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【冒険者ギルドのお仕事】 ~冒険者からの売れ残りを片付けているのは〝役立たず〟〝ゴミ箱〟と嘲笑われる最強の従業員だった~  作者: 水城ゆき
第二章

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かんちがい

◇◇◇◇◇


 マリンルーズでのバカンス……否、隠密調査 (という名目の、結局はただの徒労に終わった海軍の手伝い) が終了し。

 数日ぶりに日常であるルウラへと帰還したグレンは、その翌日から何食わぬ顔でまたギルドの窓口へ出勤したわけだが。


「おう、珍しく長期の休暇だったな。久しぶりの休みは楽しめたか?」

「ガイさん、おはようございます。ま、まあ。それなりにゆっくりは出来ましたね」


 同僚のガイは、基本的に他人のプライベートに土足で踏み込んでこない大人なナイスガイだが。

 この日に限っては、獲物を狙う鷹のような目で必要以上にカマをかけてきた。


「そういや、フィルネちゃんも同じタイミングで『家の用事』とかで有給とってたらしいけど。……まさかお前ら、二人でどっかのお泊まり旅行に行ってたわけじゃないよな? 昔も、お前達は休みが被った事があるし。さすがの俺も今回ばかりは軽く疑っちまったんだが? もし何か決定的な進展があるなら、水臭い事言わずに俺には教えてくれよな」

「な……何言ってるんですか。ただの偶然ですよ」


 ガイは「そりゃそうか」とガハハと笑いながらグレンの背中をバンバンと叩く。

 事前にフィルネから「軍艦に乗った事も、海に行った事も絶対に内緒にするように」と強固な情報統制を敷かれていなければ、嘘の苦手なグレンは普通に事実を喋っていた所だ。

 (一体、僕と彼女の間に何があると思っているのやら…)と、グレンはガイのニヤニヤとした意味深な言動に首を傾げながらも、いつものように定位置である掲示板へと向かった。


 朝も早くから、既に十人程の冒険者が金脈を求めて来店している。

 そんな朝イチの冒険者達と共に、数日ぶりに掲示板のラインナップを視認したグレンだが。不良債権は綺麗に消化されており、新規の依頼書が殆どで、見事に厄介な依頼は残っていない。

 どうやら最近のルウラ支店は、依頼の需給バランスが極めて順調に回っているようだ。


 それでも全く心配な依頼が存在しないわけではないが、休み明けに大量のゴミ案件が溜まっている事も最悪のケースとして想定していたグレンにとっては、少し肩の荷が下りる結果だった。

 そんな時、「おはよー、グレンくん!」と、普段の彼女のルーティンからは考えられない過去一の早さでギルドに訪れたアリアが、背後から声をかけてきた。

 満面の元気一杯の笑顔を見ていると、どうやらあの過酷な船旅の疲労なんて、彼女には全くないようだ。

 

「おはようございます、アリアさん。随分と早いですね。新規依頼探しですか?」

「ううん、違うよ。とりあえずグレンくんに、この間の『お疲れ様』と『ありがとう』を一番に言いに来たのよ」

「いや、僕は別に大した事はしてませんから」

「そんな事ないよ! 何日もずっと手伝ってもらったし、これからの事も含めて、私から何かちゃんとお礼もしないと、ね?」


 アリアはグレンに向かって、バチッと効果音が鳴りそうなほど意味深にウィンクする。

 (おそらくは、これからも僕の『ソティラスの仕事』を手伝うからよろしく、という意味のサインだろう)とグレンの脳内で処理されたが。

 こんなオープンスペースで大きな声を出して、この数日間を一緒に過ごしていた事(密約)を周囲に明らかにしてしまう辺りが、良くも悪くも隠し事ができない彼女らしいとグレンは分析していた。


 事実、アリアの甘ったるい声を聞いた周囲の冒険者たちは、皆一様に(アイツら、どういう関係だ?)と訝しげにチラチラとこちらを窺っている。

 それに危機感を覚えたグレンは、慌ててアリアに顔を寄せ、小さな声で耳打ちした。


「アリアさん。あまりこんな場所で大きな声で話すと、周囲に妙な誤解をされますよ?」

「……誤解? ああ、そういう事ね。グレンくんは、私と〝そういう関係〟だと周りに誤解されたら……やっぱりイヤ?」

「え……、いや。僕は別に、気にはしませんけど。でも、アリアさん自身の立場にはあまり良くないかと」


 グレンの即答に、アリアは少し意外そうに、だが嬉しそうに目を細めた。


「へえぇ、気にしないんだ。それって……私と〝そうなっても〟良いって風に捉えてもいいのかな?」

「……そうなっても、とは?」

「だ・か・ら。ほら……私と『付き合ってもいい』って、思ってくれてるのかな? って」


 アリアに上目遣いでそう問われ、グレンの思考回路は少し返答の出力に手間取った。

 (〝付き合う〟とは、要するにこれからも彼女の仕事を手伝い、ソティラスの仕事も手伝ってくれる…という事を言っているのだろうか……)

