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船上の戦い


 ── セントラル海沖 ──




 中央大陸から、西方大陸への航海中。

 大嵐による洗礼を受けて、只でさえ小さな船体は相当なダメージを負っていた。


 どう頑張っても十五名乗れるか程度の小型帆船で、しかもたった二人で嵐を乗り切れただけでも凄い事ではあるのだが。


 その代償として、身に付けていた装備以外、船内の荷物の殆どが海に投げ出されてしまったのも確かだった。

 大体は無くても何とかなるが、一番の問題は食料である。




 その嵐から二日が経過した頃。

 黒の短髪に少し長い銀髪の前髪という、奇抜な見た目の男──ビリディ・リエン(二十八歳)は、激しく腹が減っていた。


 海に出てから一週間以上が経ち、かなり沖まで来ているので。

 近くに〝島〟なり〝何か〟を見付けられない場合、戻る事も出来ずに餓死するのでは? とさえ思える。


「おぉい。腹減ったな、何か食うもんねえのか?」

「あるわけないでしょ。〝(わか)〟がこんな船で海に出るからですよ。生きてるだけマシです」


 答えたのは、現在〝唯一〟の喋り相手であり、最も信頼してる仲間であるスキンヘッドの男──ロゴス・ベアーだ。


「おう、そうかよ。そりゃあ悪かったな。でも俺は腹減ってんだ」


 実際に嵐以降、二人とも水以外何も喉を通していないのだ。

 ビリディに至っては海に出る直前に『ワーズサニー』の牢獄を〝脱獄〟してきた身なので、海に出る前からろくな物を食べていない。


 

 もはや寝るしかねぇ、とビリディは狭い甲板に寝転がる。

 晴れ渡る青空を見つめていると、次第に瞼が重くなってきた。

 


 



「若っ! 船です」


 突然のロゴスの報告に、ウトウトしていたビリディは飛び起きた。


「こんな所で船たぁ。商船か? これはツイてるな、何処だ?」

「あそこです……太陽の真下。逆光で見にくいですが多分、大型船です」


 ビリディはロゴスの指差す方向に目を凝らした。

 そして〝尋常じゃない〟視力で、その船を確認する。



「おお、あれは海賊だな……」


 船には羽の生えた悪魔──ガーゴイルを型どった船首像があり、帆にはクロスされた二本の剣に貫かれる狼のマークが描かれていた。


「うげっ! 最悪じゃねーっすか」

「あぁ〝最高〟だな。ロゴスお前、魔力は余ってるか?」

「残ってますが、逃げれますかね? この船はもう無茶は出来ないっすよ?」

「あの船まで全速だ」

「正気っすか? 海賊船の前で沈みかねませんよ」

「大丈夫だ。後はあの船をいただく」


 ロゴスは、参ったなぁといった顔をしたが、渋々と魔法の詠唱を開始した。


「吹けや吹けや導きの風よ、一つに纏まり────」


 ロゴスの風魔法により吹き荒れた風は、船の帆に衝突する。

 すると二人を乗せた小型帆船は、一気に加速した。


 見る見るうちに海賊船との距離が縮んでいくが、その海賊船はジワジワと船体を横に向け始める。

 側面に大量に備えられている大砲が、魔法で疾走するビリディ達の船に狙いを定めた。


「来るぞ、ロゴス。しっかり舵取れよ!」

「あいあいさー」


 ドウン、ドウンッと、海賊船の側面から連続で大砲が火を噴く。

 小回りの効く小型船は、ロゴスの操縦により全てを紙一重で避けていた。


 両端で激しい水飛沫が上がる中を、高速で進むビリディ達の小型船は海賊船の真横に位置付けた。

 直ぐにビリディは、揺れる不安定な足元を思いっきり踏み切り、空高くへ飛び上がる。


 十メートルはある海賊船の〝(へり)の上〟に飛び乗ったビリディは、腰からシミタ-と呼ばれる半月状に反った剣を抜いて空へと掲げた。


「この船は俺が貰った! 文句ある奴はかかってこい」


 甲板上には二十人以上の海賊がおり、下の船室からも続々と上がって来た。

 全部で四十人くらいだろうか?


 甲板の海賊達は全員が、ビリディのイキった発言にキョトンとしていたが。

 一呼吸を置いて、全員が大笑いした。


「お前、俺たちが海賊だって知ってんのかよ」

「豆粒みたいな船で来やがって」

「僕たちを奴隷にしてください、の間違いだろ?」


 海賊達の反応を見て、ビリディは「オッケー。お前ら全員死にたいって事で……」と、ほくそ笑み。

 空に向けていたシミタ-を眼下の海賊達へ向けた。

  

 海賊達は全員一斉に腰から〝鉄砲〟を抜いて、ビリディに向ける。

 その直後。海賊達を掻き分けて、海賊船長らしい帽子を被った恰幅の良い髭面の男がノソリと現れる。


「お前が船長か?」

「船長のバルドロフだ。俺達はカンカンと鉄を打ち合わせる戦いには既に飽きてる。コイツの方が、魔法よりも速いしな」


 と、手に持った鉄砲をビリディに向けるが、ビリディは臆しない。


「ああ、お前は賢いな。全く魔法なんてのは時間の無駄だ」


 と、バルドロフに同意しながらも軽やかに甲板上へと飛び降りた。

 そして「魔法なんかよりも、コイツの方が手っ取り早えぇってなあ!」と、シミタ-をなぎ払う。


 するとビリディを中心に海賊達目掛けて、扇状に風の刃が広がり、複数の海賊達が悲鳴をあげて倒れた。


「ちっ、マジックソードか。お前らやっちまえ!」


 バルドロフの一声で甲板上は戦場となる。

 ロゴスは、いつの間にかビリディとは反対側の甲板に回り込んでおり。

 小型帆船に常備されていた〝オール〟を振り回し応戦していた。


 ビリディは船上の樽、張り巡らされたロープ、群がる海賊の頭まで。

 あらゆる物を足場にして、華麗に船上を移動しながら魔法付与されたシミタ-で海賊達を次々に始末していく。


 ロゴスも負けじとオール一本で海賊達の数を減らしていった。

 気付けば、戦況はビリディ達が〝圧倒的〟有利になっている。


 やがて────



「はい。チェックメイト、お疲れさん」


 と、ビリディはシミタ-の刃をバルドロフの首直前でピタリと止めた。

 自分の首に刃が触れ、僅かも動けないバルドロフは悔しさに顔を歪ませるのだった。



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