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水巫女を恐れる国々


 ◇◇◇◇◇


 グレンが、マリンルーズの海軍基地の一室で数時間前にあった事を王国海軍大将に説明していると。

 部屋の扉がノックされ、一人の海兵が訪ねてきた。


「マギロン大将。王城から緊急の書簡です」


 マギロンは渡された書簡に直ぐ目を通し、そして小さく頷いた。


「うむ。どうやら貴殿が見たのは、本当に水巫女だったのかもしれん。水巫女を拐ったのは海賊らしく、それがルベリオン領海方面に向かったのは確実のようだ。セルシアクベイルートより、領海での捜索協力が来た」

「本当ですか。ではマールーン公国の軍艦も、それを聞いて来たんですかね?」

「いや。中央大陸から、ルベリオン領海付近までは船で二週間はかかる。この話が出る前から、何らかの情報があったのかもしれないし。たまたまかもしれない」


 となると、あの軍艦は単純に海賊船だから攻撃したのだろうか? とグレンは考えたが。

 どちらにしても、グレン達まで殺そうとする理由は思い付かないし、これではどちらが海賊かわからない。


 グレン達を海賊の仲間と勘違いする可能性も少ない。

 となると。あの海賊船を襲った所を、見られると困る理由があったのだろうか。

 

「ならば僕が襲われた場所を調査するべきではありませんか? マールーン公国の船も、あの場所に戻った可能性がありますし」

「戻ったとしたら、マールーン公国の軍艦が水巫女を保護するのではないのかな?」


 マギロンの答えには、素直に賛同出来なかった。

 何故なら、あの海軍は青髪の少女が傍にいても容赦なく海賊を撃ったのだ。


 実は水巫女だとわかってて、彼女が死んでも構わないくらいの気持ちだったのではないか? と、考えていた。

 

「いえ、そうとも言い切れませんよ。水巫女は、一時期〝兵器〟だと言われてた事もありますし」

「まあ、そんな事もあったらしいが、結局セルシアクベイルートは完全に孤立した王国だと結論付けられたではないか」

「それは西方大陸の人達の見解ですね」


 グレンは中央大陸の人間だからわかる。

 水巫女は多くの者に〝恐れられている〟のだと。



 西方大陸では意外と知られていないが。

 聖王国の水巫女の存在は、数年前に中央大陸で大きな波紋を呼んだのだ。


 遡ればそれは〝海〟を戦いの舞台として逸早く重要視しはじめた〝中央大陸ならでは〟の事だった。

 他の大陸に囲まれている中央大陸の国々は、大陸外からの洋上進行には特に警戒してきたのだ。


 他の大陸が軍艦を造り始めたのなんて、それこそ最近の事で。元々、海軍というのは中央大陸の海に面した国々だけで広がっていった〝新世代〟の軍事力だった。


 故に、中央大陸の海軍は海戦に関して、かなり卓越している。

 海賊艦隊が、中央大陸の海軍を一隻でも見たら逃げ回る程だ。


 しかし、そんな海上戦最強の中央大陸の国々からしても。

 セルシアクベイルート聖王国に誕生した少女──水巫女にだけは、危機感を抱いていた。

 

 それは現在の女王──〝恵みの聖女〟の夫が、かなり有能な〝召喚魔法使い〟だった事が影響している。


 二人の間に生まれた少女──リュシカ・アール・クライストは、強大な水の魔力と召喚魔法の才能を受け継いでおり。

 その力は、まさに最強。


 海や湖等においては水巫女の力が〝無限〟に近い程の強大な戦力になり得る、と世界に知らしめたのは。

 この少女の〝お遊び〟が原因だった。


 元々、恵みの聖女は天候を操り雨を降らせる程の力を持っており。

 そこに父親の才能である召喚魔法が加わった〝水巫女〟は手がつけられなかった。


 幼少の頃の水巫女はとても無邪気で、湖の水で様々な動物を召喚して遊んでいたのだ。

 水で出来たペガサスを召喚して空を駆けたりだとか、大量の水の兵士を召喚し、湖の上を行進させた事もあったという。

 

 そんな無茶苦茶な噂話が飛び交った為。

 それに脅威を感じた中央大陸の国々は、セルシアクベイルート聖王国に対して水巫女の力の〝封印〟を要求した。


 世界のバランスを崩しかねない強大な力は〝存在するべきではない〟として。

 水巫女排除の動きが高まり、やがて幾つかの国が結託して〝水巫女は殺すべき〟という所まで事が大きくなろうとしていた。


 この事態に恵みの聖女は、娘の命を守る為。

 中央大陸の信頼出来る魔道士に〝娘〟の力の封印を依頼した。

 それを中央大陸の各国から招いた〝見届け人〟の前で実行したのだ。


 それにより水巫女は巨大な魔力を封じられ、常識的な魔力に留まる〝普通の少女〟となった。

 そして中央大陸の国々も、要求を飲んだセルシアクベイルートに対しての〝わだかまり〟を解いたのだ。


 だが、以後セルシアクベイルートは、他国と関わらなくなった。

 聖女と水巫女は、ひっそりと南方大陸に息を潜めるように、自国だけの幸せを考える孤立した国家となったのだ。


 それでも中央大陸の国には、いまだに〝水巫女〟への警戒を唱える者は多い。

 その水巫女が拐われたとなれば、中央大陸の多くの国が過去の〝わだかまり〟を思い出して当然だ。


「中央大陸には、いまだに水巫女を始末したいと思う者もいると思うのです。または、利用したいか……」

「つまり。マールーン公国は水巫女の味方とは限らないという事か?」

「むしろ、今の状況では敵の可能性も高いですね」

「なるほど……」


 グレンの話にマギロンは唸る。

 そして何かを決意したように立ち上がった。


「よし、わかった。ではその海域に行ってみよう。実は貴殿の事は、騎士団のナルシー殿から聞いている。何かあったら協力するようにとも言われているのだ」

「え? そ、そうなんですか」


 グレンは正直、お国の事情はどうでもよい。

 ただ自分の考えを伝えたにすぎないのだ。しかし自分の一言で海軍が動きそうで戸惑っていた。


「では、今から出港しよう。その海域まで案内してくれ」


 いや、海軍だけで行ってくれ……と、思ったグレンだが。

 そんな事を言える雰囲気ではなかった。


「そ、そうですか。でも、僕の連れが二人。街に宿を探しに行ってまして……」

「ハハハッ! 船の中もなかなかだぞ。その二人を早く呼び戻しなさい。私の船の特別室を使うといい。長い航海になるかも知れぬからな」


 長い航海は非常に困る────とグレンは今、海軍基地に来た事を激しく後悔していた。


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