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【冒険者ギルドのお仕事】 ~冒険者からの売れ残りを片付けているのは〝役立たず〟〝ゴミ箱〟と嘲笑われる最強の従業員だった~  作者: 水城ゆき
第一章

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合同調査依頼

異常個体が白昼の王都を血で染めたあの日から、二日が経過した。

 シャトルファングの幹部ベーチャへの尋問は直ちに騎士団が執行する事になり、結果は後日通達するとナルシーは言い残して去ったが、王城からは不気味なほどの沈黙が続いている。

 一方で、ギルドの掲示板は狂乱の様相を呈していた。あのような惨劇を見せつけられれば当然の心理だが、新規依頼の八割が『護衛』で埋め尽くされている。魔物など数百年出た記録もないような街外れの小川へ洗濯に行くだけで、武装した冒険者を雇い求めるほどに、市民は猜疑心と恐怖に蝕まれていた。


 もっとも、移動距離が短く安全な小遣い稼ぎであるため、依頼は飛ぶように売れていく。その異常な回転率のせいでルウラ支店は戦場と化し、グレンはフィルネの背後で、受理された依頼書をひたすら棚へ仕分けるという「少し便利な道具」のように酷使されていた。

 狂乱のピークが過ぎ、店内に微かな平穏が戻り始めた頃。


「やあ、少しよろしいかな」


 カウンターに、まるで散歩の途中で立ち寄ったかのような軽薄さで、王国騎士団長ナルシー・ロミリアンスが姿を現した。フィルネに対し「王国案件を依頼したい」と優雅に告げる。

 

 (……絶対に、依頼は建前だろ)

 と、休憩に入ろうとしていたグレンの生存本能が警鐘を鳴らす。だが、事務用のペンを構えたフィルネは「はい、どのような内容でしょうか?」と完璧な営業スマイルを向けた。

 依頼の内容は『騎士団と合同で行う、リーヤマウンテンにおける強化ゴブリンの生態調査』。

 しかし、その募集要項を聞いてグレンは耳を疑った。


「条件は、Aランク以上の冒険者〝四名〟だ。そして、その中の一人は、アリア・エルナードを指名する」


 王国主導の騎士団任務に、部外者の冒険者を四人も組み込むなど前代未聞の話だが。


「彼女以外の残り三名もAランク以上で。報酬は、一人につき大金貨一枚。ただし、最低でも一週間は帰還できない過酷な行程が前提となる事は伝えておく」


 フィルネは僅かに眉をひそめながらも、「なるほど」と羊皮紙にペンを走らせる。

 その途中で、ナルシーは思い出したように、極めて自然な口調で猛毒を滑り込ませた。


「ああ、そうだ。ギルドからの同行枠として、グレン・ターナーの同行も頼む」


 ────え? と、グレンは心臓を鷲掴みにされたような衝撃で立ち上がる。

 だが、それより早く動いたのがフィルネで、眉間に皺を寄せると、コトンと音を立ててペンを置いた。


「別に、王国の兵士様がアリア様を指名なさいましても、あるいはナンパなさいましても当ギルドは関知いたしません。ですが……彼──グレン・ターナーは当ギルドの正規従業員です。戦闘訓練も受けていない者を、一週間も死地へ連れ回されては困ります」


 突如として始まった、上級客への謎の反論。ナルシーは背後に佇むグレンを一瞥し、「いや、彼の『力』は我々にも必要なのだよ……」と冷ややかに言葉を返すが、フィルネは一歩も引かない。


「失礼ですが、非戦闘員の従業員を危険に晒すような王国案件があるという事実に驚いております。貴方、本当に騎士団の方ですか?」


 その礼儀知らずな発言に、グレンは文字通り呆気にとられたが。彼女は目の前の男が何者か、全く分かっていないようだった。

 (このままでは不敬罪で首が飛ぶ……!)

 焦ったグレンは、フィルネの耳元へ顔を寄せ、必死の囁き声を絞り出した。


「フ、フィルネ。この人、騎士団の人だよ……」

「はぁ? だから何よ。騎士団だからって何でもかんでも……」

「ただの騎士じゃない! 騎士団長、ナルシー・ロミリアンス様だよ!」

「ふぇっ?」


 フィルネの喉から、蛙が潰れたような変な声が漏れた。瞬く間に彼女の顔面から血の気が引き、自分が西方大陸最強の権力者に喧嘩を売っていたという絶望的な事実を理解する。

 だが、当のナルシーは意に介する様子もなく、「まあ、僕にもそれなりに深い理由があるのだよ」と底知れぬ笑みを浮かべた。

 フィルネの背筋が鋼のバネのようにピンと伸びる。

 先程までの強気な番犬の姿など跡形もなく消え去り、ゴホンと咳払いを一つすると、これ以上ないほどに媚びへつらうような営業スマイルを全開にした。


「なるほどぉ! 左様でございましたか、大変失礼いたしました! 彼の同行ですね、はい、喜んで承りました!」


 本人の承諾など微塵も確認せず、見事な掌返しでグレンを死地へ売り飛ばす。半ば呆れて深いタメ息を吐くグレンをよそに、フィルネはナルシーへ向けてさらに謎の防衛的トークを展開し始めた。


「それでは、担当である『私』も同行いたしましょうか?」

「……同行? キミは、何か戦えるのか?」

「いいえ! 全く戦えません!」


 あまりにもハキハキとした即答に、百戦錬磨のナルシーでさえ一瞬面食らった表情を見せる。ハハハハと、乾いた笑いを浮かべるフィルネを見て、ナルシーは興味深そうにさらなる質問を重ねる。


「では……キミは何が出来るんだい?」

「えーと、何も出来ません! 足手まといになる自信しかありません! じゃあ、私なんて現地には必要ありませんよねぇ?」

「……まあ、必要ではないな」

「ですよね! そうですよね! 賢明なご判断に感謝いたします。では、これにて依頼書を作成してよろしいですね!」

「あ、ああ……それで頼む」


 ペースを完全に乱されたのか、若干戸惑う王都最強の騎士を前に、『コミュ力とはこういうことか』と、グレンはフィルネの謎に図太いメンタルに感心せざるを得なかった。

 その後、ナルシーは「冒険者が集まったら連絡をくれ」と言い残し、詳しい事情も語らずにギルドを去っていく。

 それと入れ替わるようにやってきたアリアにフィルネが依頼書を見せると、彼女は二つ返事で快諾。そのまま、この異常な「王国案件」は直ちに掲示板の特等席へ貼り出される事となった。

 

 騎士団との合同任務という希少な経験、そして大金貨一枚という破格の報酬。欲望に忠実な冒険者たちが群がらないはずがなく、たった半日も経たずに定員は満了。

 ナルシーへもその報告が行き、逃げ道を完全に塞がれたグレンは、翌日の昼、リーヤマウンテンへの死の遠征へと引きずり出されることが確定したのだった────


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