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【冒険者ギルドのお仕事】 ~冒険者からの売れ残りを片付けているのは〝役立たず〟〝ゴミ箱〟と嘲笑われる最強の従業員だった~  作者: 水城ゆき
第二章

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軍艦クルージング


 巨大な軍事施設である海軍基地から一旦離れ、グレンはマリンルーズの街並みの中でアリアとフィルネの姿を探した。

 しかし、それは大した時間を要するまでもなく、極めて容易なミッションだった。彼女たちは港から一番近い、一軒目の小綺麗な宿のロビーで直ぐに発見されたからだ。


「ああ、グレンくん! 丁度良かった、なかなか条件に合う宿が見つからなくて。ここも満室みたいなの」

「そ、そうですか。実は二人に急な話があるんですけど……」


 海軍大将との謁見と、軍艦での出航という急展開を簡潔に説明するグレンの言葉に。アリアとフィルネは、何故かその瞳をキラキラと、暴力的なまでに輝かせる。


「いいじゃん、最高! 大きな船で、私達の専用の部屋も用意してもらえるんだよね?」

「アリア様、ちょっと遊び気分が過ぎませんか。……まあ、軍艦に乗船するなんて一生に一度あるかどうかの滅多に経験出来ない事ですし。私は別に、乗ってあげてもかまわないですけど?」

「……僕の目には、二人とも完全にバカンス気分に見えるんですけど?」


 グレンの至極真っ当なツッコミは潮風にかき消され。こうして、何故か海軍の軍事作戦に一般人が複数名協力するという、極めて非論理的な状況のまま、グレン達は再び海軍専用の軍港へと向かう事になる。

 そして日が落ち始めた頃、夕陽で赤く染まる長い桟橋を歩き、厳格な海兵に案内されながらマギロン大将の座乗艦へと乗船した。


 ルベリオン王国が威信をかけて保有する巨大な主力艦は、圧倒的な質量と威容を誇っていた。

 アリアとフィルネは楽しそうに甲板の設備をアチコチ見回しており、その態度はまさに軍艦見学のツアー客といった状態だ。

 やがて、出航の指示を飛ばしていたマギロンがグレン達の所へ歩み寄り、今後の航海スケジュールを説明してくる。


 とりあえず、視界の効かない夜の海上の高速移動は座礁や衝突のリスクが高いため、低速で移動を開始し、日が昇る明朝に目標海域へ到着するように進路をとるという。

 その間、グレン達は客室で休んでいればよいと促され。マギロン直々の案内により、船内奥の豪華なVIP用船室へと案内された。

 そこは高官の来客用に作られた特別な部屋で、王都の高級宿屋と遜色ない程の豪奢な造りだ。

 過酷な軍艦の中だという事実を忘れてしまう程に、上品に装飾された室内には大きめのマホガニーのテーブルが鎮座し、ご丁寧に高価そうなティーセットまで用意されている。

 

「そうか、すまんな。貴殿のお連れさんは二名とも女性だったか。大変申し訳ないが、この艦に客人用のVIPルームは『この一つ』しか用意がなくてね。大人三人が同室になるが、構わないかね? 他には、むさ苦しい兵員用の雑魚寝部屋しか余っていないのだ」


 マギロンの事務的な言葉を聞いて、グレンはまず、部屋の中央に鎮座する〝一つしかない〟大人三人が余裕で寝れる程の巨大なキングサイズベッドを凝視した。

(……いくらなんでも、この空間的配置は色々と不味いのでは?)といった危機感を抱き、アリアとフィルネの二人に救いを求めるような視線を送る。


「え? 私は全然大丈夫だよ! グレンくんがイヤじゃなければ、だけど」


 と、防御力ゼロのあっけらかんとしたアリアの態度とは対照的に、フィルネは少し気まずそうに顔を赤らめ、視線を逸らしながら答えた。


「だ、男性と同じ部屋だと、ほら。着替えのタイミングとか……寝相とか、色々とコンプライアンス的に問題があるんじゃないの?」

「だ、だよね! フィルネさんの言う事が常識的な見解だよね!。僕は別に、空いてる貨物室の隅とかでも全然大丈夫だから。この部屋は女性二人で広々と使えばいいよ。どうせ到着までの七、八時間程の話だし」


 極度の緊張でギクシャクと譲り合うグレンとフィルネのやり取りを聞いていたアリアが、少し不満げな膨れっ面でフィルネに物申す。


「別に減るもんじゃないし、いいじゃない。着替えなんて、グレンくんに後ろ向いててもらえば何処でも出来るでしょ。どんだけ遊び気分なの? グレンくんは昼間ずっと風魔法を使ってて魔力も体力も限界なんだから、ちゃんとふかふかのベッドで休ませてあげなきゃダメでしょ」

「あ、アリア様にだけは遊び気分云々を言われたくありません! 別に嫌だと言ってるわけじゃなくて、世間体として一応言ってみただけですよ! 簡単に男性と一夜を共にする軽い女だと思われたくないんで!」

