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ゴブリンランク


 ◇◇◇◇◇


 グレンは、金色の槍をネジイの背中に刺し喜悦の表情を浮かべるレリックに「何してるんですか?」と、無意識に質問していた。


 するとレリックは、ネジイの背中から槍を抜き取り。不気味な笑顔をグレンに向け、答えるのだ。


「見てわかんない? 邪魔者を始末したんだよ。コイツさえやっちゃえば、後は俺の敵じゃないし。キミはただの従業員。アリアちゃんは非力な女の子だしさ」

「何の為にこんな事……」

「餌の為だよ? 俺のペットの為の餌だよぉ。君たちも餌になるんだ、これからね」


 完全に狂気をはらした表情で答えるレリック。その言葉の意味をグレンは理解出来なかった。

 しかし、いち速く何かを察したアリアがグレンの服の裾を掴みながら、自分なりの答えを口にした。


「ペットって……まさか。このゴブリン、レリックさんが?」


 レリックはニタリと口角を上げる。

 それで、ペットが何かは理解出来たが。その過程と目的がグレンにはわからない。


 全ての真実はあの建物にあるのか? そして、この事件にやはりサヴァロンは関係してるのか……否か。

 知りたい事は山ほどあった。

 それらを聞き出しながら時間稼ぎをし、隙を見てレリックを拘束しようとグレンは考え至る。


 最も、質問に答えてくれるだけの寛容さがレリックにあればの話である。


「ご、ゴブリンは魔物。れ、レリックさんなんかが従えるなんて出来っこありません」


 グレンの反論は少し意外だったのか、レリックの表情が少し素に戻ると。

 苛立ったように槍の束の部分を倒れるネジイの体にドスンっと突き立てた。

 ネジイは「グハッ」と声をあげ、僅かに体を跳ねさせる。


「何もわかってないくせに。いいかい? これはサヴァロン様が見つけ出した神秘なのさ。ゴブリンの使い道って奴の序章にすぎない」


 どうやらレリックは〝悦に入っている〟とグレンは読んだ。

 まるで何かの宗教に魅せられた狂信者のように〝お喋り〟だからだ。


「ゴブリンに冒険者のプレートを付けさせたのは、レリックさんなんですか?」

「ああ、ちなみにレリックって呼び方やめて。俺はジャックってんだ」

「ど、どういう事ですか?」

「名前が違うんだよ。まあいい、とりあえずキミ達はそこのゴブリンの階級プレート……何故二つあるかの意味に気付いた?」


 その質問にグレンとアリアは、死したゴブリンの首元を再度見る。

 数に意味が? 常人には検討もつかない。


「それはねえ。ゴブリンのランクを表してるのさぁ。冒険者をどれだけ殺したかのね」

「二つは、二人って事ですか?」


「チッチッチッ」と、ジャックと改めた男は人差し指を振り、グレンの答えを否定する。


「うーん、惜しいけどそんな単純じゃないよ。ゴブリンは人を食って進化する。人の生き血を飲んで強くなる、そして。強い者を食らうほど、それは顕著に出るのさぁ。プレート二つなら、最低でもAランク以上が二人って所か。それ以下は含めなぁい」


 単純に理解出来る内容ではなかった。

 それでも聞いてるだけでグレンは吐き気を感じるほどに不快になった。

 アリアも明らかな嫌悪感を顔に出している。


 しかし、自分に酔うようにジャックは懇切丁寧に解説を進める。

 ゴブリンをペットとして〝育てる〟という、鬼畜染みた所業の一部始終を。


 始まりは、ジャックが一人の冒険者を縦穴に落とし、同じ穴にゴブリンを放った所から……

 彼にとってはちょっとしたストレス発散だった。

 小さな子供が、遊びで捕まえた虫を蜘蛛の巣に投げ込むような、そんな感覚だったという。


 直ぐに同じ穴に、別の冒険者を騙し落とす。

 そんな事を繰り返していた。

 そしてある日、そんな彼の異常な行為はサヴァロンに見つかるのだ。


 サヴァロンはジャックのしている〝遊戯〟に興味を持ったのだという。

 そして、一つの疑問を口にした「このゴブリンは餓死しないのか? 放っておくと冒険者を食うのか?」と。


 それから二人は、穴に落ちたゴブリンを観察し始めたそうだ。生体実験さながらに。


「狂ってる……」


 グレンの裾を掴んだままアリアが呟く。その手は小さく震えていた。

 だが、ジャックの話は終わらない。

 

「でもねぇ。ゴブリンは人を食ったりしないんだ。だから、俺とサヴァロン様は待ち続けたんだ。楽しいのはこれからさぁ」


 二人は餓死寸前までゴブリンを追い込み、そのゴブリンに新しい新鮮な人の肉を与えてみた。

 すると驚くべき事に、そのゴブリンは餌(人肉)を食らい、更に欲しそうに懐き出したというのだ。


 そしてサヴァロンは別の変化にも気付いた。

 人の肉を食べると、そのゴブリンは極端に筋力が上がる事を。

 しかも、その上がり具合は強き者の肉ほど、より高まるという事まで解明した。

 

「こうして俺達は仲間を手に入れちゃった。最強の仲間をね。もちろん新鮮じゃないと食べないから、食費はかかるけどぉ。奴らはグルメだからさぁ。ハッハハハハ」


 ジャックは、もはや常軌を逸していた。

 彼らのくだらない実験の為に、一体何人の冒険者が犠牲になったのか……そう考えると、とても許せる事ではない。


「絶対許せない!」


 怒りを露にするアリアの隣で、グレンも覚悟を決めた。

 ──もはや奴は人以外の存在、情けをかける必要もない。と、グレンが腰の剣に手を掛けた直後。


 アリアの直ぐ後ろの地面から、勢いよく何かが飛び出した。

 見ればそれは両手に短剣を持ち、首に三つもの冒険者階級プレートを下げた強化ゴブリンだったのだ。


 ──しまった! と、瞬時にアリアを庇ったグレンの背中に、二本の短剣が深く刺し込まれてくる感覚が伝わってきた。

 次第に意識が薄れていき、すぐに耳をつき抜けるようなアリアの絶叫が聞こえた。

    

 それを最後にグレンの意識は、何も見えない真っ白な世界へと溶け落ちていった────

 

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