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グレンからの依頼


 ◇◇◇◇◇


 冒険者ギルドのカウンターに両肘を付いて、アリアは頭を抱えていた。


 今更になって自分がいかに考え無しだったかを悔いている。

 グレンの話でフェアリーレイズが存在しない事は明白だったが、フランシスカの話を聞いて半ば勢いで約束した事を。


 唯一の頼りはリバイフラワーを使った万能薬であり、元凶である魔力血栓症を治せば……などと考えた。

 実際にその為にリバイフラワーが咲くという、ゼルー山脈へと向かうつもりだったのだが。


 そのゼルー山脈は、アリアが想像した以上に〝難所〟である事がわかったのだ。

 それはもう最悪、グレンに頼る事も考えた。

 しかし、そのグレンの言葉はさらにアリアを絶望させる事になったのだ。


「────先天性魔力血栓症ですか? それは……残念ながら、リバイフラワーの薬ではムリですね」

「え!? どうして?」

「先天性である以上、それはその人特有のものです。つまり、単純な原因がある普通の病とは違うんです」


 リバイフラワーで治せるのは、あくまで突発的に発祥した病であり、先天性や寿命など〝天命〟にあたるようなものには抗えないという話なのだ。


 では、病自体は無理だとしよう。

 その上でアリアは〝いちおう〟フランシスカの足について尋ねてみた。

 一時的に歩くだけでも何とかならないのかと。


「まあ足の切断自体は病による腐食とかではないですからね、怪我と考えるなら魔法で……うーん」


 と、申し訳なさそうに唸るグレンは、傷と同じ扱いとするなら魔法で治るはずだと答えた。

 しかし、その為には切断した元の足が必要である事。

 そして最低でも切断から〝数日以内〟が絶対条件だという。


 しかし、フランシスカが足を切断したのは一昨年である。

 その足が残っている事は無いだろうし、あったとしても経過日数的に不可能である事はアリアでも理解出来た。

 

「これはもう、フェアリーレイズを探すしかありませんね……」


 とカウンター向こうで話を聞いていたフィルネが呟いたが、実質の期限は結婚式まで。

 というか、フェアリーレイズは物自体が〝無い〟と殆ど結論が出ているのだ。


「私、余計な事しちゃった。変にフランシスカさんに期待させて最低な事しちゃったんだね。どうしよ……」


 アリアの脳裏に、フランシスカの深々と頭を下げる姿が鮮明に甦り。

 さすがのアリアも、取り繕いようのない現状に追い詰められていた。


「あ、アリアさんは悪くないですよ」

「いや、どうですかね。私なら絶対受けないです。ギルド規約を破ってまで依頼主に会うからですよ。どうするんですか?」

「ち、ちょっと。フィルネ……そんな事言うけど、フィルネもフェアリーレイズを真に受けて依頼書作ってるし……ね」

「う、、、それは」


 グレンとフィルネのやり取りを聞きながら、アリアの絶望感は増すばかりだった。

 アリアの様子を見ていたグレンは急に何も言わなくなったが、グレンの思いがアリアには痛いほど伝わってくる。


 グレンは人の苦しみ、悲しみを感じ取る程に、何も言えなくなる事をアリアは知っているからだ。


 グレンのそういう所を、アリアは堪らなく切なく感じるのだがそれは多分、切なさだけではなく〝愛しさ〟でもあると気付いている。


「ねえ、アリアさん……」

「は、はい!」


 アリアは、ボーッとグレンの顔を見ていた為、急に話掛けられて思わずらしくない返事をした。

 そして、自分の顔全体が熱くなるのを感じたのだ。


「え……と、とりあえず僕に少し考えがあります。もちろん病の治療は難しいのですが……」

「ほ、本当に?」

「期待はしないでください、ただ。フランシスカさんの一番の願いなら、もしかしたら叶えられるかもです」


 それはつまり、歩けるようになるという事だ。

 しかしアリアにもわかる。病を治す以上にそれは難しいのではないだろうか? 

 しかし、それをグレンに意見する元気は、今のアリアにはなかった。


「どうすればいい?」

「一つ依頼を受けてくれますか? 僕の……依頼です」


 グレンが初めて、アリアに頼んだ依頼は。

 『魔昌石』と呼ばれる、魔力石の結晶を持ってきて欲しいというものだ。

 ただ、〝それ〟はルベリオン王国の辺りでは採れない。


 魔昌石は隣国である、ローン公国の東にある〝タタヤラ鍾乳洞〟という所の奥で採掘出来るという話があるらしい。

 ローン公国までは街道があるし、鍾乳洞まではさらに安全な道があるらしいが。


 それでも往復で十日はかかるだろう。

 しかし、アリアはこれまでの事でグレンを信用しているのだ。

 彼が何とかすると言うなら、そこに奇跡があると思っている。


「わかった! 採ってくるね」

「すいません。僕が行ければいいのですが……」


 と、言葉を濁すグレンを見てアリアは察した。

 おそらくグレンも転移出来ない所なのだろう、かといって前にも数日ギルドを休んだわけだし。

 これ以上、彼が移動出来るはずはない。


 そもそも、これは私が受けた依頼なのだ。

 打ち切りにした前提で、グレンはソティラスの責任で言ってるのかもしれないが。


 アリアにしてみれば、完全に知恵を貸してもらっている立場だし、グレンも自分を信用して依頼をしたという事だろう。

 それはもう喜んで快諾した。


 そして直ぐに旅の準備をし、その日のうちにアリアはルウラの街を出る事にしたのだ。


 フランシスカの期待と、グレンからの信頼。そして、自分に課せられた責任を背負って────

 

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