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【冒険者ギルドのお仕事】 ~冒険者からの売れ残りを片付けているのは〝役立たず〟〝ゴミ箱〟と嘲笑われる最強の従業員だった~  作者: 水城ゆき
第二章

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ネットワークの利用

エルギルトの真意を暴く為には失敗は許されない。グレンはチャミィに、最初に計画されていた内容を確認した。

 先ず、エルギルトの当初の依頼は、海賊にリュシカをマールーン公国へ『運搬させる』計画だったという。

 最終的に彼女をどうするつもりだったかまでは、流石の情報屋でも掴んでいないが。少なくとも『生きて引き渡す』が条件だった。


エルギルトと協力者の手筈で、無事?聖王国からリュシカを乗せた船は出港したが。移送する道中、脱獄犯であるビリディのイレギュラーな強襲によって船ごと奪取されてしまう。

 そこへ、中央大陸からビリディを追跡していたチャミィが偶然にも海上で立ち往生している海賊船とマールーン公国の軍艦を発見した。

その情報がケットシーのネットワークを通じて、エルギルト側にも伝わった事で、相手側に作戦の失敗も伝わったという流れだ。

 

 これらの事からグレンの思考回路は、この盤面を完全にひっくり返すための一つの最適解を弾き出した。

 チャミィの情報は、他のケットシーを通してエルギルト本人に伝わる。それはつまり、『間違った情報』も伝わるという事。つまり、意図的に間違えた情報も伝わるはずだ。


そこで一旦、グレン達はエルギルトにリュシカを素直に引き渡す事にした。

 もちろん、ただ渡すわけではない。その後の彼の行動を完全にコントロールする為に、更なる誤情報を撒く。

 一旦リュシカを渡す事自体はリスクだが、『殺さず』が条件にある以上は、余程のイレギュラー(ビリディの時のような)がない限りは大丈夫だろう。


なにより、何の決定的な証拠も無い現状で、直接グレン達がエルギルトに問い詰めた所で彼は〝知らぬ存ぜぬ〟で逃げ切れる。

 むしろ、相手は一国の絶対的権力者たる王配だ。下手な言いがかりをつければ、逆に不敬罪や国家転覆罪など、あらぬ罪を被せられかねない。

 それならば、『取引の現場』という言い逃れ不可能な絶対的証拠を作り上げる方が確実なのではないか、とグレンは考えた。


 エルギルトがそのまま、マールーンにリュシカを引き渡すとは考えにくい。そこでチャミィを使い、別のケットシー伝いに『洋上で海賊への受け渡し(中継)』へと誘導させる。

 その待ち合わせ時間をズラし、偽の海賊船を使って赴きリュシカを受け取る。後はルベリオン王国の正規海軍を現場に突入させ、直接動かぬ証拠を確保するのだ。


 チャミィは、自分の仲間を利用してその依頼主であるエルギルトに偽の情報を与えるという、裏切り行為になるわけだが。

 彼女自身も、この吐き気を催すような人身売買の悪事に加担している自覚があり。更にグレン(ソティラスという上客)を都合よく利用しようとした事や、国家反逆罪に加担しているという後ろめたさがある。

 したたかな彼女が協力を拒む事は無いだろう。


 後は、この大掛かりな罠に必要な準備として。偽の取引に対しての強大な抑止力として、王国海軍に動いてもらえるかだ。


◇◇◇◇◇

 

「────と、いう事で。その強制捜査の為に、王国海軍を動かしていただきたいのです。相手の対応次第では、武力衝突になる可能性もありますが……」


 グレンからの作戦の説明に、王国騎士団長のナルシーは「なるほど……」と、顎に手を当てて深く思考を巡らせた。

 現時点で、一介の事務員に過ぎないグレンが、国家の王国海軍を自由に動かす為の最強のカードは、彼しか思い付かない。


「それは随分と大掛かりな釣りだな。勿論、我が国の領海で蠢く闇を暴く為、出来る限りの協力は惜しまないつもりだ。だが……私にそれを頼むからには、当然、大きな〝貸し〟になるが?」


 (……やはり、タダでは動かないか)


