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裏切り者


 ジェンが慌てて奥の部屋に戻ると、サヴァロンの横に普通より少し体格の良いゴブリンがいた。

 その首には冒険者の階級プレートが、ジャラジャラと五つ程かけられている。


「お、おい。サヴァロン! あいつらが暴れてるぞ。あれは兵隊じゃなかったのかよ」


 怒り半分でサヴァロンに食ってかかるジェンに、サヴァロンは軽く答える。

 その口元は不気味に歪んでいた。


「彼等は確かに兵隊だよ。ただ、腹が減ってるだけさ。少し食べれば直ぐにおとなしくなる。そうだ、ジェンくん? キミも彼等の為に餌になってくれないかなぁ」

「お、お前……裏切ったな!」


 ジェンは最初からサヴァロンに騙されていた事に気付いたのだ。

 彼は、アリアを私利私欲の為にこの場所に誘い出す為、自分を利用したのだと確信した。


「やめてくれたまえ。僕に脱獄の協力しろと言ったのはキミじゃないか?」

「ここで、俺の仲間を全員殺しておいて何を」

「いや、だから。ちゃんと協力はするよ。腹が満たされれば街だって襲撃出来るじゃないか」


 サヴァロンはニタリと口角を上げる。

 やはりこの男を信じたのは間違いだった、とジェンは思う。



 元々、奴隷船の中で兄──ベーチャが来るのを待っていたジェンは、兄が捕まったと聞いて直ぐにルウラ近くの隠れ家に移動した。


 そして兄を牢獄から脱獄させる為、ルウラに冒険者を装った仲間を忍ばせていたのだ。

 しかしなかなか機会がなく悩んでいた所に、サヴァロンが現れた。


 彼の〝秘密の場所〟と言われる、この洞窟に招かれ。そこで彼のゴブリン実験を目の当たりにした時は、正直〝関わりたくない〟と思ったのだが。


 彼はジェンに『確実に城の警備を緩くする方法がある』と持ちかけてきた。

 その為にはもうしばらく準備がいると言われたが、その話にジェンは乗ったのだ。


 その代わり、サヴァロンにも協力した。

 既に賞金首になってるサヴァロンには、アリアを誘い出す事は難しかったのだ。


 しかしジェンならば、街にいる素性のバレていない仲間を使えばそれが可能だった。

 利害が一致した事で、ジェンはサヴァロンの考えた作戦通りにアリアをまんまと罠にかけたのだが。

 

「最初からこのつもりだったのかよ。今更ながら兄貴の忠告を聞くべきだったぜ! 奴には気を許すなって度々言ってたからな」


 ベーチャは最初からサヴァロンを警戒していたのだ。

 向こうから美味しい話を持ってくる人間は、完全には信用せず〝程よく〟付き合えともジェンは言われていた。


 だからベーチャは、サヴァロンがゴブリンを育てている事すら知らなかったのだろうが。

 だからこそ今、ジェンは思うのだ。


 ──兄貴だったら、あのイカれたゴブリンを見た瞬間にサヴァロンと縁を切っていただろう、と。


 そして、そうしなかった自分を悔いていた。

 全ては兄を助けたい一心だったのだ。


「そう言えば、お兄さんは固い人間だったね。あんなに〝兵隊〟を貸そうか、と言ったのに断ったし。だーから、あんなドジを踏んだのだろうけども」


 ケタケタと笑い、兄を小馬鹿にするサヴァロンにジェンは激しい怒りを感じていたが。

 既に背後にはゴブリン達が追い付いている。


 そして、目の前には更にヤバそうなのがいるので、冷静さを失ってはいけない。

 突破口を探して頭の中をフル回転させる。


 ジェンは腕っぷしだけなら、ベーチャにも勝るだろう。

 しかしあのゴブリン達の戦闘力はよく知っているのだ。一体だけでもキツイ事を。

 

 ジェンは、サヴァロンに何とか仲間達の為に復讐してやりたいという気持ちが沸いてくる。

 が、その為には一旦逃げる必要があると結論付けた。


 ゴブリンは明るい所の方が動きが鈍い。

 つまり、ゴブリン達を一旦全て。一番明るいこの部屋に集めた方が逃げれる確率は上がるのだ。


「おい、サヴァロンよ。悪いが俺は餌になるつもりは無いからな。そして、お前の事も許さねえ」

「おやおや。まさか戦うのかね? この人数と……。どうやら頭のネジが飛んでしまったようだ」

 

 ジェンは自慢のサーベルを抜く。

 ゴブリン達が集まってくる気配を感じながら、一番気配の少ない場所を探して、そこに向かって走り出した。


 近くにいたゴブリンに斬りかかるが、思った以上に反射神経がよくその一撃はかわされた。

 だが、立ち止まれない。

 そのまま洞窟の出入り口の方へ走り出す。


 その瞬間、背中が切られた感覚で熱くなる。

 そこそこ深いと感じたが足を止めたら終わりだ、とジェンは走り続けた。


「そいつを逃がすな!」


 と、背後でいつになく冷静さを無くしたサヴァロンの声が聞こえて、ジェンは口元が緩んだ。

 それはそうだろう。

 サヴァロンにしたら、ここでジェンが逃げ出したら、アリアがここに辿り着く前に危険を察してしまう可能性があるのだから。


 アリアを逃がすのは今のサヴァロンにとって、一番堪えがたい事に違いないだろう。

 こうなるとジェンは〝意地でも〟逃げ出してやりたくなった。


 背中の出血は、見なくてもわかる程に酷い。

 貧血なのか頭が若干フラフラするが、それでもジェンは走り続けた。


 そして洞窟の出入口が近付く。

 その特殊な扉は魔法により塞がれているが、しかるべき場所にほんの少し魔力を与えるだけで開く。


 ほんの少し窪んでいる岩壁の中に、ジェンは右手を入れた。

 そして魔力を僅かに放出すると、ガゴゴン……っと〝ただの大岩〟がジワジワと魔法の力で横に動き始める。


「早く、早くしろ!」


 まだ半分と開いていない大岩の扉から、無理やり外に抜け出そうとしていたジェンの左肩にゴブリンからの新たな一撃が食らわされた。


 薄れていく意識の中。扉が開き、外の月明かりがジェンを照らす。

 ──あと少しだ、と足を動かそうとするジェンの背中に三度目の斬撃が振り下ろされた。


 そしてジェンは完全に動けなくなったのだ────

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