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彼女が来る前に


「ごめん、何だって?」と、目を丸くして聞き返してくるフィルネにグレンは今一度〝正確〟に答える。


「ああ。つまり、中に不審者が数人いたんだ。同時に全員を無力化する必要があると思ったから、僕は魔法で家の中のあらゆる空気の流れを止めたんだ。だから全員が酸素を吸う事も出来なくなって。当然、僕も例外じゃなかった……ってわけ」


 懇切丁寧に説明すると、フィルネはようやく納得したように両手をパンッと合わせる。


 我ながら上手に説明出来た、などと思っていたグレンに突然フィルネは捲し立てるように言い放つ。


「ってわけ……っじゃないわよ! 魔法で空気を止める? 家全体の? 言ってる意味わかんないのよ! キミが普通じゃない事は薄々知ってたけど、どんだけ規格外の事をやってるか知ってる!?」


 グレンにとって規格外な事ではないので、何を彼女は興奮しているのだろうか? と戸惑うばかりだ。

 それよりも急いで確認する必要があるのは、こうなった経緯である。


 するとルクルがグレンとフィルネの元に来て、ペコリと頭を下げた。


「悪かったよ。俺は奴らに言われた通りにやるしかなかったんだ。あの姉ちゃんをベイナント渓谷に行かせろって言われて……」


 ルクルの説明も半ばにグレンは急ぎ立ち上がる。

 アリアをベイナント渓谷に誘いだす理由を考えた時、直ぐに強化ゴブリンが頭に浮かんだのだ。



 グレンは前から少し考えていた。

 騎士団の調査で、強化ゴブリン発生の危険区域である三ヶ所に、ベイナント渓谷の隣にあるベルクト渓谷があった事を。


 騎士団のその後の調査でベルクトでは何も見付かっていないのだが、もし、それが隣のベイナント渓谷から来たものだとしたら?


 しかも、グレンが初めて見た強化ゴブリンは、ベイナント渓谷だったわけだ。

 誰も近付かない場所なら、あそこにリーヤマウンテンの様な〝施設〟があったとしてもおかしくなかった。


 しかも、サヴァロンが国境を超えた形跡はないという噂だし。

 まだ、ルベリオンの何処かに潜んでる可能性が高い。


 それがベイナント渓谷で、サヴァロンがアリアを誘い出してるとしたら理由は一つ。

 奴は〝まだ〟実験を続けているのだ。

 


「アリアが危ない。助けなきゃ! フィルネは騎士団を呼んで、ここの奴らを引き渡して」

「ちょっと、グレンくん。キミ、一人で行くつもり!? 騎士団と一緒に行けば……」

「それじゃ間に合わない」


 奴らに話を聞き。騎士団と馬で行くのが無駄がないと普通は思うのだろうが。

 グレンには〝転移魔法〟がある。

 アリアが現場に着いている可能性も無いとはいえないので急ぎたいが、騎士団と一緒だと都合が悪い。


「はあ……もうわかんないけど。わかった、ここは私に任せて」

「ありがとう、フィルネ……」

「ちょっと待ってくれよ! これを……」


 その場を立ち去ろうとするグレンを、ルクルが引き留めた。

 その手には一本の〝鉄の剣〟が握られている。


「こんなんで許してくれとは言えねぇけど、せめて持ってってくれよ、兄ちゃん」

「ありがとう。使わせてもらうね」


 せっかくなので、グレンは剣を受け取ってその場を立ち去った。

 そしてルウラの真っ暗な路地裏から、過去に一度行っているベイナント渓谷へと〝転移〟した。



 見れば、その鉄の剣はよく鍛えられている。

 所詮は鉄の剣だし、ルクルが鍛えた物でもないのだろうが。

 その剣には彼なりの〝罪悪感〟が乗っているのだ、とグレンは捉えた。


 グレンに剣なんて不要だが。

 貰ってあげる事で少しでもルクルの罪悪感が消えるならば、それも良いだろうと考えて受け取ったのだ。


 どんな理由があれ、子供が一人で戦わなければならない怖さをグレンは知っている。

 だから彼を責める事は出来ない。


 その鉄の剣を片手に、グレンは周囲を見渡す。

 さすがにアリアが到着してる気配は無く、少し安堵する。


 では、彼女が来る前に終わらせよう。と、そう思いグレンは渓谷を探る事にした。

 ムダにウロウロした所で仕方ないが問題がある。


 グレンは転移してから直ぐに〝オールセンシス〟を何度か使用しているが、何も反応しないのだ。


「ここも、リーヤマウンテンと同じか……」


 風が濁っている。結界だろうか?

 リーヤマウンテンと同じ現象に、余計にグレンの不安は煽られる。


 アリアが来るまでに何とかしたいが、どうしようもなく。グレンは少し焦っていた。

 渓谷はかなり広い。

 むやみやたら歩いても何か見付かるとは思えないが、歩いて〝何か〟を探すしかない。




 小一時間程歩いた時、何か声が聞こえた。

 その方向に向かうと、複数の人影が見えたのでグレンは咄嗟に岩陰に隠れ様子を伺った。


 先程通った時には無かった洞窟の入り口があり、その前で人が倒れている。

 その周りにいるのは人ではない。剣やナイフ、斧などを持つ複数の〝ゴブリン〟だった。


 もはや、あの者は助からないだろう。

 近くにサヴァロンがいる気配はないが、下手に動いて気付かれ。逃げられても困る。


 暫く様子を見ていると、ゴブリン達は洞窟へと引き返していった。

 直ぐに音を立てて大きな岩壁が動き、入り口を塞いでいく。


 そういう事か……と、慎重にグレンが近付くと倒れている者が微かに声を発した。

 もはや虫の息だが、その者は最後の力を振り絞り何かを言っている。


「さ、ば……ろん、を……ころ……せ」


 それを最後にその者は息絶えた。

 よく見るとターバンを巻いており、どこかで見たような……と、グレンはふと〝ベーチャ〟を思い出す。


 それより、サヴァロンという言葉でやはりアリアを誘い出したのは奴なのだと確信した。

 近くの岩肌を探ると不自然に窪んだ部分があり、手を入れると何かに反応したように。

 再び、岩壁に扮した扉が音を立てて動き出した。


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