表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/96

ゴブリンとパパ


 女の子は魔法に守られているが、それは早口で唱えた未熟な光のバリアだ。

 ゴブリンの斧の一撃で、ビキンッと音を立てて光の空間にひびが入る。


 その攻撃力にアリアは再び恐怖に落とされそうになったが、もはや突進するしかない。


 女の子を守るバリアが壊される寸前、アリアの短剣はゴブリンの目元を切り裂いた。

 グオォォォっと、痛そうに仰け反りはしたが直ぐにアリア目掛けて斧を振り回す。


 アリアは魔法使いというスタンスだが、近接戦闘が出来ないわけではない。

 ゴブリンの一撃を華奢な短剣で受けきる。 


 長さも重さもある剣を振り回すのは苦手だが、軽い短剣なら防御に使う事は出来ると思っていた。

 前のゴブリンと戦った時から、アリアは不足の事態に備えて短剣を所持するようにしていたのだ。


 ただ、それでもアリアには厳しい。

 短剣で受け止めた所で、動きの速いゴブリンの斧は再び別の角度からアリアを襲う。


 それでも短剣で何度も受けていたが、受ける度にその斧の重量でアリアの手はビリビリと痺れる。

 短剣を握る彼女の握力はどんどん落ち、やがて限界に達した彼女の手から短剣が滑り落ちた。


 ──もうダメだ! と思ったが。無防備なアリアに対して次の一撃が振り下ろされる事はなかった。


 突然、斧を持ったゴブリンの右腕は宙を舞い、直後にゴブリンの胸部が横一文字に切り裂かれた。

 ゴブリンは容易く吹き飛び、地面にドシャッと叩き付けられ動かなくなった。


 一瞬でゴブリンに二連撃を入れたのは金髪の騎士、王国騎士団長ナルシー・ロミリアンスの剣だった。

 アリアは元々、時間さえ稼げればそのうち騎士団が来てくれるとは思っていた。


 しかしまさかこんなに早く、しかもナルシーが来るとまでは予想していなかったのだが。


「おお、よく動けてる者がいると思ったら。アリアくんじゃないか。よく耐えたね」

「あ、ありがとうございます」


 ナルシーに助けられ、ホッとしたアリアは全身の力が抜けた。途端に膝から崩れ落ちる。

 それより、女の子は?


 アリアが見るとその女の子は倒れた女性の体を揺らしながら「ママ、ママ」と泣いている。

 つまり、その女性は女の子の母親だったのだ。


 子供の為なら命だって投げ出す親の覚悟。

 実の親を知らないアリアには、その女の子の事が少し羨ましく感じられた。


 よく見れば振り下ろされた斧は女性の肩の辺りで、急所は僅かに外れていた。出血は酷いがまだ間に合う。

 少し冷静になったアリアは周りを見た。

 ゴブリンに襲われた被害者の中に、まだ息がある者も少なからずいる。


 希望を胸にアリアは瞳を閉じ、胸の前で両手を握る。そして精一杯の魔力を込めて魔法詠唱を開始した。


「光の精霊よ、慈悲の光を我が魂に宿し、愛する者達へ立ち上がる力を────レジス・モドオル・ヒーリング」


 詠唱を終えたアリアが両手を天高く広げる。

 すると、大量の光がアリアを中心に噴水のように空に向かって溢れ出し。周囲、半径百メートル以上の範囲に渡り光の雨が降り注いだ。


 既に絶命している者は当然治せない。

 だが、周囲で怪我していた者達は少しづつ回復していき、女の子の母親の出血も目に見えて止まっていく。


 一方で、その魔法が魅せる美しさに周囲の者達は息をのんでいた。

 あのナルシーでさえも、大口を開けて降り注ぐ光の粒子に目を奪われている。


 だが、それもそのはず。

 光回復魔法の最上位〝グレイテストヒール〟を、これほど広範囲に展開させている光景は普通見れない。


 ルベリオン王国一の光魔法の使い手、王国聖教会の司祭でも難しいだろう。

 もはや、このレベルは皮肉にもアリアのあだ名でもあり、世界に二人しかいないという〝聖女〟に匹敵すると言っても過言ではないのだ。


 その光のショーが終わると、ナルシーが「さてと……」と息絶えたであろうゴブリンを研究の為に捕獲しようと歩き始める。

 が、その動きは急にピタリと止まった。


 突然、ナルシーとゴブリンの間に何故か先程まで泣いていた女の子が立ちはだかっているのだ。


「ダメだよ! パパを殺さないで」


 小さな両手を一杯に広げてゴブリンを庇う女の子に、アリアもナルシーも驚きを隠せなかった。

 何を言い出すの? とアリアは再度ゴブリンを見た。

 

 先程は気付かなかったが、ゴブリンは小さなトップがついたネックレスをしていた。

 そして、もう1つ。

 冒険者の階級プレートがあるのだ。


 以前アリアが出会ったゴブリンは、グレンが首を落として倒したわけだが。何故かその場に階級プレートが落ちていた事をアリアは思い出した。

 あの時はゴブリンとの関連性なんて考えなかった。


 元々〝再〟の印のある依頼だったので、誰かが逃げる時に落としたのだろう程度に思っていたのだ。

 ギルドに登録している以上、プレートは落としても再発行可能だし別に気にもしていなかった。


 だが実は最初から首にかけていて、グレンがゴブリンの首を落とした時に外れたのだとしたら? 


 などと考えていたら。

 息絶えたと思っていたゴブリンは急に立ち上がり、何も気付かない女の子の後ろで斧を振り上げた。

 アリアの魔法は邪悪を癒さない。つまり、ナルシーの攻撃でもまだ絶命していなかったのだ。


 ナルシーもそれに気付いたが、既にどちらの距離からも間に合わなかった。

 二人が動き出すより早く、斧は振り下ろされる────


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