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廃れた採掘場


 ◇◇◇◇◇


 冒険者ギルドの閉店時間が近い。

 後は店内に残っている冒険者の退出を待つのみとなっていたのだが。


 掲示板で最後まで依頼書を見ている一人の冒険者が不意にグレンに尋ねた。


「最近、みんな何処で採掘してるのかねぇ。採掘の依頼とかはあまりないのかい?」

「まあ、そうですね。滅多に……」

「やはりそうか……、この辺りではもう、商人から買い付けた方が手っ取り早いのかもね」

「ベイナント渓谷がありますよね?」

「渓谷か? ああ、あれはダメだ。もう採り尽くされて何も出ない。そんなの結構前からだよ」


 その言葉にグレンは驚いた。

 ベイナント渓谷は昔、採掘者で賑わっているイメージだったが。

 結構前から鉱石は採り尽くされ、今では誰も近寄らない場所になっていると、その男は言う。


 思えばベイナント渓谷付近の依頼は〝ゴブリン退治〟の前くらいから殆ど見ていない。


 採掘に行く者が多いなら、もっと渓谷周辺の依頼が多かったはずであり。

 つまりは、あの頃から既にベイナント渓谷は〝廃れ始めていた〟という事だろう。


 因みに、その隣にベルクト渓谷というのがあるが。

 街道として整備されてしまい採掘は禁止だし、この前までゴブリン調査で騎士団により封鎖されていた。


 そうなるとルクルの依頼は? と、グレンは急遽カウンターに戻り、フィルネにその疑問をぶつける。


「──確かに変ね。でも〝いつものベイナント渓谷で〟って言ってたし、あの少年が知らなかったのかも」

「ルクルくんの家は鍛冶屋だし、知らないなんて事あるかな?」


 グレンは何か引っ掛かった。

 これは一応、ルクルに再度確認する必要がある。


「でも、実際にそう言ってたからね」

「少し気になるんだよなぁ」

「わかった、わかった。付き合ってあげるわよ……この街で鍛冶屋は二軒しかないから、そのどっちかが少年の家だし。すぐ見つかるでしょ」


 グレンの意図を読み取ったらしく、フィルネの一言でとりあえず鍛冶屋を訪ねる事になった。

 早速、一軒目の鍛冶屋のドアを叩いたが。

 出てきた主人は、娘はいるが息子はいないという全くの別人だった。


 では次……と、グレンとフィルネが向かった二軒目の家の窓からは、ロウソクらしき仄かな明かりが漏れていた。

 フィルネがその家の扉を叩く。


 留守か? と思った頃。

 静かにドアが半分開かれて、中から顔を出したのはあの少年──ルクルだった。


「こんばんは。ねぇキミ、一人なの? お父さんの容態は大丈夫?」

「な、何しに来たんだよ」

「店でも思ったけど、随分と口の聞き方がなってないのね。お姉さん、そういうのは許せないなぁ」

「ちょっとフィルネ。そうじゃなくて……」


 違う方向に話を進めるフィルネを制して、グレンはルクルに尋ねてみる。


「あのさ。キミの依頼、本当にベイナント渓谷なのかな? お父さんに確認させてもらっていいかな?」

「は、は!? む、無理だよ。なんだよ急に」


 ルクルがあからさまに取り乱した。

 これは何かがある。

 急いでドアを閉めようとするルクルの手を、フィルネがガシッと掴まえた。


「待ちなさい! さてはキミ、あの依頼ウソなんでしょ。私達はイタズラになんて付き合ってられないんだからね。お父さんかお母さんを呼びなさい!」

「ち、違う! あの依頼は……」


 何かを言いかけたが、ルクルは慌てて手で口をふさぐ。

 その表情が、グレンには少し怯えている様に見えた。


 グレンは念のため、無詠唱で〝探知魔法〟を起動する。

 それから姿勢を落として、ルクルにだけ聞こえる声で囁いた。


「僕を信じて答えて……、奥には誰がいる?」

 

 怯えた表情のまま何も言わないルクルを見て、グレンは確信したのだ。

 今まさに、ルクルは誰かに脅されていると。


 グレンの探知では、奥の部屋に三人、その隣の部屋に四人。そして、ルクルのすぐ近くに一人いる。

 これだけ人がいて、物音一つしないのは〝息を潜めている〟という事だろう。


 何よりも、ルクルが頑なにドアより内側にグレンやフィルネを入れようとしない。

 これは人質がいる可能性が高い、とそう思ったグレンは無詠唱で広範囲に少し特殊な魔法を起動させた。


 家の中の明かりがフッと消えて暗くなると同時に、グレンはルクルの腕を掴んで家の外へと引っ張り出す。


 そして入れ替わる様にグレンは、目一杯息を吸ってから家の中に飛び込んだ。

 ドアのすぐ隣で、一人の男が苦しそうに倒れているのを横目で確認する。


 その男に全身を麻痺させる魔法〝パラライズ〟をかけてから直ぐに奥の部屋へ飛び込む。

 そこにはロープで縛られた男女と、シャムシールと呼ばれる半月状に反った剣を握りしめた男がいた。


 三人共が苦しそうにしているが、それはグレンの魔法のせいだ。

 直ぐにロープで縛られている男女にのみ風のシールド魔法を使い、グレンの魔法範囲から除外する。


 もう一人には玄関にいた男と同じ魔法をかけておいた。

 更に隣の部屋に四人の男が倒れており、その四人にも同じように魔法をかける。


 これで全て片付いただろう、と。初っ端に使用した少し特殊な広範囲魔法を解除して、外にいるルクルを呼んだ。

 

「ルクルくん。家の中にいる大切な人だけ教えてもらいたいんだけど?」


 急いで家の中に駆け込んだルクルが示したのはグレンの思った通り、ロープで縛られていた男女だけだ。

 二人は彼の両親であると思われる。


 後はパラライズで動けない男達を、時間をかけて全員ロープで縛りあげて完了だ。

 長めに呼吸を止めていた為、グレンは少し気分が悪くなっていた。


「グレンくん、顔色が悪いわよ! 横になって。一体中で何があったのよ」


 自分を案ずるフィルネに、どう言ったものか?

と、グレンは考えたが。適当な言葉も見当たらず簡潔に答えた。


「ちょっと、家の中の空気を止めただけ……」


 キョトン、とするフィルネを見てグレンは思う。

 ──あまりに簡潔すぎたか?


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