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車椅子のご令嬢


 ナルシー直々の王国案件が終わり、数日が過ぎた────

 

 しかしながら、強化ゴブリンの件が終わったとはグレンは思っていない。

 確かに、レリックという冒険者がジャックに殺された事件は解決したのかもしれない。


 だがサヴァロンが生きている限り、今もまだ何処かで強化ゴブリンが育てられている可能性はあった。

 そこは王国騎士団がこれからも調査を続けていくようだが、今のところ先は見えないようだ。

 

 強化ゴブリンの真実は国家機密扱いで誰も知らないが、グレンがルウラのゴブリン騒動以降、ギルドに暫く居なかった事は一部の冒険者の間で噂になっていた。


 ルウラをゴブリンに襲撃された時、グレンは地味に活躍しているし。騎士団長と親密に話してる所も見られているわけだ。

 そういった意味で〝グレンへの注目〟というのは少しづつ上がっていたのだ。


 それはグレンにとって良い事ではない。

 基本的に目立つのは嫌いだし、仕事にも支障が出る可能性があった。

 しかも最近では〝実は結構強いのでは?〟という噂が回っていたりするのだ。


 実際は〝結構どころではない〟のだが。それを肯定は出来ないし、自分から否定するのも少しわざとらしい。


 そんな〝何となく〟渦中の男──グレンは、今日もギルドの掲示板の前にいた。

 グレンに話し掛けてくる冒険者は日に日に多くなり、大体が挨拶程度ではあるのだが、なかにはパーティー勧誘まである。



 ただ、ここ数日。冒険者達の話の〝ネタ〟は、とある女性が対象となりつつあった。


 綺麗な亜麻色の髪を巻き上げており、服装は〝おそらく〟ドレスなのだろう。

 じっとしてても漂う華やかな雰囲気その他から、何処かの〝ご令嬢〟だろう、とはグレンも思っていた。


 実際に彼女──フランシスカ・ザルトベルクは、そこそこ大きい商店の娘らしい。

 その事を、グレンが知ったのは一時間ほど前だ。


 フランシスカはここ最近、毎日掲示板を見に来ており、その事は多くの冒険者が認知している。

 彼女が見ているのは、自分の出した依頼が売れるか、売れないかであろう事もグレンは先ほど知った。


 しかし、多くの冒険者が彼女を認知している要因は、その華やかな雰囲気ではなく。

 ゴチャゴチャした店内を、執事らしきモーニングコートを着た男性に押されながら〝車椅子〟で移動している事によるものだろう。

 

 彼女の服装を〝おそらくドレス〟とグレンが思ったのも、車椅子の彼女が膝掛けを纏っており、服装の全容が見えなかったからに他ならない。


 従業員の間でも話題にあがっており。

 グレンが彼女の事を詳しく知ったのも、フィルネとその話をしたからだ。

 彼女──フランシスカが出した依頼は〝フェアリーレイズの入手〟である。


 その依頼についてはフィルネに聞かずとも、グレンは認知していた。

 そして、絶賛打ち切り候補中でもあったのだ。


 フェアリーレイズとは〝あらゆるもの〟を治す神秘の秘薬として〝おとぎ話〟に出てくる薬だ。

 あらゆるものとは言葉通り。全ての〝者〟であり、全ての〝物〟である。


 病、壊れた物、失った者。生物、無生物問わず。

 おとぎ話の中では、死んだ者まで甦っていたわけだが……そんな薬が実際にあるなら、もっと話題になっていそうなものだ。


 少なくともグレンは〝それ〟を本気で求める者を初めて見た。

 〝神秘〟と言うからには容易く手に入るものじゃない事くらい想像に容易いが、そもそも殆どの大人が実在しないと思っているし、ほぼ間違いなく実在しない。


 一時間ほど前のグレンは、その話をフィルネとしていたのだ。



「────その薬で彼女は、自分の足を治したいのかしらね? ってかどこで手に入るの?」

「い、いや。フェアリーレイズはおとぎ話だし。実在する物ではないよ……」


 少しでも手に入る物だと思っていたフィルネに、グレンは心底驚いた。

 ──だから依頼を普通に受けたのか、とグレンは頭をかかえたが、当然依頼主も真に受けているのだろう。

 

 そもそも、この世界の最大神秘である魔法でも意外と不便な所はあって例えるなら、壊れた〝物〟は直せない。

 直せてしまったら技術者の職が無くなってしまうので、それはそれで良かった事なのだろうが。


 ソティラスとして様々な難しい依頼をこなしてきたグレンにも、今回ばかりはどうにもならない。

 無い物は〝無い〟のだから。


「そうなの? でもさ。もし足を治したいならリバイフラワーでもいいわよね?」

「よく知ってるね。確かに、リバイフラワーの方が可能性はあるかも……」


 と、フィルネに答えたのは一時間前である。


 だが、リバイフラワーは過去にグレンも何度か打ち切り依頼で回収しているだけあり。

 フェアリーレイズなんかより、よほど知名度が高い。


 しかし、それを選ばないという事は何か理由があるのだろうとも考えられる。

 例えば、そう。そもそも病ではない、とか。



「こんにちは、グレンくん」と、声をかけてきたアリアも、もちろん彼女の存在は知っていた。


「また、あの人来てるね」

「はい。でもフィルネの話では、あそこにあるフェアリーレイズの依頼主みたいなんですよ……」


 どうしたもんか、といった感じで話すグレンに向かってアリアはひょうひょうと答えた。


「フェアリーレイズ? いいじゃん、どうせ打ち切るつもりなら探しに行こうよ! 私、その依頼受ける」


 と、急にテンションが上がるアリアを見て、ここにもメルヘンな人がいたか……とグレンは驚く。


 だが、さすがに知ってて〝無駄骨〟を折らせるわけにはいかない、と。グレンは、フィルネと話した事の全てをアリアに説明した。


 しかし、彼女は話を聞いている途中から「うん。私、受けるよ。あの依頼」などと言い出し、掲示板から依頼書をひっぺがしたのだ────


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