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ナルシーの警告


 依頼をやるにしてもさすがに情報が少ない。そう思ったグレンは、思い切ってロザリアの所へ向かい。

 依頼書をカウンターの上に置いて訊ねた。


「あの、ロザリアさん。これ、さっきの女の子の依頼ですか?」

「ああ見てたんだ? 早いわね……さすがにその内容じゃ、即打ち切りかしら?」

「ああ、いえ。一応数日は置きます。だから冒険者の方に聞かれた時の為、事情だけは聞いておこうかと」


 ロザリアは「結構、優しいのね」と軽く笑顔を見せる。

 少し前なら無視されていただろう事を考えると、随分評価が上がったものだとグレンは実感するのだ。


「対象のウルドルさんってさ。依頼主の女の子、ミラちゃんの父親らしいの。で、彼は一ヶ月程前、リーヤマウンテンに行くって言ったきり帰ってこないんだってさ」

「じ、情報はそれだけですか?」

「そうなのよ。やっぱり無理だよね……しかも銅貨一枚だし。いっそ私が報酬足そうかしら」


 ロザリアの思いも同じだったようで、やはりやるしかないとグレンは更なる気合いを入れた。

 すると横で話を聞いていたガイが言う。


「その人、確か〝リーヤマウンテン頂上付近での地盤調査〟って依頼を受けた人だよ」

 

 グレンとロザリアが同時に『え!?』とガイを見ると、彼は少し難しい顔をして答えた。


「でもあの依頼は取り消されたんだ。なんせサヴァロン・デミタスの依頼だったからな……」


 ガイは言う。

 ウルドルからの完了報告も無く、時間が経っていたので〝依頼放棄〟で処理しようと再度書類を確認した所。

 依頼主があのサヴァロン・デミタスだとわかり、強制的に依頼は破棄になったという。


「なんせ今となっては依頼主が賞金首だからな。下手したらその冒険者も……」


 と、そこでガイは言葉を濁した。

 だが、その場にいた全員の脳裏に同じ考えが過ったのは間違いない。

 ウルドルはサヴァロンに誘導され、餌食となった可能性があるのだ。


 しかしグレンには疑問があった。

 遺跡の荷車回収と地盤調査。この二つの依頼は掲示板に出た日も近く、それぞれの依頼が別々の冒険者に同時に受けられる可能性もある。


 そうなった時、サヴァロンに協力していた盗賊がベーチャだけなら。両方とも襲うのは不可能ではないか? とグレンは思った。


 ベーチャ以外の協力者がいるのか?

 そうじゃなければ、リーヤマウンテン側はタイミングが合わず実行されなかった可能性もある。


 牢獄のベーチャに詳しく聞けばわかるかもしれない。

 と考えたが、グレンは騎士団長ナルシーに疑われている可能性もあるので出来れば城には近付きたくないのだ。


 しかし、そんなグレンに神か悪魔が悪戯でもしたかの様な絶妙なタイミングで騎士団長ナルシーがギルドにやって来たのだ。

 

 店内は騒然とし、グレンは自分の運の悪さを呪った。

 王国の騎士団長自らが、冒険者ギルドに来るなんて事は普通あり得ないのだから当然である。


 ナルシーは迷いなくカウンターで溜まるグレン、ロザリア、ガイの三人の従業員に向かって話し掛けてきた。


「聞きたい事があるのだ。ベルクト渓谷、シラン湖周辺、リーヤマウンテン付近にある依頼を教えてくれ」

「はい。ただいま調べますので暫くお待ちください」


 と答えたのはガイだ。

 一方のグレンは、極力気配を消して空気のように黙り込んでいたが。

 ナルシーは何食わぬ顔で「そういえばグレンくんはギルドの従業員だったねぇ」と喋りかける。


 わざとなのか、本気で忘れていたのか知らないが、とりあえず「あ、はい」と答えたものの。グレンはナルシーと目を合わせないように気を付ける。


 暫し重い沈黙があったが。直ぐにガイが一枚の紙を持って戻ってきた。


「騎士団長様。調べた所、現在シラン湖東側とリーヤマウンテンで一件ずつあるようです」

「そうか。ではその二つの依頼は直ぐに中止にしてくれ。他に依頼が来ても、さっき言った場所についての依頼は一切受付けないでくれ」


「何故ですか?」と質問するガイ。

 対してナルシーは、三人全員の顔を見て逆に聞いてきた。


「キミ達は、強化ゴブリンを知ってるか?」


 三人とも〝知らない〟と口にした。

 実際にグレンは強いゴブリンを知っていたが、勘の鋭いナルシーには余計な事を言うべきではないと考えたのだ。

 

「そうか。妙に強いゴブリンの事だが、我々も最近知ってね。我が国の兵士の報告だけでも先程言った三ヶ所で確認されている。だから頼んだ事は絶対に守ってくれ。じゃなければ死人が出るぞ……」


 ナルシーの険しい表情に、三人は静かに頷く。

 しかし、これでリーヤマウンテンの依頼は百パー打ち切り決定だ。


 だが、グレン的に依頼主の女の子──ミラの為に、何としても確認だけはするつもりだった。

 ガイが以前に受付した依頼内容から考えれば、山の〝頂上付近〟と場所はかなり絞れたのだし。


「おい、大変だ! ゴブリンが街の中で暴れてるぞ!」


 突然ギルドの扉が激しく開かれ、誰かが叫んだ。

 つい今しがたゴブリンの話をしていたナルシーは、さすがに迷い無き行動力で瞬時に駆け出して行った。


 何人かの冒険者がナルシーの後を追ってギルドを飛び出していくので、グレンも騒ぎに乗じて少し遅れながらもギルドを飛び出した────

 

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