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アリアの恋心


 ◇◇◇◇◇


 アリアはいつも以上に、宿の部屋を一生懸命に掃除していた。


 月契約で一室借りている為、毎回勝手に女将が掃除に入って来る事はないので。

 それなりに綺麗にはしているが、依頼で数日空けたりもするし埃が溜まる事もある。


 だが、今日だけは徹底的に綺麗にしておきたい。

 いや、しなくてはならない。という使命感にアリアは駆られていたのだ。


 なにせ、初めて男性を部屋に入れる事になるのだから。

 いつになく掃除に気合いが入るし、部屋の匂いも気になってしまう。


「今まで気にした事なかったからなぁ……グレンくんって、どんな匂いが好きなんだろう。変な匂いとか思われないかな?」


 何故こんなに気になるのか。

 それは〝恋〟のせいだろうとアリアも気付いてしまった。


 アリアは、冗談のつもりでグレンに〝付き合ってもいいと思ってるのか〟と聞いたのだ。

 ところが、グレン本人から返ってきた言葉は〝僕もそういう関係になりたい〟的な事だった為、アリアはもう舞い上がっていた。


 これは完全に〝告白〟でしょ! とは思いながらも、正式にハッキリと言われたわけではない。

 どちらにせよ、アリアには頭が真っ白になる程に衝撃的な出来事であった。


 しかも、その流れから〝誰もいない所で話したい〟などと言われてしまったから、もう大変だ。


「これってもう、絶対に『付き合ってほしい』とか言われるパターンだよね? ……えええ、どうしよう。なんて答えると可愛いのかな。はい? 喜んで!? それとも一旦、少し考えさせて……っと濁した方が〝軽い女〟に見られなくていいのかなぁ」


 これまでも何人かに、そんな感じの事を言われた事はあるアリアだが。

 こんな気持ちになった事は初めてだった。


 ハッキリ言って〝死ぬほど〟嬉しかったのだ。

 アリア自身が、グレンに好意を抱いているのだから当然望んでいた事なのだが。

 いざ、そうなると戸惑ってしまうのも確か。


 だが確実に〝好き〟という感情が自分の中にあるのは疑いようがなかった。


 いつからグレンに対して、そういう感情を持ったのかは忘れたが。

 気が付いたら会いたくて、話したくて。暇さえあればアリアはグレンに会うキッカケを探していた。


 先日のマリンルーズへの同行も、距離を縮めたい一心で噂の〝水巫女事件〟を利用して誘ったぐらいなのだから。

 アリア自身、自分で大胆な事したなぁと思っていた。

 そんな事を実行に移したのも、今までのアリアでは考えられない事なのだ。


「はあ、どうしよう。これってやっぱり〝恋〟なんだよね。ってか、グレンくんも私を好きなのかな? 好きだから付き合ってもいいって事だよね?」


 いつになくアリアの独り言も増える。

 なにせ不安だった。

 間接的に言葉にされた気はするが、告白されたわけではないし、何より展開が急過ぎて不安になったのだ。


 心臓がドキドキして仕方なかった。

 グレンの事ばかり考えてしまい、胸が締め付けられるようで苦しいのだ。

 いよいよ、頭がオーバーヒートしそうになった辺りでアリアは思った。


「よし。香草を摘みに行こう! 何かしてないと落ち着かないし」


 グレンと約束した夜までには、かなり時間がある。

 アリアはカゴを一つ持って部屋を飛び出す。


「おや、アリアちゃん。またお出かけかい?」

「女将さん。この辺りで香草が採れる所ってありますか?」

「ああ、西の森にいくらでも生えてるよ。魔物もいないし、アタシも昔はよく摘みに行ったもんだよ」

「そうですか。ありがとうございます!」


 と、直ぐに宿屋を飛び出して。アリアは女将に聞いた森に向かった。



 森に着くと、確かに香草はあちこちにあった。

 様々な匂いのものがあり。リラックス効果もあるので、アリアもかなり気分が落ち着いてきた。


 それからは、ひたすら香草を摘んだ。

 必要量以上に摘んでいたが、もはやどうでも良いのだ。体を動かす事に意味がある。


 そして、ひたすら草摘みに没頭するアリアだったが、その顔は自然とニヤけていた。

 ふと自分の表情に気付き気を引き締めるが、夜の事を考えるとまたニヤけてしまうのだ。


 もはや頭の中は夜の事で一杯だし、カゴ自体も香草で一杯なのに、ひたすら香草を採り続けていた。

 やがて、陽も傾きはじめたので帰ろうと思ったそんな時。


 同じく、森の中にいる一人の少女を見かけた。


 少女は夏の空の様な〝蒼色〟をした少しクセのある長い髪と、とても珍しい〝金色の瞳〟をしている。

 年齢は十代前半くらいに見えた。


 元は真っ白だったのだろうが、汚れたワンピースを着ていて。

 胸元には、キラキラと光る大きめのペンダントをつけている。


 まだ幼い少女が森の中に一人でいるのは不自然な感じだが、何故かアリアは彼女に見入ってしまっていた。

 まるで妖精を見たかのような、そんな感覚を覚えたのだ。


 ふと、我に返り身を隠した。

 声をかければ良かったのだが、何故か咄嗟に隠れてしまったのだ。

 アリアが木の陰から少女の行く先を見つめていると、少し離れた所に別の人間がいた。


 それは男性だった。

 黒の短髪に少し長い前髪だけが銀色をしているという、奇抜な見た目だが。

 年齢は少女よりかなり上に見える。


 その男性も格好はボロボロだった。

 腰には、盗賊が好んで持つ湾曲した剣──〝シミター〟を身に付けており、アリアはふと思い出す。


 再度身を隠して記憶を手繰る。


 何処かで見た事がある……そう思ったら、それは賞金首の肖像画だった。

 シャトルファング盗賊団の幹部で、名前は忘れたがかなり高額の賞金首だったはずだ。

 

 再度、確認する為にアリアは再び覗き込む。

 しかし今度は蒼髪の少女しかいなかった。その少女の髪の色でアリアは思い出した事があった。


 数日前に見た海賊船の事だ。


 アリアは双眼鏡では見ていないので、ハッキリとは見えてなかったのだが。

 海賊船から海に落ちた二人のうちの一人は、青い髪の少女だとグレンは言っていたのだ。


 故に〝水巫女かもしれない〟という話になったのだから。

 もし、そうだとすると。さっきまでいた男性は海賊船から落ちたもう一人の方だったりするのだろうか?

 生きていたのか?


 と、アリアは視線を動かし、姿が見えなくなった男性をキョロキョロと探していたが次の瞬間。


 アリアは突然意識を失う事になった────

 

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