表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/96

作戦準備


 グレンはエルギルトの真意を知る為にチャミィと、ある契約を交わした。


 先ず、グレンがチャミィに聞いた話によると。

 エルギルトは中央大陸にある、とある海賊にリュシカの完璧な処分を頼んだという事だった。

 もちろん殺す方向は無しだったと思いたいが、何にリュシカを使うつもりだったかまではチャミィも知らないという。


 それで海賊の船が聖王国まで、商品であるリュシカを受け取りに来たが。

 海賊のアジトへ運ぶ途中でビリディに奪われたのだ。


 奪われたリュシカを探していた所。

 中央大陸から脱獄したビリディを追っていたチャミィが、偶然。海で立ち往生している海賊船と二人を発見した。


 その情報は別のケットシーからエルギルトへと伝わり。

 エルギルトが直接西方大陸にリュシカを取り返しに来る事になっている。

 更に、リュシカを取り返した後。エルギルトは、そのまま海賊に横流しする予定だという。



 そこでグレンは、一旦何も知らぬ顔をしてエルギルトにリュシカを渡し。

 その後のエルギルトの行動を監視する作戦を考えついた。


 何の証拠も無い現状では、直接グレン達が問い詰めた所でエルギルトは〝知らぬ存ぜぬ〟を通すだろう。

 

 むしろ、相手は一国の王配。

 下手な事を言うと逆に、言い掛かりだと余計な罪を被せられかねない。

 それなら、実際の取引現場を押さえた方が早いのではないか、とグレンは考える。


 チャミィの話では、その受け渡しの日時連絡もケットシーの〝共思念〟で仲介しているようだ。

 何とも便利な使い方だが、今回はそれを逆手に取る方法でいく。


 グレンは、海賊との待ち合わせ時間より一日早い時間をエルギルトに伝えてもらうという約束をチャミィと交わした。

 偽の取引現場にルベリオン王国の海軍を向かわせて、直接証拠を得るのが確実だからだ。


 実際の取引現場に突入する方法も考えたが、万が一の場合リュシカの命が危ないのでこのような考えに至った。


 チャミィとしては、依頼主であるエルギルトに偽の情報を与え裏切る事になるかもしれないが。

 彼女自身も悪事に加担している自覚はあり、更にグレンを利用しようとした後ろめたさもあるようなので。


 今後もソティラスと良い関係を続けたいなら、協力するしかないだろう。



 後は、必要となる準備として。

 本当の取引より先に偽の取引を仕掛ける為の〝偽〟の海賊達と、王国海軍である。


 

「────と、いう事で。その為に海軍を動かしてほしいのです。相手の対応次第では戦闘になる可能性もありますが……」


 とグレンが言うと、騎士団長のナルシーは「なるほど……」と、顎に手を当てて考えた。

 

 現時点で、グレンが王国海軍を動かす為に最も協力してくれそうな人物は彼しか思い付かなかった。


「それは随分と大掛かりな釣りだな。こちらとしても闇を暴く為に出来るだけの協力はしよう。だが、私にそれを頼むからには、グレンくんへの〝貸し〟になるが?」


 やはりそう来るか、とグレンも予想していた。

 だが、それはこの際仕方ないだろうと承諾する。


「は、はい。そうですよね。まあ、僕に出来る事であれば今後手伝わせていただきます。あ、騎士団への入団以外で……」


 グレンの返答に、ナルシーは納得したように笑顔を見せた。

 これで、海軍は動かせる事になった。

 後は偽の海賊だが、そちらは既にフィルネに頼んでいる。


 ナルシーに海軍の話を通した二日後。

 冒険者ギルドの店内で、休憩中にフィルネがグレンを呼びつけた。


「ねえ、これでいい? 十五名集まったわよ。一応、操船出来る冒険者も十名いるわね。でも、これ結構大掛かりな依頼だけど、誰の依頼なの?」

「ま、まあ、ちょっと頼まれてね。そこは依頼主の秘密を守らなきゃいけないから」


 フィルネに「ふーん」と、怪しげな瞳で見つめられたグレンは、苦笑いで誤魔化した。

 ちなみに、この依頼に関する報酬金はチャミィが出す事になっていた。


 チャミィはビリディとリュシカを海上で助けた時に、その船に乗っていた財宝を丸々貰っているからだ。

 そしてこれまた、彼女の罪悪感の話になるが。


 その船に乗っていた財宝は、元々エルギルトが海賊に取引で渡したモノだったのだ。

 最初はエルギルトがリュシカを売ったのだと思ったが、実際には海賊にお金を払ったのはエルギルトだという事である。


 つまり、海賊にとっても水巫女を扱うにはそれなりにリスクがあったという事であり。

 金を払ってでもリュシカの存在を完璧に消したい理由がエルギルトにはあったのだろう。


 ただ、その取引はビリディにより阻まれた。

 そして船は沈んだという事になっているが、実際にはチャミィがシッカリ貰っており。

 その事をチャミィは仲間にすら伝えていない。


 グレンもビリディに聞いていなかったら、彼女が財宝を手にした事を知らなかっただろう。

 彼女は時にズル賢い所があるのだ。


 それはグレンとて承知しているが、それでも優秀なのは違いないのでソティラスは彼女を評価して〝上手く〟付き合っている。

 

 こうして準備は進んでいった。

 エルギルトが取引している海賊に関しては、チャミィも聞かされていなかったが。

 ビリディの証言により、とある有名な海賊の組織だとはわかっている。


 そのマークを、海軍から借りた船の帆に入れれば〝偽〟の海賊船の出来上がりだ。


 それから、更に数日が過ぎた頃。

 チャミィからグレンに〝エルギルトがそちらに向かった〟との連絡があった。


 森の屋敷でグレンとアリアは、エルギルトと面会する事になり。

 そこで、リュシカを彼に手渡した。

 そしてエルギルトが足早に屋敷を出て行った後で、アリアが言った。



「ねえ、グレンくん。本当にあの人はリュシカちゃんを海賊に渡すつもりなのかな? ひょっとしたら、考え直してたりとかしない?」

「さ、さあ。僕にもわかりません。エルギルト殿下も明日にはチャミィと話するでしょ。その時に全てがわかりますよ。海賊と取引するのか、やめるのか」


 アリアは寂しげな表情で俯いた。

 グレンとしても、明日になってチャミィが『取引は無くなったにゃ』などと言ってきてくれる事を願ってはいる。


 実は全てが勘違いで、本当はエルギルトは本気で娘を心配して捜索をケットシーに頼んだのではないか? とすらグレンは考えていたのだ。


 だが、久しぶりに娘と再会したエルギルトは、彼女に何も聞かなかった。

 本来であれば、これまでにどんな事があったか、何をされたかなどを聞くのではないだろうか?


 それが全く無かった事でグレンはある程度の察しがついてしまった。


 そして、翌日になりチャミィからは〝なんの変更もなく〟作戦日時がグレンに知らされた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