 コンプライアンスの観点から考えてみれば、おおっぴらにギルドの正規従業員が一介の冒険者の仕事を手伝うのは、客観的に見て非常に宜しくない。


 何故なら、他の冒険者がその事実を知れば、特定個人への利益供与だと受け取り、絶対に良くは思わないだろう。

 実際、過去に他のギルド支店では、従業員と冒険者が裏で結託して、実入りの良い仕事を優先的に斡旋し。二人で不当に荒稼ぎするという不正受給の手口が、組織的な大問題になった事があった。

 ギルドは、全ての冒険者に対して常に公平なシステムでなくてはならない。


 とはいえ。

 アリアには実際に、誰も引き受けない〝割に合わない不良債権〟を処理するソティラスの仕事を裏で手伝ってもらっているのだから、グレンとアリアは相互依存の対等な立場であるとも定義できるだろう。

 

「……それはもちろん。アリアさんの提案を断る理由はありません。むしろ僕としても、そういう関係(裏のパートナー)であれたら一番良いと思ってますから。ただ、従業員と冒険者という立場上、他の冒険者の人達がその事実を聞くと、やはり『不正(癒着)』だと思うのかな……と懸念しているんです」


 そうアリアに現実的な懸念を囁くと、彼女は何故か、今まで見たこともない程に激しく戸惑った顔をした。

 顔はもちろん、耳の先から首の付け根まで、瞬時に茹で上がったように真っ赤に染まっている。


「そ、そうなんだ……っ! そ、それって、私。言葉通り、素直に受け取っちゃっていいのかなぁ、、、なんか、今日のグレンくんって……何て言うか……すごく、積極的だよね!?」

「そうですか? 確かに、アリアさんと出会ってから、僕も少し変革されたかもしれませんね」

「わ、私は、別に他の誰に私達の事を知られても構わないよ? でも、グレンくんが周りの目を気にするなら……絶対に、秘密にして隠しておくけど……っ!」


 アリアの震える言葉を聞いて、やはりこの裏表のない彼女は、いつ機密情報を口を滑らせてもおかしくない危うさがあるな、とグレンは苦笑いを浮かべる。

 ソティラスの仕事は、徹底的に秘匿されなければシステムとして意味がない。

 今度ゆっくり時間を取って彼女と話し合い、情報の取り扱いについて再度強固な念押しをしておこうとグレンは考えていた。


「……今度、ゆっくり時間を作れますか? 誰もいない安全な所で、今後の事を話したいんですが」

「は、はいッ! あ、うん。いいよ! 私は冒険者だからいつでも暇だし! こ、今夜とか? どこにする? 誰にも見られないなら……わ、私の部屋……とか?」 

「ま、まあ。アリアさんがそこで良いと言うなら、密談には最適ですし、それでもいいんですけど」

「マ、マジ……っ! じゃ、じゃあ、急いで部屋の掃除して、色々と準備しておかなきゃ……!!」


 アリアは限界を迎えたように奇声に近い声を上げ、慌てた様子で弾かれたようにギルドを出ていく。


(……顔が異様に赤かったし、呼吸も荒かった。やはり航海の疲れでも出たのだろうか?)

 と、思いつつグレンは、とりあえず今日は残っている依頼の整理とカウンター業務でも手伝う事にしようと、その場を立ち去ろうとした、その時。

ギルドの重厚な扉が勢いよく開かれ。

 素早く、小動物のような何かが店内の死角を縫うように駆け込んで来た。


 気が付くと、グレンの足元のすぐ隣には、一匹の〝ネコ〟がしゃがみ込んでいた。

 正確にはネコの様な、〝ケットシー〟と呼ばれる獣人族の少女である。

 パッと見のシルエットは人間のようだが、灰色のショートヘアーの頭頂部には、ピョコンと自己主張の強い白い猫耳が生えている。

 身長は低めで顔立ちもあどけない子供のようだが、その細く小柄な身体とは正反対に、大きな胸が露出多めの機能的な服で不自然に強調されていた。

 グレンは思わず驚いて声をかける。


「……チャミィ!? どうして君が、こんな最果てのルウラ支店に?」

「おおおおお! にぃ様! お久しぶりにゃ!」


 『チャミィ・ルザリワルツ』──彼女は、かつて中央大陸のリンザール冒険者ギルド本部で共に働いていた元同僚であり。

 同時に、裏の組織〝ソティラス〟専属の超優秀な『情報収集人』である。

 彼女のステータスは完全に素早さと隠密性に特化しており、どんな厳重なセキュリティの施設にも音もなく潜入する。

 直接的な戦闘力は皆無に等しいが、隠密行動を行わせれば、世界中の暗がりに密かに暮らすケットシー族の独自のネットワークを駆使し、どんな強大な武器や魔法よりも強力な〝情報データ〟を正確に引き抜いてくる。


 だが。

 本来は後方支援で動くはずの彼女が、ケットシー特有の〝通信網〟を介さず、直接このルウラまで足を運んで来たという事はつまり。

それなりに〝重大な問題〟が、何処かで発生しているという事を意味していた。

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