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再会


 いつの間にか同じテーブルに着いていた少女に、エルギルト他二名は驚きを隠せなかった。

 

 見た目には、売春婦と思われても仕方ないような露出多めで派手な装いをしている。

 顔は子供だが、豊満な胸やしなやかな身体のラインは多くの男の視線を釘付けにする事間違いない。


 ただ、エルギルト達は全く気付かなかったのだ。

 遠くを歩いていても目に入りそうな少女の存在を、話し掛けられるまで気付かなかった。


 思えば聖王国で会ったケットシー族の男性も、そんな感じだった事を思い出す。

 一方的に話し掛けられるまで、こちらからは存在を感知出来ない。


 ケットシー族特有のものなのかもしれない、とエルギルトは考察する。

 そしてケットシー族には、他にも特殊な能力がある。

 それは〝共思念〟と呼ばれるもので、ケットシーの中でも一部の者達は思考を共有しているという。


 それはどれだけ離れていても繋がっているのだ。

 南方大陸の聖王国にいる者と、西方大陸のルベリオンにいる者であろうと繋がっている。 


 つまり、今エルギルトの前にいる少女は、聖王国で話していたケットシーの男性と同じだと思っても構わないだろう。


 ただ、少し違うのは……


「なんと言うか、そなたは少し喋り方に特徴があるのだな。そんな独特の口調でも身バレはしないのか?」

「そうかにゃ? まあ、それは問題にゃいにゃ。それより、本題に入るにゃ」


 そう言って少女はウインクする。

 付き添いの二人は、完全に少女に心を奪われたようで少女の全身をだらしない顔で見ていた。


 やれやれとため息を吐き、エルギルトは少女に話を促す。


「先ずは、先日から少し状況が変わったにゃ。〝あの子〟は現在〝例の男〟とは、いないにゃ」

「ほう。それでは別の誰かと? 誰といようがワシには関係無い。連れ帰るだけだ……」

「うーん。その必要は、にゃいにゃ。直に会って連れ帰るといいにゃ。〝例の男〟に関してはこちらで〝接待〟しておいたにゃ」


 エルギルトには〝接待〟の意味がわからなかったが、要するに盗賊からは既に〝娘を取り返す〟為の話し合いが出来ていると言う事だろうと理解する。


「なるほど。では〝その子〟は今、何処に?」

「とある屋敷だにゃ。ただ、王都の方に移動する必要があるから地図を書いたにゃ」

「新しい〝主人〟には言ってあるから、迎えに行くとよいにゃ」

「そうか。余計な手間が省けたようだな。感謝する」

「いやいや、問題ないにゃ」


 そして少女は席を立った。

 まるで魔法が解けたように、付き人の二人は我に返る。


「今の者の話、果たして信用できますか?」

「うむ。おそらく大丈夫だろう。さて、直ぐにルウラの方に向かうぞ」


 既にエルギルトは協力者の顔もうろ覚えになっていたが、渡された地図を見て。

 ルベリオンの王都、ルウラへと歩みを進めた。



 ルウラまでの道程はさほど大変ではなかったが、王都に近付くとエルギルトの顔を知る者もいないとは言えない。

 フードローブのフードを深く被り、すれ違う冒険者や商人をやり過ごし。

 やがて地図に示された森へと辿り着いた。



 それから森の中を進むと、一件のレンガ造りの建物が見えてきた。中には明かりが灯っている。

 地図にあった通りだ、とエルギルトはホッと胸を撫で下ろす。


 若干の疑いはあった。

 協力者とはいえ実は他国とも繋がっており、裏切る可能性がないとは言えないからだ。

 これまでも良くしてくれたが、常に警戒を忘れてはならないとエルギルトは思っていた。


 まして、ここは自国から遠く離れた大陸だ。

 裏切られたら助けてくれる者はいないのだから。


 空は暗くなっており、夜遅くになってしまったが。

 取り敢えずエルギルトは家の扉を叩いた。

 程なくして扉が開かれ、中から一人の青年が出てきた。


 こんな町外れで、暮らしているので木こりでもしているのかと思ったが。

 その見た目はとても細い。

 筋肉など全くないような感じだが、身長だけは高いのでまさにヒョロっとした感じの青年だ。


 彼がシャトルファングの盗賊を〝接待〟したのだろうか? などと考えながらもエルギルトは挨拶をした。


「御初に御目にかかる。えー、こちらに来るように伺ったのだが」


 エルギルトは、協力者の名前を言おうとして気付いたのだ。

 そういえば協力者の名前を知らない事に。

 しかし、その青年は普通に対応してくれた。


「エルギルト殿下ですね? 僕はグレン・ターナーです。話しは聞いてます。お付き添いは二名ですかね? どうぞ中に」

「ああ、すまない。それでは失礼する」

 

 客室らしき所に通されたエルギルトは、そこで赤毛の少女を見た。

 スラリとした体型に端正な顔立ち。

 非の打ち所のない美人だった。年齢は青年と同じくらいだろう。


「これはこれは、お美しい。グレン殿の奥様ですかな?」

「お、奥様!? わ、私はアリア・エルナードと申します。グレンとはまだ……って、いや。そういう関係では……」


 顔を赤くして、何を言ってるのかわからない程に慌てるアリアと名乗った少女を見て、エルギルトは大体を察した。

 まだ〝その段階ではない〟という事だろうと。


 なんとも初々しい反応だと思いながら、同時に和やかな空気になりエルギルトの気分も少し落ち着いた。

 

「とりあえず殿下。そこにお掛けください。今、お嬢様をお連れします」


 そう言って、グレンが客間を出る。

 いよいよ娘と再開出来るのかと思う反面、エルギルトは緊張していた。

 

 しかし、直ぐに部屋の扉が再び開き。

 その向こうから、青い髪の少女が現れた。それは、紛れもなくエルギルトの娘、リュシカである。


 リュシカはエルギルトを見て呆然と立ち尽くす。

 そんなリュシカを見て、エルギルトも何と声をかければ良いのかと言葉を選んでいたが。


 取り敢えずエルギルトは静かに両手を広げた。

 するとリュシカは少しづつ歩みよってきて、そして静かに抱きついたのだ。


「り、リュシカ。無事で良かった」

「はい。お父様……」


 その光景はまさに、父と娘の感動的な再会のシーンそのものである。

 エルギルトは、これで全てが終わったのだと……。心からホッとしながらリュシカを抱きしめていた。

 

 

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