「別に私だって、誰でもいいから許すってわけじゃないわよ!」


 何やらお互いのパーソナルスペースを巡って熱を帯びていく二人の不毛な会話を聞きながら、グレンは疲労困憊の顔でマギロンと視線を交わした。

 百戦錬磨の海軍大将であるマギロンは、全てを察したように静かに深いタメ息を吐き、グレンの耳元で同情を込めて囁いた。


「……貴殿も、戦場とは別の意味でなかなか大変な修羅場を抱えておられるな」

「は、はい? どういう意味ですか?」

「いや。わからなければ結構。……では、むさ苦しいが私の『船長室』の仮眠用ベッドを使うといい。どちらにせよ、目標海域までの正確な航路も割り出したいし、どうかな?」

「……そうですか。それは、精神的に非常に助かります」

「では、参ろうか」


 グレンは、未だに「軽い女じゃない」「私だって」と言い争う二人を背後に残し、そっと特別室の重厚な扉を閉めて。苦笑いを浮かべるマギロンと二人で、むさ苦しいが圧倒的に安全な船長室へと避難した。


 船長室に入ったグレンはマギロンの広げた詳細な海図へ、昼間に海賊船を視認し、銃撃を受けた正確な座標を大まかに記した。

 夜の海上では人工的な光が無ければ文字通り一寸先は闇だ。下手に全速力で近付くと暗礁に乗り上げるか、海賊船の残骸などに衝突してしまう物理的リスクも存在する。

 故に、太陽が昇り視界が完全にクリアになるまでは、その指定海域の付近には深く近付かないという事になった。


 マギロンは海上の警戒に当たるというので、魔力枯渇で疲労のピークに達していたグレンは、その厚意に甘え、遠慮なく船長用の固いベッドを使わせてもらい泥のように眠る事にした。

 ────そして、決着の朝が訪れる。


 前日は無詠唱魔法を連続稼働させすぎた反動か、死んだように熟睡していたグレンを物理的に揺さぶって起こしたのはアリアだった。

 彼女は、昨夜グレン達がいつの間にか部屋から消えていた事に「心配したんだからね」と軽く不満を垂れていたが。

 とりあえず、既に艦は目標海域に近付いていると教えられたグレンは、アリアに手を引かれるまま甲板へと上がる。


 既に多くの海兵が慌ただしく動き回っており、船首の方ではマギロンが副官と深刻な顔で協議していた。

 その横ではフィルネが自前の軍用望遠鏡を構え、熱心に海上を索敵している。

 グレン達に気付いたマギロンが、険しい表情を少し和らげて迎えた。


「よく眠れたかね? 既に貴殿が海図に記した座標の海域に達しているが、未だ怪しい船影は一つも見付かっていない。夜のうちに暗闇に乗じて移動したのだろうか?」

「いえ、どうですかね……」


 グレンが昼間に演算した限り、あの海賊船はマールーン公国の軍艦から一方的に砲撃を受け、かなりのダメージを負っていた。下手に移動すれば水圧で浸水が加速し、沈没しかねない絶望的な状態だったはずだ。

 まして視界ゼロの夜間に強行移動するのは自殺行為に等しい、と思考を巡らせていると、望遠鏡を覗いていたフィルネが声をあげた。


「あっ! あそこに何か落ちてるわよ!」


 フィルネの指差す方角へ、軍艦はゆっくりと舵を切る。

 その海域一帯には、黒く焦げた無数の木片や、千切れた帆布の残骸がプカプカと散乱している。激しい砲撃によってバラバラになった船体の一部だと言われれば完全に辻褄が合う。

 だが、決定的な証拠(水巫女や海賊の遺体)がない以上、断定は出来ない。


 もう少し確固たる手掛かりが欲しい所だが、それから四時間程かけて周囲の海域を徹底的に捜索したものの、結局、決定的な物は何も見つからなかった。

 戻ってきたマールーン公国の軍艦によって証拠隠滅の為に完全に沈められたのかもしれないし、その前にダメージの蓄積で自沈したのかもしれない。

 どちらにせよ、あの状態から他海域へ逃亡出来たとは考えにくいため、『真実は全て暗い海の底へと沈んだ』と結論付けるのが妥当だとされた。


「どうだろう。念のため、もう数日ほどこの海域の捜索を継続してみるかね?」

「あ、いえ。僕と彼女たちは一応、本業のギルドの仕事を休んで来ている身なので、これ以上の無期限の滞在はシステム的に出来ないんです。……ねぇ、フィルネさん?」


 と、グレンはここで、ナルシーの強引な勧誘すらも跳ね除け続けた『鉄壁の防波堤』たるフィルネに、断りの口上をパスした。

 というのもグレンの考えでは、結果の出ない不毛な洋上捜索よりも、己の日常であるギルドの窓口業務の方が遥かに大事であり。その『仕事第一』のスタンスに関しては、クソ真面目なフィルネが誰よりも一番深く理解し、同調してくれると信じて疑わなかったのだ。

 

「……まあ。私は別に、せっかくのクルージングだし、もう少しくらいなら日程を延ばしても……」

「…………ふ、フィルネさん? ギルドの窓口を何日も空けるなんて、もってのほかで業務規定違反だって。あのナルシーさんにすら狂犬のように噛み付いてたよね?」

「あ、ああッ! そ、そうだっけ……! うん。そうだったわね。コホンッ! ギルドの窓口をこれ以上空けるのは、社会人としてやっぱりダメよね!」


 まさかの『軍艦クルージングの延長』に心惹かれ、意外にも煮え切らないポンコツな返事を見せたフィルネだったが。グレンの正論に耐えきれず、己のキャラを強引に取り戻したようだ。

 こうして、一連の事件の謎を海の底に残したまま、とりあえずグレン達は日常の待つルウラへと帰還する事になった。

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