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【冒険者ギルドのお仕事】 ~冒険者からの売れ残りを片付けているのは〝役立たず〟〝ゴミ箱〟と嘲笑われる最強の従業員だった~  作者: 水城ゆき
第一章

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道化の仮面

レオン・ペルムという男の悪癖は、毒草のようにギルド内へ広まっていた。

 彼が標榜した『ゴミ箱』という不名誉なレッテルは、今や新人の冒険者までもがグレンの事を本名より先に覚えている。

ただ、アリア・エルナードだけは、その悪意の潮流に乗ることを拒んでいた。


「いや、別に私はバカにしてないけど? 」……と、レオンを一瞥した後、再びその視線をグレンに向けた。


「ただ、本当に、キミは何も知らないの?」


 その問いかけが真剣そのものがゆえに、鋭利なナイフとなってグレンは喉元に突きつけられている感覚を覚えた。


「はい、僕は知らない……です。どこかの、その、高ランクの冒険者さんとかの仕業じゃ……ないですかね?」

「え? うぅん……」


 グレンの精一杯の「トボけ」に対し、アリアが眉をひそめた瞬間。待ってましたと言わんばかりに、下品な破裂音が響いた。レオンの笑い声だ。


「アハハっ! バァカ、高ランクの冒険者が雑魚のゴブリンなんか相手にするかよ! アリアちゃんが返答に困ってるだろ。ゴブリンの強さも知らないのかよ。それでよくギルドの制服を着てられるな。あ、いや……ギルドの『ゴミ箱』だったか。これは失敬、失敬!」


 周囲に伝播する、粘りつくような笑い声。

 グレンは情けなさに顔を赤く染め、石畳の亀裂を数える機械と化した。視界の端に映るアリアは、笑うどころか複雑な──あるいは、あまりの無能さに呆れ果てたような、冷ややかな眼差しをグレンに向けている。


 そんな最悪のタイミングでフィルネが現れる。彼女はレオンに対し、これ以上ないほど恭しく頭を下げた。


「申し訳ありません、レオン様……。ご存じの通り、彼は依頼書を剥がすこと『だけ』が仕事ですので、世間知らずな面も多々ございます。ところで本日のご用件は? よろしければ、あちらのカウンターで詳しく伺いますわ」

「ははっ、それは助かる。……おいゴミ箱くん、せいぜいゴブリンの勉強でもしたまえよ」


 最後まで嫌味の残滓を振りまきながら、レオン一行はフィルネに誘われて消えていった。

 フィルネの言葉にも若干の棘を感じないわけではなかったが、この屈辱的な舞台から降板できるなら安いものだ……と、グレンが静かにその場を去ろうとした、その時。


「ねえ、キミ……どうして、私が見たのが『高ランクの冒険者』だと思ったの?」


 アリアの、温度のない質問が彼を引き止めた。

 蒸し返し。あるいは、死体蹴り。だが、その声に含まれた響きは、レオンのような「見下し」ではない。まるで、計算式の矛盾を見つけた学者のような、純粋な追及。


 ──何故、高ランクだと「わかったのか」。


「え、え……と。それは」

「ああ、えっとね。高ランクが皆ゴブリンを無視するとは思わないけど、相手にしない人の方が圧倒的に多いのは確かだよね。これって、この業界の一般常識じゃない?」


 グレンの背中に冷たい汗が伝う。

 これは誘導尋問だ。彼女は知っているのだ。あの渓谷にいた個体が、並の冒険者には手に負えない「イレギュラー」であったことを。そして、それを一瞬で屠った存在が、ただの〝一般常識〟で片付けられるはずがないことを。


 返答を一つ間違えれば、彼の平穏という名の虚飾は、ガラス細工のように粉砕される。だが、彼には最強の防具があった。そう──「無能」という名の無敵の鎧が。


「あぁ……、はい。レオンさんの仰る通りですよ。ぼ、僕はゴブリンの強さなんて……これっぽっちも、知りません。あはは」


 完璧なまでの自虐。徹底した無知の装い。

 周囲の冒険者たちは、そのあまりの情けなさに失笑を漏らす。アリアは、そんなグレンをしばらく無言で見つめていたが、「ふーん……そうなんだ」とだけ言い残し、踵を返した。

 

 とうとう「聖女」からも見放された。その事実は、これまで幾度となく浴びてきた罵倒よりも重く、グレンの肩を落とさせた。


 ────それから数日が経過したが、アリア・エルナードが彼に言葉を掛けることは二度となかった。

 もし、あの場で正直に「僕がやりました」と告白していれば、この胸の痛みはなかったのかもしれない。

 だが、もしアリアが公衆の面前で「ギルドの打ち切り依頼を、無能な従業員が解決した」などと叫べばどうなるか。


 ルウラの冒険者ギルドが保っている「依頼主と冒険者」の絶妙なパワーバランス、そして「裏の仕事」という秘匿事項。それら全てが崩壊するリスクを考えれば、彼に選択の余地など最初から存在しなかったのだ。

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