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その何か……


 そこにいたゴブリン達は一見普通のゴブリンだが、Aランク冒険者ブルックを一瞬で葬る力は、もはや普通ではないのだ。


 ナルシーの言うところの強化ゴブリンなのは確実だろう。しかも次の行動への対応も早い。

 少し傾斜した山道を全力で駆け上がってくるレリックとネジイを見るなり、ゴブリン達は殺したブルックから一斉に剣を抜いた。


 次の瞬間、ゴブリンは死人となったブルックを斜面へと蹴り落とした。

 倒れ込んだブルックの大きな体は、今まさにゴブリンに迫る寸前だったレリックを巻き込んでグレンのいる所まで転がり落ちてくる。

 

「おいおい、こいつ死んでも邪魔すんのかよ」


 もはや言い返す事もない〝屍〟に向けて暴言を吐くレリックの態度には、さすがのグレンも不快感を覚えた。


 しかし、既にアリアは支援魔法の詠唱に入っているので、自分も直ぐに攻撃に参加しなければ! と、気持ちを切り替えて腰に装備したショートソードを抜く。


 そして、ネジイの元へ走り出そうとした矢先。

 レリックが「待てっ!」と、グレンの肩をギュッと掴んだ。


「糞ゴブリンちゃんは俺がやるから、一般人のキミはアリアちゃんをシッカリ守っておいてね。どうせ、ろくに戦えないんだしさぁ」

「そ、そんな事言ってる場合じゃ……」


 グレンの言葉を無視して、レリックは掴んだグレンの肩を勢いよく引っ張った。

 その反動でグレンはよろめき、逆に勢いを付けたレリックは斜面を一気に駆け上がる。


 そのレリックの体が仄かな青い光に包まれ、同じくグレンの体にも同じような光が現れた。


「グレンくん、早く行って!」


 アリアの言葉にグレンは頷き、レリックを追いかけるようにゴブリン目掛けて駆け出す。


 グレンの体に妙に力が沸いてきた。

 不思議と軽く坂道を登れる事と体に纏うこの光が、アリアが使った身体能力を高める魔法〝パーフェクトインクリーズ〟による効果である事を証明している。


 しかし、その効果を存分に発揮する時は訪れなかった。

 何故ならレリックもグレンも、頂上に辿り着いた時には既に戦闘が終わっていたのだ。


 三体のゴブリンのうち二体が地面に転がっており、残り一体の首はグレンの頭上を飛んだ。

 顔色一つ変えずにその男──ネジイは、珍しい剣〝カタナ〟で強化ゴブリンを一人で全て始末していたのだ。


「うそだろ? あんた……正気かよ」


 これにはレリックも驚いたようだ。いつものふざけた態度はどこへやら、といった感じである。

 グレンは最初から、ネジイがただ者ではない可能性を薄々感じていたので特に驚かなかった。

 もっとも予想以上ではあったのだが……


 ただ、ネジイが己の剣についた緑色の体液を丁寧に拭き取りながら「このゴブリン、凄く強かった……」と、ボソリと溢した時には。

 思わずグレンも、どの口が言うんですか? とツッコミそうになった。


 とにかく。もうゴブリンはいないようだが、少し離れた所に騎士団が倒れていた。

 全員が血塗れで目を覆いたくなる状態だったが、ネジイが呟く。


「まだ息がある」


 三人のうち一人が奇跡的に生きていた。

 もはや虫の息であり時間の問題だが、アリアは諦めない。


「光の精霊よ、慈悲の光を我が魂に宿し、この者に立ち上がる力を────レジス・ルーザ・ヒーリング」


 ルウラの街で見たような派手さはないが、その騎士の周りを目映い無数の光が包み込んだ。

 その者単体に向けられ、凝縮された高位の回復魔法は息絶える寸前の騎士に奇跡を起こしたようだ。


 その光が静かに消失すると騎士は苦しそうに、荒く呼吸を繰り返した。当然、直ぐに動かせる状態ではないが、一命は取り留めたようだ。


「まじか。アリアちゃん、すっげーなぁ! こんな状態から治せるのかよ。こいつはすげーよ……本当にすげぇぜ」

「私に出来るのは、これくらいだから……」


 他の騎士は完全に息絶えている。

 だが、一人でも助けられたのはアリアのお陰だ。もし最初から全員が一緒にいれたなら、結果はもっと良い方向に変わっていたかもしれないのだが。

 

「なあ。あそこに建物があるぜ?」


 レリックが指指した方向には確かに古びた建造物があった。グレンもまだ終わっていないと感じている。

 そこに〝何か〟がある。

 先ほどのゴブリンの襲撃では〝まだ〟終わっていないのだ。


「ねえ。グレンくん、これ見て?」


 アリアが見たのは倒れたゴブリンの首もとだ。やはり階級プレートがついていた。

 ただ、アリアが言うのはそれではなく、三体のうちの一体の首には階級プレートが二つ付いていた。


 一つではなく、二つ。

 その状況は益々グレンを混乱させ、アリアと二人で、どういう事か? と考えていると、レリックが大きな声で二人に呼び掛ける。


「おーい、とりあえず俺達はあの建物見てくるぜ」

「うむ、行ってくる」

「ちょ、ちょっと二人とも。警戒心なさすぎですよ」


 最後のグレンの言葉を無視するように建物の方へと歩いて行く二人の背中を見て、突然グレンは感じた。

 ルウラの時と同じような強い〝厄〟の風を。


 ──何かが起きる! そう思い、グレンは咄嗟に周囲の倒れているゴブリン達を見た。

 だが、間違いなく〝絶命〟している。


 となると建物だと思い、今一度建物の方に視線を向ける。

 すると、建物に入ろうと先頭を歩いていたネジイが突然バタンっと前のめりに倒れた。


 その時になって、ようやくグレンは最初から感じていた〝何か〟の正体に気付いたのだ。

 倒れたネジイの背中に深々と刺さる、金色の悪趣味な槍を見た時に──────


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