グレンもその政治的取引は想定の範囲内だった。盤面を整える為の必要経費だと割り切り承諾する。


「は、はい。僕で出来る事であれば、今後も何らか手伝わせていただきますよ。あ、『騎士団への入団』以外でなら、ですが……」


 グレンの釘を刺すような返答に、ナルシーは全てを見透かしたように納得した笑顔を見せた。

 ともかく、これで海軍という巨大な権力を盤上に配置できる。後は現場の兵隊となる『偽の海賊』だが、そちらについては既にフィルネに丸投げしてある。


「────荒事にも慣れた冒険者を十五名、即金で集めたわよ。一応、大型船を操船出来るスキル持ちも十名確保してある。でも、これ結構怪しい依頼だけど、一体どこの依頼なの?」

「ま、まあ、ちょっと上の繋がりから頼まれてね。そこは依頼主の秘密を守らなきゃいけないから、勘弁してよ」


 フィルネに「ふーん」と、疑うような瞳で見つめられたグレンは、曖昧な笑いで適当に煙に巻いた。

 ちなみに、この大規模な偽装作戦のキャストに支払われる莫大な報酬金は、全てチャミィから捻出される事になっている。

 理由は単純。チャミィは、あの絶海でビリディとリュシカを救出した際に、その海賊船に乗っていた『莫大な金銀財宝』を救出費用として丸々着服しているからだ。


 そしてこれまた、彼女の罪悪感を刺激するドス黒い裏事情になるのだが。

 その船に積載されていた財宝は、元を正せば『エルギルトが海賊に前金として渡したモノ』だ。

最初はエルギルトがリュシカを商品として『売った』のだとばかり推測していたが、実際には海賊に莫大な金を払ったのはエルギルトの方だという。


 つまり、海賊にとっても他国の『水巫女』という戦略兵器を扱うには、それなりにリスクがあったという事だろう。

 国庫から巨額の金を払ってでも、リュシカの存在を聖王国から消し去りたいという、エルギルトの異常な執念が垣間見える。


 ちなみに、ビリディ達が奪ったその海賊船は海の底へ沈んだという事になっているが、実際にはチャミィがシッカリと回収しており。

 その事実を、チャミィは自身のネットワークの仲間にすら隠蔽していた。グレンも、ビリディから聞き出した話と照らし合わせなかったら、彼女がそんな莫大な財宝を手にした事など一生知らなかっただろう。

 彼女は、ケットシーの中でも極めて強欲でズル賢いようだ。

 

 とにかく、こうしてグレンの描いたシナリオ通りに準備は着々と進んでいった。

 エルギルトが直接取引している海賊の具体的な組織名は、チャミィも聞かされていなかったが。ビリディの証言により、それが中央大陸でも悪名高い海賊組織の分派だという事は特定できている。

 その特徴的なエンブレムを、海軍から借り受けた中型船の帆にデカデカとペイントすれば、完璧な〝偽装海賊船〟は準備万端。


 それから、緊迫した数日が過ぎた頃。

 チャミィから、グレンの元へ「エルギルトが、そちらに向かった」との通達があった。

 森の屋敷で待機していたグレンとアリアは、何食わぬ顔でエルギルトと面会する事になり、リュシカを渡したわけだが。

 その後、何の抵抗も見せなかったアリアが不安そうにポツリと言った。


「……ねえ、グレンくん。本当にあの人は、リュシカちゃんを海賊の手に渡すのかな? ひょっとしたら、久しぶりに娘の顔を見て考えを改めたりとか?」

「他人の心の奥底は解析できませんから。エルギルト殿下も明日にはチャミィと最終的な連絡を取るはずです。その時に全てが証明されます。取引を実行するのか、それともやめるのか」


 アリアは、祈るような寂しげな表情で俯いた。

 グレンとしても、明日になってチャミィが「やっぱり取引はキャンセルになったにゃ」などと報告してきてくれる事を願っていた。

 実は一連の陰謀論が全て何かの勘違いで、本当はエルギルトは本気で娘の安否を心配し、藁にもすがる思いでケットシーに捜索を頼んだだけなのではないか? とすら、グレンは一縷の希望的観測を演算していた。


 だが、実際あの男の目には、リュシカは愛する娘などではなく、ただの『処理すべき者』としてしか映っていないのだと証明される事になった。

 翌日になり。チャミィからグレンの元へは、〝なんの変更もなく〟、予定通り冷酷な海賊への讓渡日時が通知されたのだ。



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