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荒れ狂う冒険者


 ◇◇◇◇◇


「なあ、もうやめようぜ」

「そうです。静かにしてればそのうち落ち着くでしょう。これ以上あなたが暴れたら余計に立場を悪くしますよ」


 ルウラの酒場で自分に悟ったようなセリフを吐いてくる仲間達にレオンは苛立っていた。

 一人は屈強な肉体の大男──大盾持ちのバズ。もう一人は中肉中背の神官服の男、回復担当のベッツだ。


 レオンが彼らと『ヴァルハラ』を結成して既に八年になる。三人は幼い頃から友達だった。

 十六歳になってヴァルハラを結成し、レオンがリーダーとなっても三人の関係は対等だ。


 最近、すぐに揉め事を起こすレオンを見かねた二人が『今日はゆっくり飲みましょう』と慰めるように優しく酒場へ誘ったが。

 今のレオンは、そんな彼らの言葉すら耳に入らない程に苛立っている。


「うるせえ! 全部あの女が悪いんだ! あいつが俺を疑った事で王国騎士まで動き出した。しかも手柄だけ一人占めだ」

「いや、でも彼女に良い格好したくて手伝うって言い出したのは俺達だしな」

「そうですね。それに彼女もあの状況では仕方ないでしょう。それに今は疑いも晴れましたからね」


 何故そんな冷静でいられる? そう思うと、レオンの心の中は余計に苛立ちで溢れた。

 全てはアリアの為だった。


 女一人で荷車運ばせるのは大変だと協力した。

 盗賊に襲われた時も確かに一旦逃げ出したが、その後全力でルウラに戻り人手を集めたのも彼女の為だ。


 だが、結果。悪者扱いしかされなかった。

 レオン達が酒場にいる時、大勢の冒険者の前でアリアは謝罪してきたが、その時すら周囲の者達は「アリアちゃんが謝る事ない」と騒ぎ立てたのだ。


 その後、アリアは王国から盗賊を捕まえた名誉賞をもらったが、正直レオンは納得していなかった。

 盗賊達に気付いた時、既に手傷を追わされていたレオンだったが、万全の状態でもベーチャには勝てたかどうかわからなかった。


 ましてアリアは一人なので、あの人数を拘束出来たのは偶然にすぎないと考えていた。

 アリアを捕えて油断していた盗賊団に〝たまたま〟勝てただけにすぎないのだ。 


 状況が違えば、真っ向から戦ってアリアとヴァルハラでベーチャを捉えられたはずなのだ。

 今頃は自分達だって称賛されていたはずだった。それが全て裏目に出て、挙げ句の果てにはギルドの従業員の方が称賛される始末。

 レオンには屈辱でしかなかった。

 

「いや。許さねえ……。そもそも悪いのはサヴァロンだろ。俺達がこんな扱いを受けるのはおかしい! よし、あの女の口から『ヴァルハラは何も悪くない』って大勢の前で言わせてやるぜっ!」


 レオンの提案に二人は表情を濁し、半ば呆れたようにバズが「いや、さすがにそれはダサいだろ」と答えた。

 ベッツもタメ息混じりに「そうですよレオン。そんなの逆恨みじゃないですか」と続ける。

 二人の言葉を聞き、レオンは裏切られた気分だった。


「お前らなんだ? 俺より女の肩を持つのか? お前らそうやって良い格好してるのかよ!」

「いや、もう少しレオンは冷静になってください。暫くヴァルハラは解散しましょう」

「そうだな。俺もその方がいいと思うぜ。暫く一人で頭を冷やせレオン」


 バズとベッツは残念そうに席を立ち、代金を置いて酒場を出て行った。

 ──なんでこうなる! 彼らの後ろ姿を見て、レオンは激しい憤りを感じていた。

 ふと周囲を見渡すと酒場の人々がレオンを哀れむように見ている。


 そしてときおり聞こえる笑い声。

 それはレオンに向けられたものではないかもしれないが、今のレオンには自分が笑われているように感じた。

 〝ざまぁみろ〟と、そう言われている気がしてレオンはテーブルを激しく叩き付けて店を飛び出した。


「くそっ! あいつらなんか居なくたって、俺一人でもやっていける。ヴァルハラなんて解散で上等だ」


 レオンはすぐ隣にある冒険者ギルドへ入る。

 掲示板に向かうと適当に一つの依頼書を乱暴に取った。

 簡単な討伐依頼だったが、ふと横を見ると相変わらず掲示板の近くに突っ立っている〝ゴミ箱〟と名付けた従業員と目が合った。


「あ? なんだよ、何見てんだゴミ箱」

「い、いえ。何も……見て、ませんよ」


 なにか言ってやりたがったが、周囲の冒険者が〝またか〟といった感じで自分を見ているので、舌打ちしてカウンターへと向かった。


 レオンがカウンターの受付に依頼書を提出すると、受付の女性従業員がオドオドと対応する。

 全てがイライラして、急かすようにカウンターに人差し指をトントンと打つ。

 その行動に女性従業員は更に焦り。依頼書をウッカリ床に落としてしまった。


「テメェ! 俺には依頼すら受けさせねーのかよ!」と、理不尽に切れるレオンに向かって、横から現れたフィルネが一言放った。


「レオン様。いい加減にしてください」


 普段から自分の依頼を受付してくれる専属のような従業員にまでバカにされた感覚に陥ったレオンは、もはや自分を制御出来なかった。


 フィルネの胸ぐらをグイっと掴み、そのまま上へ高く持ち上げた。

 可愛らしいピンクストライプの制服の襟は、恐ろしい絞殺道具と変わり、フィルネの首を締め上げる。

 

 だが、いつも以上に瞳を血走らせる狂戦士染みたレオンの姿に畏怖して、誰も彼を止める事が出来なかった。


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