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リーヤマウンテン


 ◇◇◇◇◇


「これは何だ……?」

「足跡だねぇ。ゴブリンのじゃない?」

「バカが、まだわかんねぇのか! これはゴブリンなんかじゃねぇ。サルかなんかだ」


 似たような会話を既に三回はしている……と呆れながら、グレンは三人の冒険者を見ていた。

 途中で分断された騎士達と早く合流しなければならないのに、と気ばかりが焦る。


 ──この山には何かがいる。そうグレンは確信していた。

 ナルシーがいれば心強いのだが、今回の調査にナルシーは参加していない。

 彼は自分の直属部隊を率いて、シラン湖の強化ゴブリンを調査に行っているからだ。


 今回グレン達が同行した騎士団は、第三騎士団と第四騎士団から選ばれた三人である。

 ナルシーが率いる第一騎士団に比べれば、若干劣るのだが。それでも冒険者で例えるならランクA程の実力はあるのだ。


 だが、グレンは安心出来ない〝何か〟を感じていた。

 それは騎士達の力量なのか、自分とアリア以外の他の冒険者の力量なのかはわからない。


 だが。とにかくこの場所は全員が纏まって行動すべきだと、そんな風に思わせるものがあった。


 この山、リーヤマウンテンの構造上。頂上に近付けば必然的に合流する確率は上がるはずなのだが。

 既に頂上を近くにして、何故か騎士団の話声一つ聞こえてこない。


 しかも、この山の風は濁りを帯びている────


「グレンくん。探知魔法はどう?」

「ダメですね。頂上に近くなるほど探知出来ないんです」


 天気は晴れており、霧も無い。

 しかし探知魔法は機能しないという謎の状況なのだ。しかも上に登る程に気温は下がる。

 薄着のアリアがあまりに寒そうだった為、グレンは荷物の中から上着を出してアリアに被せた。


「どっから出てきたの?」

「一応持って来ておいたんです」

「だからそんなに荷物が多かったのね。でも、ありがとね……温かいよ」


 アリアから真っ直ぐ向けられる笑顔に照れ臭くなり、グレンは目を逸らしてコクりと頷く。

 

「アリアちゃん! 大丈夫? 寒くない?」

「ああ、はい。大丈夫ですよ」


 冒険者の一人、レリックが無駄にアリアに寄り添う。

 金髪にパーマという派手な男で、グレンとは対照的な明るい性格で。金色に輝く悪趣味な長い槍を持つ。


 本人も武器もチャラいが、今回参加した冒険者の中で唯一のSランク冒険者でもあった。


「お前、本当にいちいちウゼェな。アリアちゃんに近付くんじゃねぇよ。とっととゴブリンの手掛かり探せ!」


 直ぐにイラつく筋肉質な男──ブルックは、黒髪のツンツン頭に髭面で強面だが、意外にも魔法使いだった。

 武器はいかにも魔法使いらしい杖で、冒険者ランクはAランク。

 冷静さに欠ける所がグレンは少し気になっていた。


 そんな二人のやり取りを見ていた背の高い坊主頭の男が「ブルックの言う通りだ……」と一言だけ発する。


 基本あまり話さない坊主頭のネジイは、よくわからないが多分おとなしい性格のようだ。

 背中に〝カタナ〟と呼ばれる少し短めで反りのある変わった剣を担いでいる。


 ただ、この男。かなり〝出来る〟男だとグレンは見ていた。

 冒険者ランクはAだが正直、彼から感じる〝闘気〟はナルシーに迫る勢いなのだ。

 

 ルウラを出て三日以上。リーヤマウンテンを登り始めてからは、既に二日目の朝になっている。

 登山一日目の途中。先行していた騎士団が狭い吊り橋を渡った時、元々ボロボロだった為か、突然吊り縄が切れて崖下へと崩落した。


 慎重に一人ずつ渡っていた為、最後に渡った騎士も次に渡り始めていたレリックも含めて、誰一人落ちずに済んだのだが。

 結果的に騎士団員とグレン達は見事に分断されてしまったのだ。


 とりあえず山は最終的に頂上まで繋がっている為、グレン達は別ルートから頂上を目指す事にしたのだ。

 そこからはもう、グダグダだった。


 レリックはピクニック感覚だし、ブルックは脳筋。ネジイは何考えてるかわからないので、本当にまとまりのないパーティーといった感じで。

 ずっとあーだこーだ言い争いながら山を登っており、確実に移動のペースは遅い。


 正直、橋を渡れた騎士団達は今頃、頂上で何かを見付けてグレン達の到着を待ってる可能性が高い。

 それか〝何か〟を相手に戦闘になっているかである。


 頂上に向かう程、グレンが感じる嫌な気配が強くなるのだ。探知魔法は効かなくとも最悪、グレンは風から危機を知る事が出来る。

 頂上付近に〝何か〟があるのは間違いない。


 アリアだけは守る気でいるグレンだが、場合によっては最終手段として他の人間に転移を見られる覚悟もしなければならないだろう。

 

「おい、やっとだぜ! 騎士団が待ってるぞ」


 叫んだのはブルックだった。

 確かに少し遠くの方に人影が写り、騎士団だろうとも思えるがハッキリはしない。


 しかしブルックは勝手に走り出した。

 結構ハードな山登りで全員が疲労している中、それをものともしない体力で走って行く。

 その彼が突然立ち止まった。


 その瞬間グレンは感じたのだ。

 濁った風に乗る僅かな〝危機〟を。


 ブルックは崩れるように両膝を付き、彼の背中から一斉に三本の剣が生えた。

 それはまるで歪な羽である。


「なんて事だ……」

「うっそ。そんなことあるぅ?」

 

 直ぐにレリックとネジイが走り出し、グレンとアリアも遅れて追従した。

 見えたのはゴブリン三体、そして〝血塗れの羽〟を生やしたブルック。


 腹部及び胸部から背中側へと、三体のゴブリンの持つ剣により貫かれている。

 誰の目から見ても即死だった────

 

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