悲痛な言葉を聞いて、エルギルトは一瞬口を開けたが、何を言っても無駄な事に気付いたのか。その口からなんらかの言葉も紡がれる事はなかった。

 甲板が重い沈黙に包まれる中、マギロンが小さくため息を吐きながら冷徹に告げる。


「……詳しい話は、我が国の王城で伺いましょう。エルギルト殿下」


 エルギルトは苦虫を噛み潰したような顔で、コクリと頷いた。

 こうして、エルギルトとリュシカは海軍の厳重な監視体制の元、マリンルーズの軍港へと移送される事になった。

その数日後。ルベリオン王国のシュタンストール城、玉座に座る国王の前で、エルギルトの国家反逆が、リュシカの直接の証言、そしてグレン達が押さえた状況証拠により完全に明るみとなるのだが。

 

 その少し前────グレンとアリアの二人、更に今回の偽海賊船の依頼を受けた冒険者達は、元々エルギルトが乗っていた専用船に乗り、再び〝あの〟海上のポイントに来ていた。

 実は、グレンには今回の作戦行動において、海軍大将マギロンにも伝えていない『重大な任務』が一つある。

 それは、あの日行われたエルギルトとの取引は、〝本物の取引〟の数日前に行われたのである。


 つまり、この日。

 エルギルトがリュシカを引き渡す予定だった『本物の海賊』が、この無人島近くの座標で接触してくる予定になっていた。


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