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騎士団長の判断


 ◇◇◇◇◇


 ────ゴブリン調査、出発の日。


 

「団長。今回の調査、やはり本命はシラン湖ですか?」

「もちろんそうだね。けど、万が一もある。リーヤマウンテンの方も決して油断しないように。最悪、アリア・エルナードさえ守れば命は失わない。後は彼が何とかしてくれると思うよ」


 ナルシーにとってリーヤマウンテンは今回の調査において一種の〝保険〟である。

 ベーチャの話によると、サヴァロンは度々『私は強力な軍隊を作っている最中だ』と口にしていたらしい。


 それを強化ゴブリンと結び付けるには些か安直だが、少なくともサヴァロンが過去に依頼を出していた場所を調べさせた結果。

 もっとも多いのが、シラン湖周辺とリーヤマウンテンの二ヶ所だった。


 そして、その場所は強化ゴブリンが報告されている三ヶ所のうち、二ヶ所である。

 偶然かもしれない。しかし、これは無視も出来ない共通点だとナルシーは考えたのだ。


 更には、サヴァロンが『シラン湖に用事がある』という事も頻繁に言っていたらしく、そこに何か手掛かりがある可能性は大きいのだ。


 だが、先日ルウラに現れた強化ゴブリンはリーヤマウンテンから来たと想定出来る。

 つまり、そちらも無視は出来ない。場合によっては両方に何かがある可能性もあるので、その為の〝保険〟なのだ。


「しかし団長。あの男、本当に役立つのですか? ただの冒険者ギルドの従業員だとか……」

「まあ。そこは心配するな。それに他にも手練れの冒険者はいるのだしな」


 ナルシーは、余程の事がない限りあの男──グレン・ターナーが敵に遅れを取るとは思っていない。

 それほど評価しているのだ。

 

 ナルシーは、自分が得意とする〝ゼロモーション〟からの突き技を初見で避ける事が出来た人間を、過去三人しか知らない。

 しかも弾かれたのは初めてだ。あれは偶然等ではないとナルシーは確信していた。


「ど、どうも団長さん。今日はよろしくお願いいたします」

「こんにちは。私なんかを指名していただき恐縮です」


 集合時間通りにグレンとアリアが来た。

 その後直ぐに依頼を受けた冒険者のうち二人、ブルックとネジイと名乗る者が合流。

 ナルシーはグレンに今回の行動予定について教えておく事にした。


「グレンくん、悪いが今回僕はキミ達には同行しない。僕達はシラン湖に向かわなければならない」

「そ、そうなんですね。てっきり団長さんに同行かと思ってました」

「うむ。その理由は今から話す……」


 ナルシーは、ベーチャから聞いた話をグレン達に教え、そこから最も重要な調査場所を割り出した事を説明した。


 シラン湖の危険度を考えての結果でもあるが、シラン湖自体が少し距離があり、馬で移動しなければならない事も考えて今回の段取りとなったのだが。

 最悪、本命がシラン湖じゃなくリーヤマウンテンだったとしても、おそらくグレン達なら問題ないだろうとナルシーは思う。


 ただ、一人だけ少し非常識な男がいた事に。ナルシーはグレンとアリアに申し訳なさを感じていた。

 

「いやぁ。遅れて申し訳ないっすぅ。ちょっと装備整えてたら遅れてしまいましたぁ」


 その非常識な男──レリックが現れ、ナルシーの表情は少しムッとした。

 王国案件、まして騎士団の同行を知ってて遅刻するとは随分といい加減な奴だ。というのがナルシーの思うところだ。


 しかし、作戦前だ。誰の気分を害しても指揮に影響する為それを敢えて口にはしなかった。



 やがて出発の時刻となり、グレン達の部隊は先にリーヤマウンテンに向かって出発した。

 少し遅れて「では、僕達も出よう」と、ナルシーは自分の部下、六名を率いて移動を開始した。


 それから僅か数分。

 城からルウラの門へ向かうまでの間に、やたら兵士が多く見られる事にナルシーは少し疑問を感じた。


「街が騒がしいが、何かあったのか?」

「はい、何でも路地裏で冒険者の遺体が見つかったようで。内輪揉めか何かでしょうが、犯人もわからないらしく兵達はバタバタしてるんですよ」


 こういう事件は稀に起こる。

 騎士団は基本、ルウラの中で起きた事件に関与しないが。一般の兵士達は時折、こういった揉め事に難儀しているのだ。


 やはり王国案件によって、兵の負担を減らす事は必然だったのだとナルシーは感じていた────




 それから王都を出たナルシー率いる、第一騎士団の精鋭達は二日間をかけ馬を走らせ、やがてシラン湖へと到着した。


 シラン湖周辺を探索している途中、シラン湖東側付近にある洞窟の辺りで強化ゴブリンらしきもの一体と戦闘になった。

 が、それはナルシーの一撃で苦もなく片付く。


「団長。見てください! 首に階級プレートが……」

「やはりそうか。よし、洞窟を探索してみようか。松明を用意してくれ」


 洞窟の中に漂う臭気は酷いものだ。

 広さは大人が三人並んで歩ける程はあるが、距離はあまりない。

 暗闇の中を松明の明かりだけを頼りに、数十メートル進んだ所で行き止まっていたのだ。


 しかし、そこで松明の仄かな明かりが写し出した光景にナルシーは絶句した。

 そこには三つの死体があった。ゴブリンではない。


 一体は死後かなり経っているようで、かなり腐敗している。他の二体は全身を切り刻まれ、肉体を部分的に欠損させていた。

 どれも人間の無惨な遺体である。


 やはりこちらが本命か……と〝この時の〟ナルシーは、自分の判断が正しかった事を確信していた。


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